第二十四章 友への教え
あれから一週間。
今はもう荒野を抜け、平坦な草原をひたすら南に進んでいます。
あと何日かすれば、中間地点となる、学園都市、ウィズミックに到着する予定です。
旅自体は順調なんですが……
カノンがずっと塞ぎこんでしまっています。
ユー爺の死に責任を感じているようです。
昼はがむしゃらに馬をとばし、夜はほとんど眠っていないようです。
顔はどんどんやつれ、目の下のくまも日に日に濃くなっていきます。
私が何を言っても生返事ばかり。
私達の前で涙を見せないのは、せめてもの強がりでしょう。
まぁ、そんな訳で、今は草原に生えていた木の根元で昼の休憩です。
カノンは幹に寄りかかり、流れる雲を見ています。
この木はかなりの樹齢で、巨大なものです。
幹周り20メートルはあるんじゃないでしょうか?
高さもかなりのもので、一番上は首を垂直にしなければ見えない程です。
そして緑豊かな枝の隙間には、様々な鳥達の巣が群れをなしています。
この草原に相応しいですね。
この草原の名はウィンドバード。
草原に吹く風の中を飛ぶ鳥からつけられたそうです。
「……キューィー」
「あぁ、そんな所にいたんですか」
ちょうど目の高さにある一本の枝にある動物がいます。
茶色い毛に被われたイタチのようなリスのような動物、フィエマス。
私の心の世界にいたのも、この子です。
草原に入ってから、どこからともなく現れ、今では旅の一員です。
一緒にいる間、その愛くるしい姿に愛着がわき、フィルという名前までつけてしまいました。
ムーンとは違い、話せませんが、驚く程知能は高く、キチンと言い付けを守ります。
「フィル、どうしたんですか?」
フィルは、手を後ろに回し、なんだかもじもじしています。
「キュイ」
その手をスッと前に出すと、そこには小さな小さな木の実が握られていました。
「……くれるの?」
するとフィルは首だけで肯定の意を示しました。
「ありがとう!」
私の顔が笑みに変わっていくのが自分でもよくわかります。
その後フィルはサッと枝の影に隠れてしまいました。
かわいいやつです。
私は木の実のヘタを摘み、クルクルと回しながらぼんやりと考え事に耽りました。
……結局なんなんですかねぇ……
世界を救う。
今現在の世界の情勢も知らない私が、そんな事出来るんでしょうか?
なんだかシャインに来てからひたすら慌ただしくて、落ち着いて考える暇すらありませんでしたし……
もともと父さんと母さんを蘇らせるために来たんですがねぇ……
なんか出来過ぎてるような気がします。
私が来て、次の日には魔界が開き命を狙われ、来た場所が王家、それもマスターのいる場所なんて……
ハァ……
一体なんなんですかねぇ。
そういえば、前にもこんな考え事をしたことがありましたっけ……
いつだったか……
そう、あれは……
……塔?
あっ!
私の意識レベルは大きくジャンプし、急に頭が回り始めます。
私は塔で思ったんです。
“この国が甘すぎやしないか”と……
少なくとも、セントラルにはそれほどの兵士は見かけませんでした。
普段よりちょっと警戒しとくか位のレベルです。
一体どういうことなんでしょうか……
「……カノン、この国の兵士の事なんですが……」
「……あぁ」
……忘れていました。
例によって生返事。全く聞いていません……
しょうがない。次の街に行けばなんとか解るでしょう。
その街の状況でもだいぶわかりますし……
問題は、こっちですね。
「……カノン、いつまでそうやってショボくれてるつもりですか?いい加減に元に戻りなさい」
私は腰に手をあて、カノンを見下ろしながら言います。
「あなたがショボくれてても何も変わりません。
今この瞬間に、人が殺されてるかもしれないし、家を失った人がいるかもしれないんですよ!」
ゆっくりカノンは顔をこちらに向けます。
よしよし、もう少しです。
「……あなたはこの国の王子様です。
そのあなたが民を見殺しにすると。
はぁ〜ご立派ですね。
なんですか?人が死ぬのが辛い?ならば何故そうやっているんですか?
何故辛いと思う人を減らす努力をしないんですか?
黙ってても何も変わりませんよ?」
言ってる途中から、だんだんとカノンの目に生気が戻ってきました。
あと少し……
「つまり、あなたは逃げてるだけなんです!自分だけが不幸だと思ってる弱虫なんです!」
「言わせておけばぁ!」
「びょひっ!」
私はブチキレたカノンに見事なアッパーカットを喰らわされ、優雅な弧を描きながら飛んで……
……痛い……
まぁだいぶムチャクチャな発言しましたが……
私殴られましたが……
カノンが元気になって良かったですね……
薄れゆく意識の中、最後に見た景色は青い空に流れる、白い雲でした……
完……
ってなるんでしょうねぇ、映画とかなら……