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第二十二章 一瞬の勝利と永遠の悲しみ

ガキィーン!





気がつくと、ここは戦場。


私が自分の世界に入った直後のようです。


私はしゃがんだまま、両腕をあげ、敵の攻撃を受け止めていました。


「……!?」



敵方のどよめきが手に取るようにわかります。

それもその筈。

私は今まで丸腰でした。

しかし、今この瞬間には、武器を手に入れていたからです。

立ち上がり、シャラッと扇子を開き、優雅に両の手を下ろします。


その武器とは、二本の扇子。


名を蓮扇華。


骨を竹、要は金で作られ、 薄い紙に桜色の模様があしらわれています。

互いが互いの対をなすその姿は美しい蓮の花のようです。


「……ガァ!」


敵はとにかく早く私を殺してしまおうと、数で一斉に攻めてきます。


私は口元をつり上げてから、右腕をゆっくりと上げ、左腕を胸の前に持ってきます。


スッ……






「……演舞、凉夏星華」


私を含めて、そこからは全てがスローモーションです。



左手を肘を軸に、空を切るように前に突き出し、右腕は左下に、動かします。


ヒューン……






スパッ!ドサッ……


空気が切り裂かれ、発生した真空の刃が敵を襲い、その体に十字の傷を残します。

血が吹き出す瞬間、赤い星が煌めくように見え、静かな死を迎えさせるのです。

もはやピクリとも動きません。


……殺して……しまいましたか……



先ほど剣で殺した時は、自分も死にそうだったと、自分を慰められましたが、今回は……





「ウラっ!」


ドッ!



後ろからの強い衝撃で前に弾き飛ばされました。

狙われたのは左肩。先ほど敵に切り裂かれた部分です。


……くっ、ようやく血が止まって来たのに!



見事に瘡蓋がむけ、最初以上に血が溢れ出します。




その時、静かで大きな声が、上空から響き渡ったのです。


「……今だ!殺れ!」


その迫力のある声に、私以上に魔物達がビクついているようです。


誰もが攻撃の手を止め、その人物に見入っています。



私は警戒しながらもチラッと声のした方を見ました。


すると、そこには赤髪で赤い番傘を持ち、赤い紋付き袴織りを着た男が浮かんでいました。


靴は履いてなく、足袋に草履と、まるで私の元いた国、境の国の格好です。


何より、まがまがしく、巨大な魔力を全身から放ちながら……


「……ヴァンレラール様……」


どこかでそんな声が呟かれます。




そんな中、一番早く我に返ったのはユー爺でした。


強すぎるこの男を出来るだけ早く倒す。これは正解です。

しかし……



「……彼の者に地の怒りを、破壊の槍を与えたまえ!」



ユー爺の言葉で、カノンがハッとして声を張り上げます。


「やめろ!撃つな!」


「スパイラル!」


カノンの静止は虚しく、ユー爺は魔法を男に向かって放ちました。


ユー爺の直ぐ前の地面が隆起して、どんどん先が尖り、捻れながら男に向かっていきます。


カノンにはわかっていたのです。この男、ヴァンレラールは強すぎると……




「……邪魔だ」


男は手を前に突き出します。


「……倍で返してやるよ」


すると土槍はクルッとターンして倍以上の速度でユー爺へ……


男はニヤリと口元を緩めます。


「あ……」


私は声を漏らすしかできません。








シュパンッ……







ドサッ……











「……爺ぃ!」



カノンが駆け寄ろうとするも、敵に阻まれ、私は世界が崩壊したような気分で崩れ落ちました。


もうユー爺は助かりません……





首が無いんですから……

鋭利な槍先が、ユー爺の首を貫通、切断し、頭を失った胴体からは血が噴水のように吹き出しています。


飛ばされ首は数メートル宙を舞い、重力の法則により落下。

その一連の動きがユー爺の死を象徴しているようです。




親を失った以上の悲しみと苦しみが襲ってきます。


そのとき私の目から一筋の涙が零れ落ちました。

それに続けていくつもの大粒の涙がポタポタと地面に……






遠く、どこからか、カノンの叫び声が聞こえてきました。


「……うわぁぁぁぁ!」


カノンの叫び声と魔物の声、金属音と肉を斬る音。


血煙が遠く離れたここにまで辿り着き、ヒンヤリと私の頬を赤くしていきます。


わかっていたつもりでした。

これは戦争。合法的な殺し合い。


私がさっき殺してしまった敵の仲間も同じ気持ちだったのでしょうか?



魔物だから感じないと思っていました。


ですが、彼らには彼らの生活が、守るべき事が有ったからここにいるのではないか?




私は立ち上がり、指を組みました。

誓いをたてるために……




「……我、この魂に誓う。我、殺さず。何があっても。

二度と殺さない事を、ここに誓う!」


敵を傷つけても、絶対に殺さない。





何があっても……







数分後、周りにいたはずの魔物は、いつの間にか消え去り、カノンは全てを無にしていました。


ヴァンレラールもどこかに消えてしまいました。





私達は何も言わず、穴を掘り始めました。ユー爺の為に。


ある程度掘り終わると、亡骸を入れ、祈りを捧げました。



「……ユー爺、あなたの事は忘れない。あなたは私達を守ってくれた。私達の心に大きな盾をくれた。古の頃よりの生物の宿命をまっとうしたあなたを、この地に残す事をお許し下さい……」


私、カノン、ムーンはそれぞれ祈りを捧げました。

その後、厳かに土をかけ、ユー爺の旅立ちとしたのです。


もちろん、ユー爺の身の回りの品も一緒に入れました。




こんもりと盛った土に、私の剣一本、ユー爺の長剣、カノンの剣を墓標代わりに突き刺し、ムーンが探してきた花を添えます。





「……行くか……」

カノンが歯を食いしばって声を漏らします。


「……あ、待って下さい」



私は思いつく事があって、お墓の前に立ちました。


「……風よ、集え。

光よ、彼の者を輪廻に乗せるならば、光安らかな世に戻したまえ……」



キンッという軽快な音と共に、墓標とした剣に文字が刻まれます。


“古の知恵、光の下に眠る”と……



カノンは真上を向いています。


まばたきの回数が異常に多いのは気のせいではないでしょう。





「……わかってたつもりなのにな……戦争なんだって……」



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