第二十一章 安らぎの場所
いやぁ……素晴らしいですねぇ……
日がな一日、のんびりと草原に横になり、流れる雲に心を奪われていると、今までの戦いがどうでもいいものに感じられます。
……境の国に恩は無いですし……
素晴らしいですねぇ……
もう、どれくらいこうしてるんでしょう?
?三日?一週間?1ヶ月?一年?
まぁ、なんだっていいですけどねぇ……
まったぁり……
癒やされますねぇ……
あぁ、砂時計?
全然砂なんてなくならないんですよ。
でもゆっくり減っていますがね〜
時々吹く風が、ほんわかした日差しとあいまって、絶妙に眠気を誘います。
この世界の夜は、黄色い月と、それより一回り大きな赤い月とが交互に昇ります。
赤い月の時には魔力が強く感じられ、逆に黄色い月の時には、弱く感じられるのです。
あぁでも、夜がすぐに来たり、ず〜っと待ってても来なかったりと、この世界は適当ですね。
あ、あの雲!
ショートケーキみたいですね。
あ、あれはアイスクリームですね。
「……ルル。いい加減に戻ってあげるニャ」
え?
飛び起き、辺りを見回してみますが、誰もいません。
……おかしいですねぇ。確かに……そう、ムーンの声が聞こえた気がしたんですが……
「……ここニャ」
ここって?
未だわからず、キョロキョロと首を回しているのにも関わらず、ムーンはいません。
「どこですか?」
「……だから、砂時計の上ニャ!」
見上げると、そこには、およそムーンには見えない動物がいました。
何でしょう?イタチのような、リスのような……
「……違うニャ、僕はこっちニャ!」
その動物から2メートルくらい離れた所に、見慣れた毛だるまが、ブスッと座っていました。
「……ムーン。なんだか久しぶりですね?さぁ、私と一緒にお昼寝でも?」
ところがムーンは私を呆れたような目で見据えていいました。
「……ここは天国じゃないニャ。
はぁ……始めから説明するニャ……」
「……?」
ムーンはゆっくりと、落ち着いて話し始めました。
「……まず、ここは天国じゃないし、シャインでもないニャ。もちろん、魔界じゃないニャ。
ここはルルの心の最も深い場所。言うなれば、ルルの魔力の原点ニャ。
この場所は誰もが持っているんだけど、普通は気づかないニャ。
気づける才能を持つ者。それがマスターなのニャ。
マスターは自分の真の心を知っているから、魔力が強いのニャ。
……この風景は、ルルが最も幸せに感じる風景ニャ。
ここからルルを“見定める”事も出来るけど、今は止めとくニャ。
で、言い忘れたけど、ルルは死んでない。自分の内側に閉じこもってるだけなのニャ。
こっちの時間はルルが決めているから、実際、シャインでは時間は一秒たりとも経っていないのニャ」
……じゃ……私は……生きてるの?
「ルルは何故自分がここにいるかを考えるニャ。それを実行しない限りシャインには戻れない。
逆に実行するまではルルは安全だけどニャ」
なるほど……だからムーンは来たのですね。
私を怠けさせないように……
戦いを忘れないように……
「……あの……その砂時計は?」
ずっと気になっていたんです。
私の奥底に砂時計があるのが。
砂時計は時間の象徴であり、対比の象徴でもあります。
私の中で何と何を対比するのか?
それが疑問の“種”になっていたのです。
「……この砂時計の理由。それはボクにもわからないニャ。
ここはルルの世界。ルルにしかわからない、ルルが神様の世界ニャ」
「……ムーンはどうやってここに?」
私の質問に、ようやくムーンは微笑みました。
「知る時は、自ずと来る、ニャ」
良いように、はぐらかされたようですが……まぁ、いいでしょう。
私は目をつむり、瞑想を初めます。
自分の中の何かを知るために……
……ここは私の世界。
……ここは私の心。
……私は何故ここにいるのか?
私は何をしようとしているのか?
瞑想を深めていけばいく程、自分以外の物がとても美しく、輝いているように感じられます。
草原の草、一本一本にも淡い光が宿っています。
すぐ近くにある大きな光の塊は、ムーンとあの動物ですね。
光がより一段と強く感じられた時、私は先ほどの疑問を繰り返しました。
“私は何をしようとしているのか?”
ヒューッ……
一陣の柔らかな風が髪を撫でていきます。
草々も風の行く先を指差すのが、光の動きで感じられます。
スッ……
私は目を閉じたまま、手を前に出しました。
理由を問われれば、ただなんとなくとしか言えません。
でも、何故か手を出さなきゃいけなく感じられたんです。
そして“何か”を掴むように指を折り曲げると、“何か”に触れました。
目はまだ開けません。開けたら全てが崩壊する気がしたからです。
その“何か”を掴むと、ゆっくりと腕を胸の前に持っていきます。
この“何か”からは光を感じませんが、強い波動を感じます。
ドン……ドン……
“何か”自体は全く動いていないのに脈打ち、何かを待っているようです。
今まで聞こえていた風の音は、その波動でかき消され、頭の中は真っ白になります。
ドクン……ドクン……
あ……もしかして……
その波動が私の心拍と同じリズムだと気づき、ようやく目を開ける覚悟ができました。
私はわかっています。目を開けたら、もう此処では休めない。
再び戦いの地へ戻らなければならないと……
ゆっくり、目を開けると、金色の強い光が私の目を覆います。
今までいたはずの草原とムーンは消え去り、私と砂時計と動物だけが、その金色の空間に浮かんでいます。
……これが……私の……心?
今向いてるのが、上か下かもわからないその空間では私は、さながら宇宙に飛び出した宇宙飛行士のようです。
「キューィー」
私の頭上5メートルにいたあの動物は、グルグルと回転しながら、こっちだと言わんばかりに鳴き始めます。
そのまま、前足で必死に空を掻き、私の足の遥か下方をめがけて進んで行きました。