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第十九章 ピース先生の魔法指南書

砂漠も半分を越えると、だいぶ落ち着いてきて、今は荒野に近い地形です。



岩があちらこちらに散らばり、サボテンも見かける事が多くなってきました。



ドドッ、ドドッ、ドドッ、ドドッ……




馬の規則正しい足音が、荒野に砂煙と共に響き渡っています。


昼の空は青く、雲が浮かび、穏やかな気候になってきています。


あのラリー砂漠の灼熱地獄が嘘のようです。



遥か東には、うっすらと山々が連なっているのも確認できます。



ドドッ、ドドッ、ドドッ、ドドッ……



「……ルル様、あそこの井戸で一旦休みましょう」


ユー爺は馬を私に寄せてきながら私に言いました。


「……そうですね」

太陽は高く、今が昼時だと告げています。


「じゃあ俺は辺りを確認してくるから。先に行っててくれ」


カノンは手綱を左に引き、私達から離れて行きました。



休んでいるのを見計らって、敵が奇襲をかけてこないか、待ち伏せはないかのチェックです。


こういう何気ない瞬間に、私は世界の危機を実感するのです。


井戸は石造りで、いつできたのかわからない位古めかしいものでした。


しかし今でもそれが健在だという雰囲気が漂っています。



ユー爺は馬から降りると、井戸の中を確認しました。


実際に水が入っていない事が多くあったので、この瞬間はとても緊張します。



でも、その不安は、ユー爺の笑顔によって吹き飛ばされました。


「……水はたっぷりありますよ」



ですがすぐには飲めません。


カノンに水に毒がないのかを確かめてもらわなければ……



今まで敵にこそ会わなかったものの、これからはわかりませんからね。


ユー爺はカノンを待つ間、馬に飼い葉をやり、私は馬の背から、一冊の革張りの本を取り出しました。


これはピースさんにいただいた本で、魔法がなんたるかが書いてあるらしいです。


ムーンは馬の日影で横になり、グテェ〜っとしています。



本を紐解き、第一ページに目を落とすと……


“ピース先生の魔法指南書”









自分で先生つけますか?


本に関しては、最後に転載禁止と書いてあったので……



察して下さい。



まぁ、要約すると、私が知っている事から初めて知った事まで様々でした。


16ページまで来て、だいぶ内容が理解出来た頃……



ドドッ、ドドッ、ドドッ、ドドッ……


私は馬の音に気づき、顔を上げます。

どうやらカノンが帰ってきたようです。

ですが、何か様子が変です。

「……大変だ!」



カノンは血相を変えて馬から飛び降りました。



その様子にユー爺は落ち着かせるような声でカノンにいいました。

「どうした?敵か?」


「……ハァ……ハァ……いや、敵じゃない」


息も絶え絶えです。

「……じゃあ何故そんな焦ってるんじゃ?」


カノンは一瞬迷ってから馬の背にかかっていた毛布を退かしながらいいました。

「……百聞は一見にしかずだ。驚くなよ……





……エルフだ」




毛布の下からは耳が尖り、気絶した美女?がでできました。


銀の綺麗な長い髪から判断したのですが、中性的な顔立ちたので、男か女かわかりません。


ただ、見た目は明らかに私より年上のお姉さんです。


よく見ると、このエルフさんには、細かい傷が沢山ありました。


薄く切られたような傷や、矢で射ぬかれたような傷がいたるところに見受けられます。


「……どういうことですか?この傷……」


「……だいたい500メートル先に大量のオークの死体が転がってた。


恐らく襲われたんだろう」


気づきませんでしたが、エルフさんの服には、血が飛んでいます。




馬からエルフさんを降ろしたあと、ユー爺は薬を取り出し、エルフさんの口に含ませました。

そしてエルフさんのと思われる弓や剣は外し、なるべく日の当たらない岩陰にエルフさんを寝かせました。



地図によるとこの先の荒野は短いですが、待ち伏せに最適らしいので、今日はここで止まり、明日一気に荒野を突っ切る事になりました。



ユー爺は私たちに今日は家は無しだと伝えました。

目立ち過ぎるから、と……


この知らせに誰よりもムーンが落胆していました。

まぁ、私もですがね。


それと、カノンに水を調べてもらいましたが、毒は入っていないようです。


そして、まだ日の暮れぬ頃、あの忌まわしい時間がやってきたのでした。


そう、カノンとのバトルです……


今日は魔法オンリーのバトルです。


ただし、魔法を利用した打撃もアリですがね。



「……じゃぁ、開始」


挨拶するような、すごく自然な感じで言われたので、反応が一瞬遅れました……

その一瞬でカノンは魔力を練り上げ、氷刃を数本作り出します。


「……これが、俺の具現化した魔力だ」

や、やばい……

目がマジです……


ですが、私だって、伊達にピース先生の魔法指南書を読んだ訳じゃありません。

私はロングコートの内ポケットから、一枚の札を取り出しました。

そこには魔方陣が描かれています。


これが私の秘策です。


「……行くぞ!」


言うがはやいか、カノンは刃の半分を私に向けて飛ばしてきます。


「風よ、纏いて、敵を打て“エアバウンド”


光よ、神速の矢をここに!“アローンアロー”」


いつもの呪文の他に、新しく光の呪文も使ってみました。


エアバウンドが刃とぶつかり合って、ブリザードのごとく吹き荒れます。


その嵐の中を、私の矢が神速で飛んでいきます。


ただ、アローンアローは名前の通り、一本しか出現させられません。

何故なら、特殊効果が有るからです。


カノンに矢が当たる、その直前。

その特殊効果を今!


「……光よ、解き放て」


アローンアローの特殊効果、それは対象にだけの目くらまし。


「うっ……」


カノンは目を手で覆っています。

フフッ……隙ありです。


私は、札をカノンに向かって投げ飛ばしました。

もちろん魔力を込めて。


札はカノンに当たると、カノンを中心とした地面に緑色の魔方陣を浮かび上がらせます。



スー……ゴォ―……ブワァ……



最初はゆっくりと、そして徐々に速く風が吹きます。


今では風の渦が天高くそびえています。そう、嵐です。今度は風だけですが……


「……う……わ……」

カノンの体が風に耐えきれずに浮き上がり、そのまま遥か上空に飛んでいきます。


フフッ、今回は私の勝ちですね。

カノンめ、ざまぁみやがれです。


「……お前は馬鹿か?」


「馬鹿はカノンです。



……え?」


「……砕け散れ」

いつの間にか私の後ろにカノンが……


そして指をクイッと折り曲げています。


ゴッ……



私の後頭部に衝撃が……


あ……れ、前が……見……え……



「……バ〜カ」


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