第十七章 暁は登り……
なんか、お久しぶりですね?
そう感じるのは私だけですかね?
……はい、そんな訳で私達は今、街で買い物をしています。
お金は全て王様のポケットから……
ふっふっふっ……
こんな状況じゃなきゃ、市場ごと買い取りますよ。残念です……
この市場、なんかゲームの中にいるみたいです。
もちろん、普通に果物屋さんとか、お魚屋さんとかもあります。
ありますケド……
普通に武器や防具売ってますよ……
それを見ているのはお決まりのゴツいおじさんばかりです。
私も短剣をカノンと選びに来たんですが……
刃物なんて扱えないのに……
「……う〜ん。コレかな?いや、こっちの方が軽いし……
でもデザインは……
やっぱり切れ味重視か?
おい、“ルー”どれがいい?」
カノンが私をルーと呼んだのには訳があります。
いくら平和な国とはいえ、敵のスパイがどこにいるのかわからない為、だそうです。
「……そうだね。ボクはコレが良いと思う」
私が選んだのは、刃渡り約50センチ程で片刃のシンプルな作りの物です。
パッと見で決めてしまいましたが、なかなか気に入りました。
鞘も柄も白ですが、刃だけは日に当たると銀色に光って綺麗です。
「……おっ!兄ちゃん、お目が高いねぇ〜。
それはドワーフ族が鍛えたミスリルで出来てんだ。アイツ等にしては珍しく、シンプルな作りだろ?
だが見てくれよ、この見事な曲線美。まさ……」
店のおじさんのマシンガントークでいつの間にかギャラリーが……
カッ、カノン……
助けて下さい……
「……じゃあそれにするか、ルー。
いくらだ?」
カノンがトークを遮ってくれました。
カノンに後光がさして見えます。
「……ん〜24500Gだな」
ちなみに100Gで、庶民はお昼ご飯が食べられます。
「……」
「わかった。じゃあコレで……」
王様の凄さを実感した瞬間です……
境の国の貨幣価値にしたらいくらになるんでしょうか……?「……」
シーン……
「……は?」
店の中はカノンの一言で静まり返りました。その静寂を破ったのは店のおじさんです。
「……だから、買うって」
「……おいおい、兄ちゃん。大人をからかっちゃいけないよ?
すまねぇな。いやぁ、なかなか面白かったぜ?なぁみんなぁ。ハッハッハッ……」
店のおじさんは他のお客さんの笑いを誘います。
しかし、カノンにはそれが不快だったようで……
「……二本貰う。釣りはいらない。
……じゃあな」
カノンは短剣を2本ひっつかみ、ポケットから札束を沢山積み重ねて出て行きました。
……店長もポカンと口をだらしなく開け、札束と私を交互に見てきます。
「……あ、じゃぁ、どうも……」
なんとなく居づらくなり、私は逃げるように店を出ました。
あの店、今日だけで何年分稼いだんでしょう?
忘れましょう……
今の事は忘れましょう……未来永劫忘れましょう。
さて、カノンはどこでしょうかね……?
とりあえず通りを挟んだ所にある公園、ハイドに行ってみます。
公園と言っても、ブランコや滑り台はありません。
遊歩道や芝生が広がり、面積は王宮と同じ位だというから驚きです。
そんなハイドの中央に位置する噴水にカノンはいました。
遠くから見てもイライラしているのがわかります。
はぁ……
「……カノ〜ン!」
呼び掛けてみます。
するとカノンは、ひたすら申し訳ないと言うような顔で近づいて来ました。
「……ホンット悪ぃ……
あんなに周囲の目を引くのを気にしてたのに……」
あぁ、なるほど……
「大丈夫ですよ。
そんな事より、さぁ、早く剣を見せて下さい!」
そう、私の関心は既にカノンでは無く、剣に向けられていたのです。
あまりジックリ見れずにカノンが買い占めてしまい(店には2本しか無かったんです)、私は殆ど見て無いんです。
「……あぁ、コレか。俺が見ても、かなりの逸品だな……」カノンは脇に抱えていた短剣を私に差し出しました。
いやぁ〜、二本買って正解ですね。片方だけでも惹かれますが、二本あるとバランスが最高です。
カノンが買い占めて(店には二本しか無かったんです)直ぐに出て行ったせいでキチンと見ていなかったんですが、鞘には細か〜く羽根のレリーフが。
「……よし、さっそく装備してみようか?」
カノン、なんてあなたは気が利くんですか!
カノンは2本の黒いベルトをどこからともなく出現させました。
「じゃあコレを腰にクロスさせるように巻いて?
あっ、ベルトあるじゃん。コレをこっちと交換。
……うん、そう」
なんかカッコイいですね。絵描きさんに頼みたい位です。
腰に巻いたベルトには仕掛けがあり、剣を吊れるようになっていました。
「……じゃあ後は、自分で抜きやすい位置に調整すれば大丈夫だ。
剣の扱い方は……毎晩訓練するとして。
他の装備を買って帰るか……」
毎晩……毎晩!?
毎日魔法の練習するようにピースさんから言われてるんですが……
はぁ……
……さぁ、次は体力回復薬だの魔力回復薬だのですね?
気を取り直して行きましょう!
「……あっ、先に言っとくけど、魔力回復薬なんて無いから。体力ならあるけど……」
カノン……あなたはエスパーですか?
私の表情を伺ってから、カノンの講義が……
定番の腰に左手を当て、右手で私を指差しながら……
「……いいか?何度も言うけど、魔力とは思いが具現化するような事だからな?
だから、思念が回復する薬なんて有るわけ無いだろ」
確かにそうですけど……
なんかとても萎えましたね、気分が。
「……わかりました。じゃぁ、他の物を買いに行きましょう……」
そして私とカノンは再び市場まで歩き始めました。
なんか色んな意味で戦いが始まる予感が……
数分後……
「おぃオッサン!釣り誤魔化そうったって、そうはいかね〜ぞ!」
……始まりました。
第二次市場戦争勃発です……
私がトイレに行っている間に……
「……すみません、何か有ったんですか?」
私は近くで見物していたオバサンに聞きました。
「……おや、お兄ちゃん。
それがねぇ、あそこにいる子がポーション買ったんだよ。
そしたら店の人が50S誤魔化したらしいんだよ」
Sというのは、お金の単位です。
1000Sで1G。覚えやすいですね。
それにしても……
短剣にはあれだけ注ぎ込んだのに……
つくづくカノン、いえ王族はわかりませんね……
「……いやぁ〜全く、店の人も店の人だけど、あの子も細かいね〜。
あんたはどう思う?」
確かに……
このオバサン、正論ですね。
ただ者じゃないです。
ハァ……
止めて来ますか……
私はギャラリーの間を縫い、何とかカノンに近づきました。何とか間を縫ってギャラリーの一番前まで到着……
さて、どう止めますか……
あぁ、私の頭に天使が舞い降りました。めちゃめちゃグッドアイデアです。
早速使ってみましょう!
「……風よ、彼の者に纏いて天へと運べ。“エア・ストリーム”」
私の久しぶりの魔法です。
実際は昨日使ったばかりですが……
詠唱を終えるや否や、カノンは高く、高ぁ〜く浮き上がり、そのまま空へと消えていきました。
あっ……着地はどうするんでしょう……?
まぁカノンなら死にませんね。
きっと……
それから私はポーションを受け取り、王宮への帰路につきました。
店の人は平謝りでポーションをタダ同然にまでしてくれました。
案外良い人ですね。でも、何故か引きつった笑みを浮かべてましたが……
その頃、王宮では私達の食料準備や馬など、基本的な旅支度が整えられていました。
あとで聞いた話ですが、ピースさんには王様が直接伝えて下さったらしいです。
ピースさんは、最後まで教えられなかったのが悔しいと、しきりに騒いでいたようですが……
私の王宮到着後、カノンもびしょ濡れで帰ってきました。
「……噴水に落ちた……
死ぬかと思った……」
これだけ言って眠りこけてしまいました。まったく、だらしない!
まぁ、何だかんだ言って、もうすぐ命懸けの戦いが始まるんですね。
魔界との戦争ですか……
私は何となく一人になりたくて、城の展望台に向かいました。展望台は、この街で一番高く、一番古い物だそうです。
展望台を囲むように、城が建てられ、その周りに街が作られていきました。
それほどの古さを全く感じさせない、美しい外観を今でも誇っています。
内部にはいたるところに様々な精霊像が置かれ、この街を守っているらしいです。
と、まぁ、今日街にあった案内板からの受け売りですけどね。
「……でも、改装すらしてないなんて……」
これは、街の人に聞いたんですが、未だかつて一度も改装すらしてないと……
だから、展望台が崩れる時は、世界が滅びるという伝説があるらしいです。
「……んな訳ないじゃないですか……」
一人でぶつぶつ喋っていたら、ただの変人ですね……
自重します。
さぁ、あの角を曲がれば中庭です。
そしてその先が展望台。
私は曲がると同時に言葉を失いました。
展望台なんて生易しい名前はこの“塔”には合いません。
この壮大で、優雅で、力強い。
そんな塔ですね。
よし、私はこれから、展望台を“塔”と呼びます。
呼ばさせていただきます。
塔の周り、つまり中庭は芝生になっていて、塔から四方向にそれぞれ小道が出ています。
私はその道を一歩一歩、塔に近づいていきす。
そして、その一歩一歩に、私は違和感を覚えました。
その違和感とは、感情の変化です。
ある一歩は喜びを、ある一歩は悲しみを、そしてまたある一歩は怒りを呼び起こします。
その歩みを終え、塔にたどり着いて時には、私は疲れきっていました。
一人になりたくて、ここまで来たんですが……
まぁ、せっかくここまで来たんですから、上まで行ってみますか……
塔の中央には、なんだかよくわからない木の石像。
そして壁には階段があり、塔の内側面を螺旋で上へと渦巻いています。
「……高い」
外からはあまり感じませんでしたが、中から上を見上げると、吹き抜けのせいかとても高く感じます。
「……階段……めんどくさいですね……」
……飛びますか。
私は金色の翼を広げて羽ばたき、最上階へと(実際は2階ですが)ひとっ飛びで到着です。
「……シルフ?」
変ですねぇ。セントラルに来てから、呼び掛けても応えてくれないんですよ。「うわぁ……」
流石、展望台と呼ばれるだけあって、そこからの眺めはまさに圧巻でした。
辺りは一面の闇。
その中央、つまりこの街が闇を切り裂いて光輝き、美しいです。
ただ唯一残念なのが、全てが光輝くこの街で、暗い、光の当たらない場所を見つけてしまいました。
それは……
ここです。
周りには光が満ちているのに、この塔だけは光が当たっていないのです。
光の中の闇。
はぁ……
忘れていました。明日からの旅を。
前回のセントラルまでの旅の大半を、私は気を失っていたので、今回が初めてと言えるでしょう。
今、この瞬間に何人の人が殺されているのか。
どの辺りまで敵が来ているのか。
そこで、ふと私は疑問を持ちました。
“この国が甘すぎないか”と……
敵が侵入。なおかつ、既に村が消えている現状。
それなのに私の知る限り、この“王都”を守る兵は手薄。
そして、私の存在。
何かが出来過ぎている?
国の中枢が敵に操られているのでしょうか?
それとも、ただの思い過ごしでしょうか?
それとも……
ザッ、ザザァッ……
「……風、水、土、制圧完了。……火へ移行する」
ルルが塔で眠りに落ちた頃、とある街から発信があった。
しかし、“空間”を飛び越えるほどの力を持ったその発信には誰も気づく事はなかった。
なぜなら、その魔法には、属性がなかったから……「……ル。ルル」
……ぬ〜
「お〜き〜ろ〜」
ハッ……
「……お、おはようございます」
反射的に言いましたが、あなたは誰ですか?
私はまだ目が開ききらないので目をこすりながら立ち上がります。
「……なんでこんな所で寝てんだよ!」
あぁ、カノンですね?
ようやく頭が覚醒してきました。
……あれ?
「……ここはどこですか?」
そう、ここは塔ではなく、庭園の噴水横でした。
キョロキョロしている私を、余程頭をおかしくしたのかというような目でカノンが見てきます。
「……お前……バカだろ?」
えっ、でも確かに……
「私、確か展望台にいたんじゃ……?」
「展望台は立ち入り禁止だぞ?何寝ぼけてんだ?」
じゃあ、アレは夢だったんでしょうか……
「……サッサと頭を呼び戻せよ。
……夜の内に出発だからな。うちの父上様に会いに行くんだぞ」
カノンの小馬鹿にしたような口調に軽くイラッときながら、なるべく身だしなみを整えます。
「……じゃあ行くか?」
「……はぁ……
今何時ですか?」
夢の中は明るかったので、時間の感覚が……
「……2時だ。夜のな。
ほら時間が無いんだ。行くぞ」
言い終わるや否や、カノンはスタスタと城に向かって歩いて行ってしまいました。
「……行きますか」
「……で?」
はい?
カノンが歩きながら振り返って私に突然問い掛けてきました。
突然過ぎて、全く見当がつきません。
「……“で”って何ですか?」
逆に私が聞き返すとカノンが呆れたように言いました。
「……“で”って言いたくもなるだろ……?
一体何であんな所で寝てんだよ?
それから昼間の事謝れよな!」
あぁ〜そんな事もありましたね。
魔法使いなんだから、簡単に着地できると思ったんですが……
カノンって案外ショボショボボーイなのかもしれないですね。
当然謝る気持ちは毛頭ありませんよ。
私は止めただけですから。
あっ、カノン高い所苦手でしたね。だからあんなに……
あと、何であんな所で寝ていたのかと問われれば……
「……何で寝てたんでしょうか?」
「……はぁ」
カノンは何を言っても無駄だと判断したようです。
それ以後、話しかけてはきませんでした。
夜の2時だというのに、城の中の人は皆さん忙しなく活動しています。
あちらでは掃除を、こちらでは洗濯物を抱えて。
皆さん大変ですねぇ。でも私達を見つけると嫌な顔一つしないで笑顔で挨拶してくれます。
メイドさんの鏡ですね。
「……お〜い、どこまで行くんだ?」
かなり後ろからカノンの声が。
あっ、しまった……考え事に夢中で、王様の部屋を通り過ぎてしまいました。
ダッシュで戻ります。
するとカノンがこちらをチラ見して、溜め息を……
「……なんですか?」
「いや、別に……
じゃ、入るぞ?」
別にって……
カノンはサッサとノックもせずに扉を開けて入ってしまいました。
私も後に続きます。
中には王様とユー爺と……
「……遅かったニャ」
なんでムーンが?
まぁ置いときましょう。
とりあえず無視して、王様に向き直ります。
「ニャ!?」
「……王様、遅れてすみません。
夜の内に出発だそうで……」
「そうです、ルル様。夜の内に出発していただいて、明朝、民には“魔界の侵略”についてだけ伝えます」
「……と、言いますと?」
王様は申し訳なさそうに言いました。
「民には軍が魔物と戦っていると嘘の報告をします。つまり国としてルル様の存在を抹消します。それにより、ルル様は自由に行動できますし、敵にルル様の情報は渡らなくなります。民は何も知らないのですから。
ただし、民を戦いに巻き込まねばならなち状態の時には、ルル様の事を公に致します」
なるほど。確かにそうですね。
基本、私達は“ただの”旅人になれます。
有事には公表し、民の士気を上げると……
逆に考えると私達は完全に国側から離れ、情報交換は出来なくなりますね……
すると……やはり……
「内通者を恐れいるんですか?」
カノンはハッとしますが、王様、ユー爺は顔色を変えません。
「お気づきでしたか?」
「おい、どういう事だ?」
王様、カノンの真逆の発言にどう応えるかちょっと迷いました。
私の考えを話すのが一番早いですかね。「まず、国の防備が甘すぎます。私が知っているのでも、既に村が消えています。
恐らく、今はもっと消されているでしょう。それに伴って国民も虐殺されている筈です。カノン、これが現実です。
それなのに、全く街の連携がはかられていません。
つまり、誰かが邪魔をしているんです。事情を知っている誰かが……」
カノンは途中まで何か言いたそうでしたが、今はうなだれています。
「……ボクが調べてもそうだったニャ」
この街で最近の事情をムーンほど知っている人もいないでしょう。
猫だということに油断して、みんな色々と教えてくれるらしいですから。
「……全て、お察しの通りです。
街一つならなんとか隔離するのも可能やもしれませんが、国レベルでとなると……」
……議会レベルですかね?
でも何故でしょう。あの塔の夢を見てから“読み”が当たりまくりです。
占い師になった方が良かったですね。
まぁ、冗談はここまでにして。
「……じゃ…行きますか?」
「……そうじゃな。早くしないと夜が明けてしまうからの」
初めてユー爺が口を開きました。
「……各々準備は出来ているんだろう?
こちらで馬を用意しておくから、使って欲しい」
私の場合、準備する物がほとんどなかったですね。
一応、買い物に出る前にロープ、ナイフ、マッチ、毛布を準備しましたが、それだけです。
食料は全て粘土のような携帯食料で、インスタントウィザードに入れてあります。
「……そうだ。これも持って行って欲しい」
王様は私達に一つずつ、もちろんムーンにも金のネックレスを差し出しました。
「そなたらの旅が、何事もなく、無事に済むように祈っている……」
私はネックレスをつけて、王様に向き直ります。
「行って来ます。
“ラ・ワヤマ・カタラヤフ”」
「……何ですか?その言葉は」
王様の怪訝そうな顔に私ではなく、ムーンが答えてくれました。
私も意識せずに口から出た、知らない言葉でしたから、助かりましたが。
「……“あなたの御代に平安を。素晴らしい幸福を祈っている”って意味ニャ」それから数分後、私達は城門前広場にいました。
そこで、王様とお別れです。衛兵さん達は下がらせています。
「……義父さん。彼らを頼みますね。
カノン、私はお前のような子を持った事を誇りに思っている」
「“持った”って過去形にすんなよ」
苦笑いしながらカノンが言います。
「……そうだな。必ず、帰って来いよ?
ルル様。ムーン。あなた方に幸多からん事を祈ってます」
「「……ありがとうございます、王様」」
私とムーンは同じ言葉を同時に言ってしまいました。
そして顔を見合わせると、微笑みが生まれたのです。戦いになるでしょう。しかし、私達は進まねばならなかったのです。