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第一章 伝説は語られる


「いいかい?カノン。聞いているのかい?」


ここは光の国、シャイン。魔法が満ち溢れ、そして魔法がすべてを動かしている世界。そんな世界の山奥、ヴェルダ山脈にカノンはいた。


「聞いてるよ、ユー爺。ってか、その話、何回も聞いてるから…」


ユー爺と呼ばれたその男は、見事な白髪、白ひげをたたえ、黒のローブを着ていた。

一方のカノンは、まだ若く、青年よりは少年という雰囲気だが、ユー爺と同じく、黒のローブを着ていた。

「はぁ…」

ユー爺は、ため息をついた。そして聞き分けの悪い子どもに言い含めるように言った。

「よいかカノン。これは大事な話なのじゃ。その話とはじゃな…」


また始まったよ…もう何回も聞いてるってのに…


カノンはうんざりしていた。

幼いころから幾度となく聞かされ続けた御伽噺だ。





 かつて、一人の偉大な魔法使いがいた。

 その魔法使いは偉大だが、悪の色に染まっていた。染まりきっていた。

 魔界を開こうとしたり、人身を惑わせたりして、この国を自らの手中に納めようとしていたのだ。

 だが、そのすべてを、寸でのところで三人の賢者が阻止していたのだった。


三賢者はこのままでは、と思い、この魔法使いを滅ぼそうと考えた。

激闘に次ぐ激闘で何とか相手に膝をつかせた。

だが、敵もさるもの。手に入れられなければ、用はないといわんばかりにある呪文を唱えた。

「我が命、その全てををもって命ず。大地よ、その意味を知れ」


呪文を唱えた後、魔法使いは消滅した。一片の欠片すら残さずに…

賢者達には何が起きたのか分からなかった。

だが、次の瞬間、大地が揺れ動いた。否。大地がバラバラになっていくのを感じた。

地面はひび割れ、舞い上がり、空に消えていった。


「我らに眠る、内なる力よ。我らが呼びかけに応えよ!!!」


詠唱と共に、地震は止んだ。そして大地も少し、また少しと戻り始めた。

しかし、完全ではなかった。

賢者達の魔力がもっと強ければ、年齢がもっと若ければ、今まで戦っていなければ、世界は完全だったかも知れない。

だが結果的に大地は戻らず、三賢者も死んだ。

誰もがそう思った。





時は経ち、人々は平安を取り戻していた。

そんな時、一人の賢者が帰ってきた。アーヴィング家の者だった。疑う民衆にアーヴィングは賢者たる事を証明した。賢者の昔の友人達も間違いないと証言した。


恐らく、呪文を発動するだけの魔力は残っていなかったのだろう。

だから彼は生きているのだ、ということになった。


仲間を死なせ、自分だけ生き残ってしまったことに、賢者は自分を責めた。

民衆も失った大地にいた人々を思い、嘆き悲しんでいた。


ある日、賢者は民衆に言った、扉を作ると。

その扉を使えば、失った大地と行き来できると。



だが、物事は簡単には終わらない。

 異空間に飛ばされた大地に扉を作ることはおろか、魔力を届かすことも神がかり的なことだ。

 作れない可能性の方が遥かに高いし、仮に作れたとしてもそれが使えるかはわからない。

 

 それに使うには両側から魔力を供給していなければならないなどの、厳しい制約があった。

 だが、アーヴィングは作った。

 自分の命と代償に…


 その扉は今なおこの世界のどこかにあると言われている。








という話だ。この話をひたすらユー爺は話し続けている。よく飽きないもんだ。


「・・・・・・・・・というわけでな。ちなみに・・・・」


あれ?おかしいな。いつもならここで終わりなのに・・・・・


「な〜ユー爺。ここで終わりじゃないのか?」


俺の質問にはまったく答えずにユー爺は続けようとする。


「シカトかよ、クソジジィ…」

「誰がクソジジィかぁ!」


どうやら悪口だけははっきり聞こえるしい。


「まったく…なんだと思っとるんじゃ。えーと、どこまで話したか…。おぉ、そうじゃ。

人々は悲しんだ。その飛び去った大地には村があったからの。

村の名はヤマト。剣術で有名な村じゃったらしい。村人は皆、卓越した剣の使い手で、逆に魔術を扱えるものは、そういなかったらしいの」


…爺ぃ、どっからその情報を?


俺の顔から判断したのかユー爺はいった。


「村のバーのバーテンじゃ。まったくもって残念じゃ。その村には美人が多かったらしいからの」


このエロジジィ…







ところ変わって、ユー爺が話を聞いたという村のバー、狩人の酒場。


今は時間的に一番栄えているはずだが、客はまばらだった。


壁には喧騒の後がしっかりと刻み込まれ、ライトはなく、蝋燭が魔法で宙に浮いているだけでひどく薄暗い。

もし、カノンが事実を確かめるために、ユー爺に店の名前をきちんと聞いていれば、この物語はこんなにも長くはならなかったはずだ。

しかし、ユー爺は違うバーの名前をカノンに教えてしまったのだ。


店のバーテンはきっとこう答えただろう。

「えっ?あの爺さんに話したのは俺じゃないぜ?真っ黒のマントを着たやつだったかな?孫に話せば、喜ばれるぞっつってな」









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