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悲しみ滲む傷  作者: みつ
1/1

プロローグ


始まりは新聞部による、来月の学級新聞

記事の何気ない話し合いだった。

どの学校にも必ずある、七不思議。


高校生にもなって、そんな子供じみた事を

記事にしようと言ったのは新聞部部長で

ある、田上祐介{たがみゆうすけ}


黒縁眼鏡、真ん中分けの黒髪といった絵に

描いた文化系。

理屈っぽく、現実的で幽霊や宇宙人などと

いった非現実的な類は自分の目で見ない

限り信じない。

七不思議など単なる噂だと一蹴するのが

田上祐介だ。

しかし、口にしたのは記事にするの一言。

それは、まるで国際宇宙ステーションが

宇宙人の存在を認めた。

そう、有り得ない筈が覆された瞬間であり

祐介をよく知る部員にとって寝耳に水だ。


新聞部部員は全六名、全員が高三、勿論

春には新入生を勧誘し何人か入部してくれたのだが記事に対して完璧を求め、妥協

を許さない、祐介に圧倒され、次々と辞めいった。



「うーん、七不思議…」

ボールペンを鼻に挟んで、頭の後ろで手を 組み、椅子の前脚を浮かせたり、降ろしたり、一連の暇潰しの行動を見る限り、あまり深くは考えてはいないな、と窺わせるは

星野康平{ほしのこうへい}


「うーん、うーむ」

「あー、もう、ウザい! 悩んでる様に唸ったって、どうせ何も考えてないんでしょ? 康平は」

隣で見ていて徐々に苛立ってきていたのか

女子生徒は康平の鼻に挟んである、ボールペンを乱暴に抜き取る。

「アホか! ちゃんと考えてるっつうんだ

よ! お前こそ、ちゃんと考えてるのかよ? 加奈さんよー」

「悪いけど、アンタよりは真面目に取り組んで考えてますから」


星野康平と対立するのは稲本加奈{いなもとかな}文化系の部員としては珍しい風

貌の二人として括られている。


明るい色をした、康平のボディーパーマに

加奈の巻き髪、バッチリメイクを施し、お互いにシルバーのピアスやリングを身に着

ける。


勿論、誰の目から見ても校則違反であるのは明らかだが、康平の姑息で世渡り上手な

言動の数々に風紀委員や教員ですら上手くはぐらかされている。


加奈の場合、器用に学校生活を過ごしている部分は康平とさほど変わりはないものの

決定的に違うのは、加奈の姉御肌による同性からの人望の篤さか。

「ねぇ、美雪は? 美雪は七不思議とかって詳しい?」

加奈が訊いた女子生徒に対し、康平は訊くだけ無駄なのに、と思いながら机に肘をつき何と返すか、ヘラヘラしながら待つ。


「えー…っと、私は、あんまり詳しくは、知らないかな」えへへと、純粋無垢の笑顔を

浮かべる。

容易に想像出来た美雪の答えに「やっぱりね」と康平は言う。

純粋無垢の笑顔や、痛んでいない長い黒髪 、手付かずの自然体清純系。

神田美雪{かんだみゆき}

その容姿に見合っただけの人気が男子から

あるのだが、本人は全く気付いてはいない。

癒し系、話のテンポをよくずらす、女子から嫌われやすいタイプである筈が、人懐っこい猫みたいな美雪に女子すらも虜になっている。



「オーッス!」

部室内に響く大きな声での挨拶。

神谷圭吾{かみやけいご}

文化系の部活動では聞き慣れない体育会系

の挨拶は圭吾自身の姿を見れば納得せざる

を得ない、短髪に浅黒い肌、キリッとした

力強い目元、爽やかなな笑顔から覗く白い

歯、身体も大きく、どう見ても運動部が合っている。

事実、新聞部に入部している今でさえ運動

部からのスカウトが絶えない。

本人は、新聞部副部長とゆう立場からの責任感と個人的な想いからスカウトを断り続けている。


「こんにちは」

圭吾の大きな身体に隠れていた姿は圭吾が

一歩踏み出して初めて確認できた。


泉千明{いずみちあき}

腰辺りまで伸ばした黒髪、眉上の両端を揃えた前髪が似合う程に千明の顔は端整な造りをしている、

愛嬌も無く、表情も表には 出さない、常に凛とした顔でその佇まいは強さを感じさせる。

将来はキャリアウーマンだな、と皆、勝手に千明の将来を予想している。

圭吾とは、圭吾の姉、絵里{えり}を通じて知り合いである。

絵里は圭吾の二歳上で今は大学生だ。

千明は絵里の一年後輩、つまり年齢で言えば一歳上、留年している。

昔から病弱で出席日数が足りなかったのが

留年理由らしい。


「そうだ、千明! 千明なら知ってそうじゃない?」

「なんの話?」

「学校の七不思議」

 加奈の七不思議とゆう言葉に、圭吾は祐介を見た。

 祐介は、圭吾の視線を感じ、苦笑しながら眼鏡の位置を直す。


「部長、七不思議なんかどうするつもりなの?」

 千明の問いに祐介は「勿論、記事にするつもりだよ」と返した。

 普段ならば、副部長である圭吾が記事内容

 に意見するが今回の記事に関しては口を閉ざしていた。

 いつもと違う、圭吾の様子に千明は感づく。

「部長、もしかして旧校舎の話、知ってるの?」

「ああ…、もともと知ってはいたけど記事の打ち合わせで圭吾の家に行った時にな」

「絵里先輩に会って、体験談でも聞いたの?」

「いや、姉ちゃんは話したくはないって」

 祐介に代わり、圭吾が答える。

「でしょうね…」

「そんな絵里先輩の様子見て思ったんだよ

一体、何があったのか?」

 祐介は、鼻息荒く真相を知りたい、熱い思いを語る。

「俺は危険だから、止めようと言ったにも関わらず、まったく…」

 困った奴だと圭吾は溜息を吐く。


「絵里先輩、他には何も言って無かった?」

「他?」

「旧校舎の出来事、あの時、あの場所に、

誰がいたかとか…」

「いや…、どうして?」

祐介の言葉に千明は「私もいたのよ」と、衝撃的な事実をまるで、同じショップやレストランに偶然いたかの様に言う。

「マジかよ…」


圭吾が驚くのも無理はない、絵里が在学中 から圭吾と千明には面識があった、にも関わらず圭吾だけ秘密にし続けていた事を今、皆の前で話したのだ、話すタイミングとして考えれば間違ってはいないが、千明の中 で自分は一部員でしかないのか、などとち ょっとした嫉妬心を圭吾は抱いていた。


「あのさ、何か衝撃的な事実が! なとこを邪魔して悪いんだけど、旧校舎がどうかしたのか?」

康平に言われ、祐介、圭吾の二人が我に返ると他の部員達は話題に付いていけず、ただポカーンと話の一区切りがつくのを待つしかない状態だった。


「部長と副部長だけで話進めないでよね!

どうゆう事か説明してもらわないと!」

加奈の一喝に康平が頷き、美雪も真似して

ニコニコしながら頷いた。


「わ、悪い…、ちょっと興奮しすぎた」

圭吾は手を合わせて頭を下げた。


「康平と加奈の言葉はもっともだ、すまなかった、これから記事にするのに知らない部員がいるのはまずい」

圭吾は素直に自分の非を詫びたが祐介の謝罪は記事にする為、皆の協力を必要とする

意味が含まれている。

そんな祐介に不快感を露わに反論する者は

誰一人としていない。

意見しても言いくるめられ結局は付き合わされるのだから。


「で、旧校舎の話なんだが…千明が話してくれないか?」

祐介の提案に部員全員の視線が千明に注がれる、その中で圭吾だけ不安な眼差しをしていた。

千明と同じ経験をした、圭吾の姉である絵 里、その話だけは顔を青ざめさせ口を堅く噤む。


それほどまでに恐ろしい出来事を体験した

のであれば千明にとっても思い出すのが辛 いのではないか?

それだけを心配していた。


「いいわよ」

即答だった。

日常の中で起きた些細な出来事を話す訳で

はなく、人間にトラウマを植え付けた体験

を話すのだ、千明のいつもと変わらぬ表情 、人によってはさほど衝撃的な出来事では

なかったのだろうか? 



「みんなはどうして旧校舎が取り壊されず未だに残っているか、理由知ってる?」

 話し出す千明の問いに加奈が口を開く。


「聞いた話では、あの旧校舎の卒業生達が

取り壊すのを反対したからだって…」

「それは表向きよね」

加奈の話に千明はそう返し、加奈は頷く。


「大体、みんな聞いた事あるでしょ? 旧校舎が残ってる裏の理由」

加奈の言う裏の理由とは、新校舎が建ち、

本来ならば木造作りの旧校舎を取り壊し、その場所に体育館を建てる予定だった。

しかし取り壊す前日、業者の社長が謎の死を遂げたのだ、

勿論その時点では変死と旧校舎の因果関係を結びつける事は無かった。

だが次に取り壊しを請け負った業者にも、

身内の不幸や重機のトラブル、従業員の怪我など、取り壊しに着手する度に不可解な事故ばかり起きた。


囁かれるのは何らかの呪い、信じざるを得ない程に取り壊しを請け負う業者のみに

降りかかる不幸な出来事。


呪いの噂は尾ひれをつけ広まり、取り壊し

を請け負う業者もいなくなった。


結局は旧校舎はそのまま残り、校庭の隅で

不気味な雰囲気を漂わせている。



「夏なんかには肝試しの最適な場所だって

みんな面白半分で出入りしてたけどね」

「お、面白半分でそんなとこ入ると取り憑いてたりするんだぜ」

加奈の楽観的な態度に康平は引きつった顔

で霊能者の様に警告する。

「誘ったら康平、お腹痛いってトイレに閉じ篭ったもんね」

「うるせー、そんな噂が飛び交う場所に行く奴がおかしいんだよ!」


「その噂の他もあるのよ」

「そうなの?」

加奈はおろか、祐介や圭吾すら知らない噂

を千明は知っている、それは千明が体験し

た話に繋がるのだろうか?


「取り壊しを請け負った業者の社長の死は

呪いなんかじゃなくて他殺、他のトラブルや

事故だって仕組まれたものなのよ」

「どうして、誰がそんな?」

祐介としては呪いの噂より興味が沸くのだろう。


「旧校舎の奥にある扉の中が人目に晒されるのを避けたかったからよ、晒されては困る

人もいたんでしょ」


「扉?」

「そう開かずの扉とでも言うんでしょうけど…」

「開かずの扉…」

祐介は眼鏡の位置を直し、千明の話を聞く

準備が出来たと言わんとばかりに机に肘を

付き手を組んだ。


「開かずの扉の話があったのは絵里先輩に

とって高校最後の夏、肝試しで旧校舎に入った一人の男子が話してたのよ」

「扉なんかあったかな?」

加奈は顎に指を当て、肝試しをした時に見た光景を頭に浮かべる。


「開かずの扉は普通では見つからない場所にあるの、物置のずっと奥にね。

その男子も偶然見つけたんでしょうね、開かずの扉。

話してた内容は扉の向こう側で人の呻き声を聞いたって、

正直なところ注目されたくて嘘言ってるんじゃないかと思ったわ。

都市伝説が流行っていたから、でもその噂は

広がって一人が確かめに行こうって言い出したの、新聞部の一人だったんだけど」

いつの時代でも祐介みたいな存在がいるん だな、と口には出さないが祐介以外の部員

全員そう思った。


「私としては大して興味も無かったし、行く気もなかったんだけど…、絵里先輩が思いのほか乗り気で、先輩が行くなら私もって」

今では旧校舎とゆう単語を耳にするだけで顔色を青くする姉の姿を思えば、丸っきり

正反対の言動をしていた姿など圭吾の頭の中では描けずにいた。


「結局、旧校舎に行く人数は五人、殆どは

肝試し感覚だったんでしょうね、それは私も

絵里先輩もそうだったから。

初めの内はわーきゃー言って楽しい部分もあったけれど開かずの扉がある物置に近づくにつれて、みんなの口数も減って、床が軋む音

だけが響いてた。

物置の中は埃っぽく、教具で溢れかえっていて進む事すらもままならなかったわ、開かずの扉なんて本当にあるのか、不安にもなる位ずっと奥、それは忽然と現れた」

「どんなだった?」

核心に迫ってきているからか、祐介の顔は

にやけている。


「そうね…、一言で言うなら不気味だった

鋼鉄製で大きくて、叫ぶ怪物の装飾が施されていたわ」

「怪物?」

「角を生やした、悪魔、鬼、そんな感じの

異形の者…」


千明の話から想像する扉の外観、細かく再現させれば、あまりの不気味さに想像で

あっても身震いしてしまう。


「でも開かずの扉なんてゆう位だから、

鎖に南京錠…、何の準備してこなかった私達からすれば、どうしようもなかったわ」

「じゃあ、千明達も扉の中を確かめるまで

は到らなかったんだな?」

つまり、それを自分達が明かせば大スクープになる、と祐介は興奮気味に千明の話の

続きに耳を傾ける。


「そうね、私達は扉を開けるまでは出来なかったし、扉の向こう側に何があるかは分からない…、だけど、何か…いる」

扉の向こう側はどうなっているかなど分からないが、千明達は扉越しに何かの存在を

感じたのだろうか?

「何で分かるんだ? 扉は開いてはいなかったんだろ?」

「結局、扉は開けられない、諦めて帰ろう

とした時に一人が微動だにせず扉をジッ…と

見つめていたの、どうしたの? 訊けば答えたの、扉の向こうから声がするって」


「うひぃー」

さすがに康平はこれ以上、聞けないと耳の

穴に指を突っ込んだ。


「声って…、まさか噂を広めた男子生徒が

聞いたって言う声なのか?」

康平が話の続きを拒む一方で祐介は早く続きをと言わんばかりに先の展開を楽しみに 

顔をにやけさせた。


「私達もまさかって思ったわ、扉は見るからに古びていたし、

開けられた痕跡さえ無い。

私達の前に入り込んだ様子も見受けられないから

誰かのイタズラってゆうのも考えにくい…、

なら空耳だって、来る前に呻き声の話を聞かされていたから余計よって、みんな怖かったから、気のせいだと思いたかったのよ。

だけど、聞いた当人は空耳じゃない、気のせいでもないって譲ろうとしなかった。

なら確かめるのが早いって一人が言ったの、

聞こえなければ気のせいだったんだで済むんだから…、異論は無かった、みんな息を呑んで扉に耳を当てたの」


先の展開に当時の千明達同様に息を呑む。


「微かに聞こえた、悲鳴みたいな…、一人じゃなくて男女の悲鳴、本当にこの声は扉の中? 外の人達の騒ぎ声がここまで届いているんじゃないのか。

みんな、自分達の耳を疑いたかった、だけど

次第に悲鳴は鮮明に聞こえ出した、扉から耳を離しているのに…自分達の存在に気付いたのかどうかは定かではないけれど一斉に飛び交い始めた、老人みたいな掠れた唸り声。

まるでこの世の苦しみ全てを全身で感じているかの様な断末魔の叫び声。

それら全てが物置内に響き渡って、誰一人、身動きとれずにいた。

耳を塞ぎ止めてー! 

叫ぶとピタリと飛び交っていた悲鳴は止んだ、安堵したのも束の間

扉の向こう側の何かは扉を破ろうとドンドンと叩き始めた、体当たりだったのかも、

とにかく凄い衝撃で南京錠と鎖で固められた扉が破られると思ったわ、怯える私達に扉の何かは一言…、ココカラダシテ…。

決して忘れるなんて出来ない、ずっと耳にこびりついて離れてゆかない、古びた録音テープみたいな不安定な声でそう訴えた」


「…それで?」

「逃げたわ、あの場に居続けては危険だと

そう思ったから…」


千明の話を聞き終え、全員黙り込む。


「ふーむ…」

祐介は腕を組み眉間に皺を寄せ考える。


「どうする、部長?」

行くか、止めるか、決定権を委ねる問いを

訊いたのは千明だった。


あんな体験をしたのであれば、誰が何と言おうと行かないの一点張りでも誰も千明を 責めたりはしない。

だが実際問題、他の部員達が行くかどうか? 多数決に委ねた。


「私は止めた方が良いと思うケド…なにより、みんなを危険な目に合わせられないよ」

友達想いである、加奈らしい意見で旧校舎

行きを否定した。


「お、俺も…危ないと思うし、うん」

加奈の意見に便乗し、康平も否定側に回る

、康平に関しては危険がどうこうより単に

千明の話で怖気づいただけだろう。


「加奈ちゃんや千明ちゃんが行かないなら

私もいかないです、なにより、お兄ちゃんが

心配しちゃうし」

美雪に至ってはあくまで友達に合わせてと

いった、お遊び感覚だ。

恐怖感が無い訳ではないだろうが極端な話

幽霊とでも友達になってしまう位にどこか

他の人と違った考えで物事を捉えているんだろう。


「俺はそうだな、危険なら勿論、止めるべきだとは思う…、でも気にはなるかな…」

千明、絵里、圭吾にとっては無視できない

二人が体験した出来事、だからこそハッキリと危険だ、止めようとは言えなかった。


「…千明は? さっきから黙ってるけど」


「私は行きたいなら案内してあげてもいいけれど?」

千明の応えは意外なもので、訊いた加奈の

目は点になっていた。


確かに旧校舎での恐怖体験を千明は平然と

話していた、その姿から考えれば、その応えは普通なのかもしれない。


しかし、千明の話で肝を冷やした部員からしたら理解に苦しむ。


「どうして? 千明はあんな怖い思いした

場所にもう一度行きたいの?」

「正直なところ気になるの、扉の中に何がいるのか? 

それに、あの日以来、何回も同じ夢を見るようになったの」

「夢?」

「そう、私があの扉に人々を閉じ込める夢…、

決まって私は血だらけで後悔の念を抱きながらゆっくり扉を閉めてゆくの…、

一体何なのか、ひょっとしたら私に何か関係してるんじゃないかって」

夢では血で染まる両手を見つめギュッ…と

強く握り締めた。


「関係してるって、そんな訳ないだろ? 

その扉、ずっと昔の物なんだろ」

思い詰める千明に圭吾は心配になる。

旧校舎の出来事が実は堪えているのでは?

だから、そんな悪夢を見てしまうのではないのだろうか、千明と扉には何の関連性も

無い、千明が思い詰める必要などこれっぽっちもないのだと圭吾は覚悟を決めた。

「千明が扉の中を確かめたいってゆうなら

俺は行く、行って何も問題ないって確かめようぜ」


「僕は勿論、行くけどね」

祐介にとっては恐怖より好奇心、今まで誰も出来なかった、しようともしなかった旧校舎の謎を解明した証人になれるのだと、

早くも興奮している。


加奈は「はぁ…」と溜息を吐くと「千明が

行くなら私も行くわ、部長と圭吾君の二人に

千明を任せられないもの」と名乗りをあげた。


「えー、加奈ちゃんも千明ちゃんも行くなら私も行くー」

人差し指を噛み仲間はずれは寂しいと言わんばかりに美雪も旧校舎行きのメンバーに

加わった。


「康平は?」

次々、旧校舎行きを決めている予想外の事態に気配を消し縮こまっている、

康平を見る。

「こ、これって強制なのか?」

「別にそうじゃないけど、私や千明、美雪

まで行くって決めたのよ、なのに男のアンタ

行かないとかマジありえないんですけど」

「う…うるせえな、恐いもんは怖いんだよ

それにな遊び半分でそうゆう場所に行くとだな、呪いだとか祟りとか」


「康平、康平」

呪いや祟りに関して力説している康平の肩

を叩き、圭吾は耳打ちする。

「旧校舎の謎を解き明かしたら、話を聞きに女子が群がってくるぞ、だいたい女子は都市伝説とか怖い話が好きだからな」

「確かに…」

「だろ? それにみんな一緒だしさ」

「大丈夫だよな、危険はないよな、よし、

行く! 行くよ、俺」


圭吾が康平に何を耳打ちしたのかは聞こえなかったが、康平の性格から考えれば大体

の予想がつくのか、加奈は呆れ顔で「最っ低」と呟いた。



旧校舎行きを否定していた三人もそれぞれの思いを抱きつつ、旧校舎行きを決めた。



「よし、じゃあ今夜十時、旧校舎前に集合だ」

旧校舎行きが決まってからの祐介の決断は

早かった。

「今夜ー?」

みんな、声を揃えて言った。

「気が変わらない内に行動した方が良いだろ、

それに旧校舎の事は前もって調べてあるさ」

 前もって調べてある? 

いつか旧校舎に行くつもりでいたのだろう、千明の話が祐介

の行動を早めたのか。


「これを公にすれば新聞部を見る目が変わるだろう、暗くて、変人の集まりだなんて言えなくなる」

新聞部がそんな風に言われているとは祐介

以外、初耳だった。


「…公になれば学園生命にも関わる気がするよ」

校則違反を悪びれもせずしている康平が、

それを言うのは正直、違和感がある。

だが、何らかの処罰覚悟で挑まなければいけないのは確かだ。


****** **** ******



「まさか、今夜だとか…、はぁ…」

 気乗りしない様子で康平はヘルメットを被る。

「行くって決めたんだから、ちゃんと来ないと後で酷いかんね、お腹痛いとか無しね」

「わかってるよ、行くよ…、ちゃんと行きますって」

 なげやり口調で加奈にヘルメットを渡す。

「あ、行く時も乗せてってね」

「はいはい、俺はお前の足じゃ無いんですけどね」

「良いじゃん、近所だし、学校行くとき通る道なんだし」

「あーあ…、十時ね」


 これといって特別視していなかった旧校舎

 を康平は改めて眺める。

 千明の話が頭の中で幾度もリフレインし、

 旧校舎をより不気味に演出してくれる。


 そんな康平の表情に加奈は「康平ー」と、

 心境を読み取る。


「わかってるよ!」

 みなまで言われる前に叫んだ。

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