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聖剣が折れるとか聞いてないんですけどぉ!  作者: 羽毛布団F
第5章 木こりの行く手を阻む者
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第2話  想像で物を言う


 ヘイ、スティーブ、今日もモテモテかい?

 畑の野菜がお前を呼んでるかい?

 作物の出来映えに一喜一憂する、穏やかな日々を過ごしているのかい?


「ロマンシング・トラベリングラブね♪」

 

 僕は宇宙の脅威に晒されていた。


******


 物理的に観測する限り、アコットさんの挙動はおとなしい方だと言える。

 愛する人と見つめ合ってもいないし、手を握り合ってもいない。

 スキップもしてないし歌ってもいない、もちろん愛の共同作業で食器や焚き木をオブジェのように積み上げたりもしていないし、キャンドルサービスもしていない。


 けれど今回面倒なのは、彼女の思考が僕を捉えている事だ。

 他人の恋愛事をあれこれ想像し、微笑ましく見守る顔を向けてくる事だ。


 妄想の獣を前にどこまで抗えるのか──僕は口を開く。


「アコットさん」

「なぁに?」

「前提が間違っています」

「何が?」

「僕とリーズは、恋人関係じゃありませんよ?」


 これ以上なく分かり易く、そして直球を投げたつもりだ。

 曲解しようのない事実を端的に、誤解の余地なく。


「分かってるわ」

「そうですか、そもそもどこからそんな勘違いを」

「お付き合いを始めて1年未満、恋人初級者だものね」

「やっぱり分かってませんね!」


 アコットさんの作り上げた幻想世界を一挙に破壊しようと試みたのだが、ぬかに釘、のれんに腕押し、手ごたえは無かった。

 やはり化け物退治は一筋縄ではいかぬ、であれば急所を見つけ出し、的確に貫かねば。


「どうしてそんな妄想が湧いて出たんですか」

「照れなくてもいいのに」

「プリーズ、どうしてそんな妄想が」

「だって、ブロウさんとリーズちゃん、ずっと2人で仲良しだったじゃない」


 なるほど。

 旅立ちからここまでの2ヶ月、僕がリーズと会話している時間が多かったのは事実だ、認めよう。

 しかしそれはバカップルの振り撒く愛の猛吹雪から心身を守るため、互いが自己防衛に走ったからなのだが。


「年上のお二人に比べてリーズが話しやすかったのは事実ですけど」


 真実を告げる勇気も度胸もない僕は言葉を濁し


「つまりダーリンと私が愛のキューピット? きゃん♪♪♪」

「くそう、妄想が補強された」


 仕方なく反論の角度を変えてみる。


「たかだか2ヶ月で赤の他人とそんな関係が深まるわけないじゃないですか」

「そうでもないわよ? 『ひとめ会ったその日から~』って言うじゃない」

「僕はそんな人目引く美男じゃありません」

「あら、ダーリンには遠く及ばないけど愛らしい顔立ちよ?」


 今の褒められたんですかねえ。

 ただの惚気ですよねえ。


「それに、一目ぼれは『きっかけがあれば人はすぐに恋に落ちる』例だから」

「はあ」

「ほら、あったじゃない、2人の仲を深める『赤ちゃん救出ラブラブ作戦』が」

「それお産の話ですか?」


 あの一件が彼女の中でどんな愛の物語に加工されたのか。

 商人夫婦もやはり歌い踊りながら愛を語る人物にされているのか。


「おねーさん知ってるわよ? リーズちゃん、ブロウさんの機転に甚く感動してたこと」


 ぞわりと産毛が逆立つ。

 あの時、お産の時。

 アコットさんは母子の様子を見守るためテントに篭っていたはず。


 どうして(・・・・)それを知っているのか(・・・・・・・・・・)


「いや、確かにあの一件から打ち解けたとは思いますが」

「『ブロウさんがいなければ、お母さんも赤ちゃんも危なかったんです! ブロウさんがとっても頼もしく見えました! リーズ、惚れ直しました!』」

「尾ひれ背びれが酷くありませんかねえ!?」


 そうは言われていないし元々惚れられてもいないから直されもしない。

 しかし一部ニュアンスが事実に基づいている以上、全ての否定は難しい。それなりに仲良くやっている自覚はあるから尚更だ。


 だけど僕は知っている、女性が示す親愛の情と愛情は全く別のものであると。

 僕はその事実を妹に求婚したスティーブで学んだのだ。

 スティーブよ、どうして交際もしてないのにプロポーズなんてしてしまったのか。


「新たな命の誕生した現場で恋も芽生えたなんて、おねーさん嬉しいわぁ♪」

「新たに生まれたのは妄想じゃないですかー、やだー!!」


 ここまで成長を遂げた妄想の怪物を僕ひとりで倒すのは不可能だと悟る。

 唯一の希望は援軍の登場。

 慌てるな、救世主の刃が脅威を祓ってくれるのを信じて待つ、待つのだ。


「待たせたね、通行の許可を得てきたよ」

「きゃ~~~~ん、ダーリン、お帰りぃ~~~~♥♥♥」

「ああ、ただいまハニー♥」


 救世主が現れ、戦いは終わった。

 アコットさんにとって他人の恋愛話と自身のラブリーテンダー、どちらが勝利するかは自明。

 案の定、愛に生きる女神官の関心は愛しのダーリン・ダーリンリンに軌道修正されていった。これで一安心だ。


「随分話し込んでたみたいですけど、何かあったんですか?」

「情報を仕入れていたんだ。この辺りで何か厄介ごとが起きたりしていないか」

「なるほど、面倒に巻き込まれないように」

「或いは巻き込まれる覚悟を決めておくように、だね」


 ……まあ突然剣が折れたりして変な旅に巻き込まれる事もあるよね。


「そ、それで何かありそうでしたか」

「ああ。嬉しくない話だけど」


 表情を引き締め、騎士様は告げた。


「どうやら、野盗の類が出没しているらしい」


 妹よ、つまみ食いは大好きな妹よ。

 安全な旅の終盤に水を差す、危険な奴らがいるらしい。


 そろそろ真面目に祈っておくれ、兄の無事を。


******


「それからブロウ君、恋の相談ならいつでも受け付けよう。男でなければ話せない事もあるだろうから」


 救世主、あなたもか!



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