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聖剣が折れるとか聞いてないんですけどぉ!  作者: 羽毛布団F
第5章 木こりの行く手を阻む者
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第1話  身近な脅威に気付けない


「……わたしは、ここまでです」


 弱々しく少女が呟いた。

 諦観を以って、避けえぬ運命を受け入れたかのように。


「長い、長いお別れになります」

「いやだ、目を、目を閉じないでくれ! 頼む!」


 僕の頬を汗とも涙ともつかない雫が流れ落ちる。彼女を失う、その事実に心が悲鳴を上げていた。

 眼前に横たわる現実に耐えられないと絶叫していた。


 けれどそんな叫びも少女には届かない。

 少女の鮮やかな夕焼けを映した色の瞳はゆっくりと、


「ごめん、な、さ……」

「そんな、駄目だ、僕を、僕をひとりにしないでくれ!」


 助力も、懇願も、祈りすら無為と化し、ゆっくりと閉じられて。


「リーズ? ……リィィィィズ!!!」


 再び開かれたそれはどんよりとした曇り空にも似た淀み具合。

 もうあの少女はいない。

 苦楽を共にした、優しい少女はもういないのだ。


「……むにゃ……あと5分」

「なんで、なんでフリーズしちゃうんだよぉ!!!」


 ここにいるのは淀んだ目で世界を顧みない、ただの居眠り少女である。


******


 旅に出て2ヶ月近く。

 僕達一行は大神殿の最寄都市、ローラデンの街に到着していた。


 ここまでの過程で巡礼者のお産を手伝わされたり、伝説のお宝を探していると妄言を吐く爺さんにつき合わされたり、山道の落石で足止めされかけたり、色々と面倒ごとに引っかかりもしたが危険の少ない順調な旅だった。

 けれど僕の心は悲しみに沈んでいた。

 ここまで苦楽を共にした少女、精神汚染の盾が失われたからだ。


 打てば響き、ボケれば突っ込んでくれる常識的対応をしてくれたリーズ。

 旅の仲間として長時間のコミュニケーションが成立し易かった彼女は、ローラデンの街を前にして再び長期の『未来予測』に入ってしまったのだ。


 神殿の最寄都市ローラデン。

 遠近を問わず巡礼者が訪れ、彼らを当て込んだ商人が多く店や宿を構える、活気と生活感に満ちた都市。

 それだけ人が多く住まい、リーズが全力で未来予測を行ってしまう条件の整った場所でもあった。


「人の多いところだと長期のフリーズ状態になるからなあ」


 マルケントの街では解除に2日かかった。

 今回も同程度、またしばらくひとりでハチャメチャラバーに耐えなければならないかと思うと気が重い。

 とある商人夫妻のお産を手伝って以降、リーズとは別れの茶番劇を出来るくらいに打ち解けていたので辛さもひとしおである。


 騎士ナイトソンが街の門番と手続きしているの間、現状に思いを馳せる。


 旅はここまで順調だが、神殿に至る事で何が得られるのか、何が起きるのか、僕の運命は全くの謎のまま。

 リーズの未来予測で多少でも分かればよかったのだが、神サマの御心は未だ不透明。難儀な事である。


「元気ないわね、ブロウさん。大きな街について疲れが出ちゃった?」

「いえ、大丈夫です」


 僕のため息を聞きつけたのか、女神官アコットさんがこちらを覗き込む。

 肉体よりも心労が酷いです、とは言えずにとりあえず否定しておく。


「そう? 調子が悪くなったらいつでも言ってね。私の回復魔術はそのためにあるんだから」


 アコットさんは輝かんばかりの笑顔で親愛の情を示してくれた。

 僕が知る限りで最高峰な美人の笑顔、並の男なら一撃で篭絡して余りある笑顔だ。

 けれど僕はこの2ヶ月で親愛を超えた彼女の笑顔を嫌と言うほど見せ付けられていた、目が灼かれてしまう程に。


 その労苦を分かち合う人のいない孤独が胸を突く。

 リーズ、どうして君は逝ってしまったのか。

 いや、死んだわけじゃないけど、心情的にどうして君は。


「それともブロウさんが浮かない顔をしているのは、リーズちゃんが黙ったしまったからかしら?」

「……はい?」


 正直驚いた。

 人目憚らず、周囲など眼中に無いラブラブハレーションを広域展開させていた片割れが僕の心を酌んだとでもいうのか。


「大丈夫よ。リーズちゃんの演算はそのうち終わるから」

「それはそうなんでしょうけど」


 そのいつ終わるとも知れぬ間、ひとりで受け続ける精神攻撃が問題なのだが。


「気がかりなのは分かるの。だって私もこうしている間、ダーリンが危険な目にあってないか気が気でならないもの」

「いや、ナイトソンさんあそこに見えてますよね」

「でも心配するのは仕方のない事よ」


 なにやら門番と話し込んでいる彼の背中を指差すのだが、珍しくソロで愛の広報活動を始めるアコットさん。


「だって、愛する人の事ですもの♪ 愛の数だけ相手を思う気持ちも深くなるものね♪♪♪」

「はあ、そうですか」


 本来のコンビネーションを欠いたそれは睦まじさの威力が半減しており、僕は精神にさしたるダメージを受ける事なく


「だから分かるのよ、ブロウさんがリーズちゃんを心配しちゃう想いも。それが愛だものね♪」

「はあ、そうです……か?」


 ……うん?

 何やら予想外の攻撃を受けたような気がする。


「育むのに時間は必要でも、芽生えるのは一瞬だものね」

「あの、アコットさん? さっきから何を」

「人生、魔力次第で200年。けれど恋せよ乙女」


 両手を胸の前で組み、うっとりした顔で天を仰ぐ女神官の仕草は敬虔な祈りを捧げる信者っぽく見えるが表情が違う。

 そうだ、あの表情には見覚えがある。


「ブロウさん、リーズちゃんとラブラブなんでしょ?」


 トート村でジェシカおばさんが仲人を引き受けた時のような


「旅先で花開くロマンス、まさしくロマンシング・トラベリングラブね♪」

「変な造語!?」


 妹よ、意外と恋愛小説を嗜む妹よ。

 やはり女性は他人の恋愛ごとをあれこれ話すのが好きなのだね。


 だがせめて事実に基づこう。



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