02話
「誓太、誓太ー!!」
何となく意識が戻ってきたような、はっきりしない感覚の中、誰かが俺の名前を泣きながら呼び、体を揺すっている。
この声は、心優かな。
「死なないでよ、ねぇ起きてよ!!」
いや、死んでないはず。少し意識を失ってただけなんだけど……。
でも、面白そうだから、このままもう少し寝てようかな。
「昨日、休んでいるのを利用して芙愛ちゃんと一緒に、誓太のパソコン勝手に触って、画像ファイルから可愛いキャラクターの画像が溢れるほど出てきてドン引きした事は謝るから!! だから生き返って!!」
「ちょっと待てこら! お前ら、俺がいない間に何やってんだ!?」
思わず頭を上げてしまった。
凄い事を懺悔しやがったな。
「あ、生きてた! 良かった!!」
「良かった!!、じゃねぇよ! 勝手に人のパソコンいじるな!!」
くそ! 今、恥ずかしくて凄く死にたい。
ファイルは厳重にロックしてた筈なのに……。
「で、どこだ、ここ?」
「それがよく分かんないの」
辺りを見渡すと、薄暗い洞窟の中らしき所にいた。
初めて見た景色なのに、何故かどこか見覚えがある気がする。
洞窟をよく見るのに立ち上がろうとすると、体がいつもより重く感じた。
「ん? 何だこの格好?」
自作ゲーム『サターンバスター』の1Pの剣士、心優は2Pの魔導士と同じ格好をしていた。
「もしかして、ここ、始まりの洞窟の中か?」
始まりの洞窟とは、『サターンバスター』でプレイヤーが一番始めに挑む小さなダンジョンで、操作に慣れてもらうために作った場所。
文化祭の出し物では、体験版としてこのダンジョンまで進んでもらう事になっていた。
「本当だ、壁や地面の色や雰囲気がそっくりだ。すごーい!! ゲームの世界に入っちゃった!」
どうやら俺達は、あのエラーの後、『サターンバスター』の世界へ引き込まれたらしい。
「そうかもな。一度、異世界へ行って冒険してみたかったんだよな」
「楽しそうだし、奥へ進んじゃおうよ」
「歩き回ると危なくないか?」
「だって、ここでじっとしてても仕方ないじゃん? それに、芙愛ちゃん見つけないと」
「あっ! 本当だ、芙愛がいねぇ!?」
近くに芙愛の姿が無かった。
もしかして、芙愛だけこの世界に入ってないとか?
それともはぐれてしまい、下手するとボスに捕まっているのかも知れない。
そうだとすると、芙愛が危険だ。
「それじゃあ、芙愛を捜そう。だけど、何があるか分からないから慎重に進むぞ。心優はその辺に落ちているもの食べて腹壊すなよ」
「失礼な!? やった事ないよ、そんなの!!」
そんなやり取りをしている時に、モンスターが現れた。
目の前にいるのは、ゴブリンが二体。
「初戦闘か! 行くぜ!!」
腰にある鞘から剣を抜く。
実際にモンスターを見てみると、少し怖い。
だが、ゲームの主人公になったみたいで、実際に剣や技が使える事にワクワクしてしまう。
「うぉぉぉおおお!!」
ゴブリンに向かって走り、勢いよく剣を振るう。
ズバッ!っと豪快な音と共に、一体のゴブリンは切り裂かれ消滅した。
しかし何だろう、この剣。
最初に手に入れる剣にしては、デザインも華々しく、切れ味が鋭すぎる。
「もう一体は私が倒しちゃうよ。ギガフレイム!!」
心優の手のひらから五つの火炎玉が現れ、ゴブリン目掛けて放たれた。
火炎玉が当たったゴブリンは、激しく燃え上がって消滅した。
「おい、一つこっちに来てるぞ!」
火炎玉の一つが、俺を目掛けて飛んでくる。
ギリギリで避けたものの、近くで落ちた火炎玉の爆風で吹き飛ばされた。
「いぇーい、勝ったよ!!」
「いてて……。もうちょっと気をつけて攻撃しろよ」
「それじゃあ、初勝利記念に……ハーイタッチッ!」
「おい、話を聞け!!」
俺と心優はハイタッチを交わした。
俺達は順調に敵を倒し、奥へ進んでいった。
しかし、芙愛が見つからないまま、ボスがいるフロアの扉の前まで来てしまった。
隣では心優が、何かを見て喜んでいる。
「見て見て、ポケットに入ってたクリスタルから色々と見れるよ。私、レベルが6もあがったよー!!」
「もう、そんなに上がったんだ。俺はどれくらいだろう?」
クリスタルを出し、手のひらに乗せる。
すると、クリスタルの上に画面が開いた。
その画面はタッチパネルのように手で動かせ、そこにはレベルやステータス、自分の使える技やマップなどが載っている。
しかし、自分のレベルを見てみると……
「あれ? レベルが上がってない……」
未だにLv1のままだった。
「何で上がってないんだ? レベルが低い間は上がりやすいはずだし、心優は6も上がっているのに……」
「もしかして、この世界って『サターンバスター』の設定を引き継いでいるのかな?」
心優は心当たりがあるようで、顎に手を当てて何か思い出していた。
「それが何か関係あるのか?」
「そう言えば、誓太が休んだ時に、1Pはレベルが上がらないように、芙愛ちゃんがいじっていたな~って」
「……は?」
「だから、この世界がゲームの設定通りなら、誓太はどんだけ頑張ってもレベルは上がらないんじゃない?」
「……嘘だぁぁぁあああああ!!」
思わず叫んで崩れ落ちてしまった。
「何でそんな事したんだよ!?」
「だって、どうしてもゲームで勝ちたくて、芙愛ちゃんに頼んだら、色々設定を変えてくれて……」
「勝手に改造してんじゃねぇよ!!」
そこで俺は、心優とゲームで勝負する前の会話を思い出す。
「もしかして、秘策ってこれの事?」
「その通り!!」
心優はどや顔でVサインして答えた。
駄目だ、俺がボスに勝てる気がしない。
剣のお陰か攻撃力は高いが、初期ステータスが十前後しかない。
一度でも攻撃を食らったらゲームオーバーだ。
緊張感が高まり、不安な気持ちでいっぱいになった。
しかし、最初のボスだし強く設定してないから、何とかなるか。
「ちなみに、お前は今、Lv6なんだろ?」
「いや、Lv86だよ」
「……へ? 何でそんなに高いんだよ」
「最初がLv80からだった。勝てない私の初期レベルを上げてくれたの。ちなみに、これも秘策で芙愛ちゃんが設定してくれたよ」
俺のいない間に色々と改造されていた。
呆れて、緊張や不安が全て吹き飛んだ。
心優のレベルが高いし、ボスに勝てるだろう。
「それじゃあ、入るぞ」
扉をゆっくり開き、恐る恐る中に入る。
中は暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。
一ヵ所だけ明かりがついている場所があり、誰か立っている。
剣を構え、戦闘準備に入る。
「ふふっ……。よくここまでたどり着いたわね、勇者と魔導士よ。この部屋に入った事、後悔すると良いわ!」
現れたのは、紫色の模様が入った黒いローブ姿の芙愛だった。