育て親
朝食をパンで済ませようとしたら、エルシアに「もっと栄養とりなさい!」と言われてサラダとハムエッグを出された。「マテリアルのおかげで栄養足りなくて死ぬことはないから大丈夫」と言ったらエルシアにガミガミと怒られた。
しぶしぶと出されたものを食べ終わった。その後店長に魔石の注文をした。3日後に出来るとのことだった。
それからエルシアから料理する時に余った肉を「ウルフに食べさせて」と言われて渡された。
「粉雪」の隣、木造で何年も前に建てられた建物の二階にアリアの部屋はある。階段を上り、自分の部屋の扉の前に立った。木で出来た扉には「ブラッド」と書かれていた。
確か、これは私じゃなくてエルシアが書いたんだっけと思い出す。すこし思い出に浸りながら、ドアを開ける。扉は大きな音を立てて開いた。すると奥から3匹のウルフが走ってきた。昨日この3匹を武器屋のじいさんに見せたところ、「俺は生物学には詳しくないんだが」と言いながらも奥から本を取り出して3匹を診てくれた。どうやら3匹はまだ子供で生まれて数ヶ月らしい。それから3匹は兄弟だということがわかった。名前はまだ決めていない。そのうちエルシアが決めると思う。
とりあえず今は頭の中で大、中、小と区別している。
大はエルシアからもらった餌に気づいたのか尻尾を振って吠えた。
「はいはい、今ご飯あげるよ」
やれやれ、と言って袋から餌を均等に皿に乗せて食べさせた。まだ子供の育ち盛り、おそらく親ウルフに捨てられて自力でここまで育ったのだろう。そう考えるとよく生きていたなと思う。それと同時に私を襲おうとして、かつその場にエルシアがいたことは奇跡と言えるだろう。エルシアがいなければ確実に3匹はアリアに一刀両断にされていただろう。
「エルシアに感謝しなよ」
そう言ってウルフの背中を撫でた。
アリアは町長の家に来ていた。奥さんが先に来てから、町長はタバコを吸いながら現れた。
「タバコは嫌」
それを聞くと、思い出したようにタバコの火を消した。
「そうだったね、で今日の用は?」
「依頼書見に来た」
この街の狩人はアリア1人しかいないため、狩人の依頼所なんてものはなく町長の家にリストとして置かれている。この街には他の街から来た狩人はいるけれどそれはほとんど森が目的で依頼なんて聞いてくれない。それに、町長の話し相手が欲しいというのもあるだろうが。
奥から町長の奥さんが暖かい飲み物と依頼リストを持ってきた。
「いつも悪いねー」
「いえいえ」
リストとコップを渡してくれた。町長はズルズルと音を立てて一口飲み物を飲む。
「おいしいなこのテナ茶」
「そうでしょ?」
夫婦でそんな話をしているテーブルを挟んでアリアは無表情で作業として飲み物を喉に流し込んでいた。
味覚がないと言っても空腹感と喉の乾きは感じる。でも、マテリアルの魔力で死ぬことはない。
アリアを見かねた町長と奥さんは顔を見合わせた後、奥さんがアリアの横に座った。
「アリアスちゃん、このテナ茶のテナの葉をくれたのはエルシアちゃんなのよ」
「エルシアが?」
「そうよ、この街の近くにテマの木があってね。わざわざ採ってきてくれたのよ」
そう言われて、改めてテマ茶をを見た。なんの変哲もない、ただの飲み物だ。
「アリアスちゃん、食べたり、飲んだりするのも1つの人間に与えられた娯楽よ。今のアリアスちゃんは勿体ないことしてるわ」
「……」
黙って自分の顔が反射するテマ茶のコップの中を見た。
「でも、私には味覚が」
奥さんは横にかおを振った。
「いいえ、味覚だけで味わうものではないわ。
その匂いや食感、喉に通る時の感触、それら全てで味わうの。
アリアスちゃんが無いのは味覚だけじゃない、嗅覚や触覚はあるでしょう?」
アリアは縦に顔を振った。
「食事を楽しまないなんてもったいないわ、これじゃアリアスちゃん魔物を倒すだけの魔導器になっちゃう」
アリアはコップを口に近づける。今度は匂いを嗅いだ。ほんのりと、自然の匂いがした。
思い出せば、私は魔物の血の匂いばかり感じていたな。と思う。
そして、口に流し込み飲み込む。
奥さんはフフフと、笑った。
「アリアスちゃん、いつでもこの家に帰ってきていいんだからね。血は繋がってないけど、私たちの子供なんだから」
アリアはコップを置いて、
「しばらく、帰らないかな」
と笑って返した。
アリアはリストを開く。すると一ページ目に赤い丸をつけられた依頼があった。
依頼には重要度によって赤、黄色、黄色と変わる。これは一番重要な依頼で、できればすぐにでもやらなくてはいけない。
「ああ、それなんだが、森でスケルトンが出たらしい」
町長がテナ茶をすすりながら言った。驚きを隠せないアリアに対して町長は落ち着いて
「デマや気のせいかもしれないから期待はしないほうがいいぞ」
いやいや、こんなめんどくさい依頼期待なんてするわけないでしょ。と思いながら依頼の概要を確認する。遭遇したのは夜で数10体いたらしい。
「スケルトンってのは死んだ人の人骨が魔力を使い動く魔道生物だ。万が一のことがあるから調べてきて欲しい」
もし、スケルトンと遭遇した場合。倒すとしたら魔石による魔力補充は必要になると思う。そう考えると行きたくはなかった。
「まあ、多分デマだから。もし発見しても倒さずに確認だけしてきてくれればいい」
確認だけなら…と思ってリストを閉じる。
「スケルトンの概要は多分武器屋のバッキイさんが持ってる本を参考にしてくれればいい」
「わかった、今夜にでも行ってくる」
確認だけ、とは言ってもスケルトンは強いと聞く。それが数10体も。大丈夫かな、と不安になるアリアだった。
最近戦闘ない気がする……
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