1−11 そして、私はもう一度自分のステータスを確かめる。
「ぺちゃ、ぺちゃ」
――なんだろう?
何かの音が聞こえる。
それと同時に、私の顔の上を、ぬめりとした生暖かい物が這い回っている。
――あっ、何かデジャブ?
目を開けると、やっぱりキキが私の顔を舐め回していた。私が気が付いたのを察して、キキが嬉しそうに顔を擦り付けてくる。
どうやら、気を失ってたみたいね。体がだるくて、何だか頭もぼぉとしている。
それにしても……。
「もう、顔がべちゃべちゃになるじゃない」
少し怒り気味に言うけど、キキは嬉しそうにまた、小さな舌で私の顔をぺろぺろと舐めようとする。そんなキキを両手で抱き上げ、上半身を起こして床に座る。そして、べとつく顔を拭いながら周りを見渡す。
あれっ、どうして気を失ってたっけ?
意識をなくす前の事を思い出そうとする。
――えぇと……あっ!
そうそう、私はあの気持ちの悪い怪物の体の一部と……。
慌てて、部屋の中をもう一度見渡すが、邪神の触腕は完全に消え失せていた。
そっかぁ、ちゃんと倒してのね……良かったぁ。
私のそんな様子にキキが、「キュゥン?」と、心配そうな顔を向けてくる。
「キキも、心配してくれてたんだね。さっきは文句を言ってごめんね」
キキの体を撫でつつ、触腕が最後にいた辺りに目を向けると……。
「なんだろ、あれ……」
邪神の触腕が消滅した辺りに、何か、黒っぽい石のようなものが転がっていた。近寄って眺めてみると、大きさは私の手のひらをぐぅにしたぐらいの大きさ。それは、周りの全ての光を吸収しそうな、禍々しさを感じる黒々とした石だった。
うわぁ! この石、怪しさ全開だよね。
見た感じ、雑誌とかの広告によく載ってる、何だっけ……そうそう、黒水晶だったかな?
魔除けや幸運を招くとか、パワーストーンだとか良く言われる、黒水晶にそっくり。だけど、あの触腕が消えた後に残されてるから、どうにも触る気にもなれない。
矢の先で、そっと少し突いてみるけど、普通にころんと転がるだけで、何も変化はない。
どうしようかな……あっ、そうだ。【鑑定】のスキルを持ってたわね。
黒い石を眺めながら、『鑑定』と念じる。
途端に、目の前に半透明のウィンドウが現れ、鑑定した内容が表示された。
『邪神の欠片』
おぉい、そのまんまじゃないの。何か、説明とかは?
でも、『邪神の欠片』ねぇ。触らぬ神に祟りなしとか言うしね。知らんぷりでもしてようかしら。
と、黒い石を見ないようにするけど……あぁ、やっぱり気になる。
もういっその事、どこかに捨ててくる?
あぁ、でも、それはそれで気になるかも。もしかしたら、後で役に立つかも知れないし。映画だとかなら、こういうのが、最後に物語の鍵になったりするから……。
結局、矢の先で突いて、祭壇の前まで転がしていく。直に触るのは嫌だからね。取り敢えず、ここら辺に転がしておく事にする。何となく、祭壇の前辺りだと安全なような気がするし。まあ、ただの気休めだけど。それに、目につく所にあると、何か変化があった時には直ぐに分かると思うから。
さてと、これからどうしようかな。
メニューを呼び出し、時間を確認すると、既にお昼はまわっていた。
今日はスライムの大群に囲まれたり、湖で邪神? に出会ったりとか内容が濃かったけど、まだ半日ちょっとしか経ってない。
先が思いやられるわね。
「ふぅ」と、軽く息を吐き出し、序でにステータスも確認してみる。意識を失う直前に、チューさんが色々とメッセージを送ってきてたからだ。
あっ、見えるとこが増えてる。ちょっと嬉しい。
《ステータス》
名前 :ユウコ・キムラ
年齢 :16
種族 :ヒューマン
level :8(1/100)
職業 :従魔師Lv3(1/100) SUB 神弓師Lv2(1/100)
称号 :※※※
HP :110/110
MP :55/115
----------------------
筋力 :68
耐久力 :50
素早さ :58
知力 :135
魔力 :150
精神力 :165
器用さ :68
運 :75
----------------------
《固有スキル》
【チュートリアル】
【神弓術】
《スキル(SP130)》
【弓術 Lv3(1/100)】
【火炎魔法 Lv3(1/100)】
【集中 Lv2(1/100)】
【平常心 Lv2(1/100)】
【測量 Lv2(1/100)】
【シンクロ Lv2(1/100)】
【鑑定 Lv3(1/100)】
《加護》
【※※※】
《従魔(1/3)》
鳴き鼠 Lv3
《達成クエスト》
1「魔獣を倒してみよう」(難易度F)
3「魔法を使ってみよう」(難易度F)
4「従魔に指示を出してみよう」
(難易度F)
5「スキルポイントを使ってみよう」(難易度F)
6「スキルをレベルアップさせよう」(難易度F)
8「従魔をレベルアップさせよう」(難易度F)
10「スライム10匹を討伐しよう」(難易度E)
Ex「邪神の触腕を討滅しよう」(難易度B)
《未達成クエスト》
2「地図を作成してみよう」(難易度F)
7「スキルを進化させよう」(難易度D)
9「従魔を進化させよう」(難易度D)
11「新たな魔獣を仲間にしよう」(難易度E)
「ほえぇ〜」
昨日の夜に、確認したのとはかなり変わってるわね。あっ、レベルが上がって、弓師が神弓師に変わってる。
神弓師かぁ……その名称の響きから、巫女さんスタイルの自分を想像してみる。何となく、そんな感じがしたからだ。
――あっ、無いわぁ。
私は身長の低いチビッ子だから。こういうのは、すらっと、背が高くてスタイルの良い女性が様になるのよねぇ。私だと無理っぽい。
けど、『神弓師』の響きが、ちょっぴり格好良く思えて、少し嬉しくなる。
称号と加護は相変わらず読み取れないけど、能力値? は見えるようになった。でも、ゲームとかで、あまり遊んだ事のない私には、この数値が良いのか悪いのか、良く分からない。表示される言葉から、何となく意味は分かるけど、実際に、筋力とか言われてもねぇ。腕を曲げても、ぷよぷよの力こぶが、ちょぴり膨らむだけだし。成長してるのかと考えても、いまいち実感がわかない。
スキルに関しては、軒並みレベルアップしてるけど、これは、EXクエストの「邪神の触腕を討滅しよう」を、達成したからだと思う。本体の一部とはいえ、なんといっても、邪神ってぐらいだからね。それに意識を失う前に、チューさんがボーナスがどうのと言ってたような気がするし、そのお陰なのかな?
難易度もBだったから、今の私には難しい相手だったのだろうと思う。
それと、レベルの後にある数字は経験値なのかな。よく分からないけど……んっ? 固有スキルがひとつ増えてるけど、これは何かな?
それに、この固有スキルには、レベルとかが無いようね。一番上の【チュートリアル】は、チューさんの事だったはず。確か、簡易モードだとかそんなのだったかな。今ひとつ説明不足な件で、私には簡易だとは思えないけど。
しかし、もうひとつの【神弓術】は、何だろう?
サブの職業が、『神弓師』に変わった事が関係してるのかしらね。これも、良く分からん。
ホント、誰か、説明して欲しいよぉ!
それにしても、こうして色々と見れるようになったのは、【鑑定】のレベルが上がったお陰だと思う。しかも、何故か3になってるしねぇ。これは、邪神を鑑定した為かしら。
うぅん、そうすると、色々と他の物も見る事が出来るようだし、この【鑑定】のレベルを上げるのを、第一に考えた方が良さそうね。この世界に来て、右も左も分からない私には、情報は一番大事だと思う。前に勇吾も、「情報を制する者は世界を制す」とか言ってた。
と、いうことで、【鑑定】のレベルを上げようと思うけど、どうすれば良いのかな?【鑑定】のスキルを使って、経験値を上げれば良いのだと思うけど……。
試しに、キキを鑑定してみる。
『鳴き鼠 Lv3』
……それだけぇ!
情報がすくなっ!
まあ、良いわ。レベルが上がれば、もっと分かるようになるかも知れないし。
で、ステータス覧を眺めると……経験値は(1/100)のまま。しかも、MPが[50/115]に変わっていた。
あっ、MPが5減ってる。そっか、【鑑定】を一回使う度に、5ずつ減っていくのかぁ。それに、経験値は変わらずなのね。一回だと、駄目なのかしら。
周りの物を、片っ端から【鑑定】してみる事にする。
『石床』『石壁』『祭壇』『光り苔』
全部、見たままって……。
呆れつつ繰り返すと、キキの鑑定も含めて5回目で、ようやく経験値の数字がひとつ上がった。
【鑑定 Lv3(2/100)】
やっと、ひとつ……。 レベルを上げるには、あと98。ひとつ上げるのに5回と考えて、あと、490回も【鑑定】を繰り返さないといけないのかあ。
「ふぅ……」
まだまだ、先は長そう。
気を取り直して、今度は自分の持ち物を【鑑定】してみる。
【※※※】【※※※】【※※※】
鑑定、出来ませんでしたぁ。
弓や小剣、それに着てる服を鑑定してみたけど、やはり謎素材のまま。本当に、何で出来てるのだろう。
けど、続けて矢柄を鑑定していると……。
――ううっ、吐きそう。
なんだか、気分が優れない。急に体調が悪くなってきた。体がだるく、熱っぽい。風邪の引き始めのような感じだ。
これは、もしかして、MPの使いすぎとかかも……邪神の触腕を倒した時、体の内にあるパワーを全て、弓と矢に注いだ。そして、力を使い果たして気を失ったのよ。あの時も、こんな感じだった。
ステータスを確かめる。
『MP:10/115』
右がマジックポイントの最大値で、左が残りの数値だと思う。そして、多分だけど、残りの数値が0になると気を失ってしまうのだわ。
そうなると、MPが回復するまでは、これ以上のスキルの使用を控えないといけないわね。
でも、MPの回復って……寝たら回復するのか、休憩してたら回復するのか良く分からないわね。気を失ってる間に回復してるのは確かだから、こうして休憩してるといずれは分かると思うけど……後、今の間にやれることは?
あっ、スキルポイントがかなり増えてるわね。130まで増えてるよ。これでまた、スキルを選べる。うぅんと、次は【水魔法】かな。汗も流したいし、シャワーみたいな魔法が使えないかな?
あっ、でも、今はMPが少ないからつかえないかあ。
という訳で、スキル選びは後の楽しみに取っておく。好物は一番最後まで取っておくのが、私の主義だから。楽しみは後の方が楽しいよね。
それならと、残りの壁にも有るだろうと思える、二つの出口も確かめる事にする。ちらりと見るくらいなら大丈夫だと思うし、向こうからはモンスターも、この部屋には来れないような感じだったしね。あっ、けど、入り口が開いてる間は入って来れるみたいだから、それだけは気を付けないと。
祭壇の正面の壁は、スライムの大群の現れた通路。あのスライムの大群には、ちょぴりトラウマ気味。だから、他に、こから脱出する道を見付けたい。
右の湖は論外。湖を渡る方法もだけど、あの邪神とまた出会うのは、二度とごめんだわ。
そんな訳で、残りの壁に、私でも安心して歩ける道に通じてたら良いなあと、思いながら祭壇の後ろの壁に近付く。
壁に手のひらを当て、「お願い、ここから出して」と願うと、いつもの如く、ピシリと縦に亀裂が走り左右に分かれ、出口が開いた。
――おぉ、これは……。
そこには、スライムがいた通路と同じような、四角い石を積み上げて作られた通路が、真っ直ぐ前に続いている。
「まさか……同じ通路って事は無いよね」
そんな事を呟いていると……。
「ギャアァァス!」
通路の奥から、空間をびりびりと震わせ、獰猛な雄叫びが聞こえてくる。それはまるで、日本で有名な怪獣。核実験から生まれた、あの火を吐く怪獣にそっくりな鳴き声。
――あっ、駄目だわ、こっちの通路は。
あの邪神のような禍々しさは無いけど、耳を塞ぎたくなる音量に、お腹にびりびりと響くような 獰猛な鳴き声。邪神と同じく、私にはどうしようもない存在だと、その鳴き声から容易に想像できる。
こっちの通路は、スライム以上に無理ね。
私は早々に諦め見切りを付けると、部屋の中へと戻った。
あぁ、そうなると、残りひとつ。どうか、安心、安全な道でありますように。
そんな願いを込め、左の壁に手のひらを当て、「お願い、ここから出して」と、念じてみる。
そして、開いた出口の先には……。
――おぉ、これは……。
今度こそ、本当に驚いた。だって、そこには本当に不思議な光景が広がっていたから……。
誰か、読んでますか?
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