プロローグ~少女~
Dear killer
この手紙を貴方が読んでいるということは、私は既に貴方に殺されたのでしょう。
私は今、雪を見ながらこの手紙を書いています。
そういえば、貴方と初めて会ったのも、雪の降る日でしたね。
あの時、私は――――
オーディオから聞こえてくるのは、中高生に絶大な人気を博しているバンドの曲。か細い声は車の走行音に容易く掻き消され、後部座席まではところどころしか聞こえない。音量を上げればいい話だが、そこまで興味があるわけでもなかった。
車窓から見えるのは、あまり見慣れない町の雪降る景色。目的地であるショッピングモールは、小学生の頃、両親に連れられて一度行ったきりだった。
「沙奈? 沙奈ったら」
その声にはっと反応した小学校高学年ほどの少女は、顔を上げて助手席を見る。
「もう。ぼおっとしてどうしたの?」
助手席から顔を覗かせているのは、三十代後半ほどの女性、久留米好香。その身体は病的と呼べるほどに痩せ細っているが、表情は明るく朗らかなものだ。
運転席には真っ白な髪をした五十代ほどの男性、久留米隆一が座っている。
「まあまあ、母さん。昨夜は遅くまで話していたから、沙奈もまだ眠たいんだろう」
「あら。そうなの?」
少女、沙奈は一つ頷く。
「うん。ごめんなさい。まだ少し頭がぼーっとしてて」
「いいのよいいのよ。でも映画の上映までには目を覚ましておかないとね。ずっと楽しみにしていたのに、寝ぼけたまま見て覚えていませんじゃあ勿体無いもの」
「ははは。それはそうだ」という笑い声につられるように、沙奈もうっすらと笑みを浮かべた。