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A Couple of Graves  作者: 浮芥彼
第一章
3/9

第二話 踏み出す一歩は

六月の、梅雨の湿気が更に酷くなりつつある頃、二人が不自然に教室を出て行った日から幾日かが過ぎていた。


そんなある日の出来事。


千晴と尚哉は放課後の学校の、二階の渡り廊下を歩いていた。

ありふれた放課後の景色が眼前に拡がっている。


心地良い静寂が二人を包み込む。


しかし、二人の朗らかな表情は一変し、酷く沈痛そうになる。


それは、教室のドアのガラス部分から、静かに読書をしている少女が見えたからだった。


「………」

「………」


二人は教室の前に立ち尽くしたまま、互いに顔を見合わせた。


「………」


「………」


「ど、どーする…?」


千晴が、沈黙に耐えかねたように、焦燥した声色で尚哉を振り仰いだ。


「………」


「……?尚哉…?」


しかし尚哉は千晴の問いかけには答えず、まんじりともせず教室の中を食い入るように見つめていた。その瞳には、少々の驚きと、多大な悲しみが渦巻いていた。

その瞳に何かを感じ取ったのか、千晴も教室の中を覗く。


「!」


千晴は驚きに、眦が裂けんばかりに目を見開いた。


「……え、あ」


そして、まるで喉から出したとは思えない程の掠れ切った声を発した。


「……チハル」


千晴がそれ以上の言葉にならない声を発せないでいると、尚哉が唐突に千晴の名を呼んだ。


「……?」


千晴は声で返事はせず、代わりに今にも泣き出しそうな顔で尚哉を見つめた。


次の言葉を待っているのだ。


そんな千晴を、尚哉は悲愴な決意を固めたような、 儚い顔つきで見つめ返すと、一つ深呼吸をし、千晴に呟く。


あたかもそれは、決意表明かのようだった。


「中に入ろう。チハル」


「!………」


「……チハル」


尚哉の提案に押し黙ってしまった千晴に、尚哉は真っ直ぐな声色で千晴の名を呼んだ。


「駄目だよ」


「………」


「決めたんだから」


「……うん。分かってる」


「そう」


「頭では理解してても。……ねぇ、尚哉」


「……何?」


「辛いよ…」


「………」


千晴の哀切極まり無い言葉に尚哉が瞳を伏せた。


「………」


尚哉は眉間に皺を寄せ、苦しそうに目を瞑ると、先程よりも深く深呼吸をした。


それは、様々なモノを押し出しているかのような、押し殺しているかのような溜息に聞こえた。


「……はぁ~」


そうして再び目を開けた尚哉は、改めて決意を固めたような表情をしていた。


「行こう、チハル。行動しなきゃ、何も変えられないんだ」


「……うん。そうだね。そうだよね」


二人は顔を見合わせて頷き合った。そして、教室のドアに手をかけ力強く開けると、教室の中に入って行った。


―――二人を送り出した廊下には、二人を応援するかのように、澄んだ空気が流れた。


が、すぐに梅雨の湿気を含んだ風が廊下を吹き抜け、澄んだ空気はあったのかどうかすら分からなくなった。


霧散した。


廊下に残った空気は、雨を運んでくるそれの匂いがした。

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