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神田先生  作者: KMY
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第08話 首吊り死体と長谷川

「死ぬことは、とてもいいことなのよ」

 一人の少女が、一人の少女に言う。ここは夜の校庭。花びらと葉っぱが半分になっているソメイヨシノの桜の木の下に、首吊りの縄と踏み台が置かれている。赤木売生子あかきあいこは、糸色己美いとしききみに自殺をそそのかしている。その隣には、朝風あさゆうまきもいる。

「で、でも、確かにこの世には未練はないけと、」

 糸色がためらいながら言うと、朝風はボンと糸色の背中を叩いた。

「人が首吊っている姿は、とっても情熱的なのよ!わかる?わたしはね、すっと首吊り死体を生で見て肌で触るのにあこがれているのよ!」

 感動したような目つきで朝風はいい、それに乗って赤木も言う。

「人の死を仲介したら、私も、あ、あこがれの天使に…!」

「とりあえず、私が死ねば喜ばれるんですね?」

 糸色が言うと、二人の少女は同時にごくんとうなずいた。


 その次の日の朝。28日の月曜日のことである。いつも通り朝一番、午前7時きっかりに学校の門をくぐったその少女は、校庭に生えている十数本の木のうち、一本の木の枝に何かが吊られているのに気づいた。羽生はそれを一瞬見たとき、そこにあるものが信じられなかったが、それがそれでなければならないと分かった時、羽生は悲鳴を上げた。

「いやあああああああああああっ!!」

 羽生は走って、首を吊っている人の前へ向かった。

「糸色さん!?」

 糸色が、自分のクラスメートが、自分の目の前の木で首を吊っているのである。こんなありえないことがあるのだろうか。

「糸色さん!!」

 羽生は、その首吊り死体を思いっきり揺さぶった。

「…ん?」

 糸色がゆっくりと眼を開く。

「何?」

 いきなり糸色にこう問われ、羽生は安堵の息を漏らす。

「なあんだ、死んでなかったんだ…。」

 羽生はほっとした表情を顔に浮かべ、そしてその一瞬後、この現象が如何に不自然で不気味なものかに気づいた。

「いやああああああああ!!何で生きているの!?幽霊よ、幽霊!」

「呼びましたか?」

 いきなり後ろから声がし、羽生は振り向く。しかしそこには誰もいない。オカルトが嫌いで怖い羽生の絶句は限界に達した。

「生田君ですよ」

 羽生に続いて校庭に入った少女、朝風が羽生に声をかける。

「なあんだ、5番の生田君…ってええっ!?」

 羽生は白くなった。

「な、何で、幽霊がクラスメートに…!?」

「あっ、三人ともおはようございます」

 再度後ろから声がし、羽生はこれまだ幽霊かとついに泡をふき倒れた。

「あっ、羽生さん、寝てしまいましたか」

「ちょっと違うと思います」

 神田先生の問いに朝風が応じた。神田先生はしばらく気絶している羽生を見ていたが、ふと前を向く。

「…ん?あんなところで首を吊っている人が…ってええっ!?」

 神田先生は真っ青になる。

「た、助けないと!」

「大丈夫ですよ」

 じたばた首を吊っている人の方へ向かおうとする神田先生を、朝風は制した。

「あ、おはようございます」

 首を吊っている少女が、首を吊ったまま神田先生に語りかける。

「あっ、無事でしたか」

 神田先生が安堵の息をつく。―――そして。

「……って、えええええええええええええええええええ!!!」

「大丈夫ですよ、彼女は生きています。死んでませんよ」

 朝風がかたわらでそう言う。

「あ…な…そうなんですか……」

 神田先生はいささかの恐怖を含む笑顔でそう言った。

「何でそんなところで首を吊っているんですか?」

 神田先生が尋ねると、その少女は返事をする。

「死にたいから」

「い…いけませんよ、死んだらだめです!作者だって、好きな子に悩みを相談してしまって気まずい雰囲気にしてしまって、」

「何生々しい話をしているんですか」

 朝風が人差し指で、神田先生の頬をつく。

「は、はぁ…、とりあえず、ここの生徒さんですか?」

 神田先生は半分あきれた顔をして、糸色に尋ねる。

「生徒もいかにも、神田先生の生徒の糸色です」

「ああ…、制服じゃなかったから気が付かなかった…、糸色さんですか」

 神田先生は無理やり、平常を保つ。

「はい…、いくら首を吊っても死ねないんです。だから毎晩こうして首を吊りながら寝ているんです。ただ、たまに夢を…」

「どんな夢ですか?」

「赤木さんと朝風さんが、私が死んだらみんな喜んでくれると言ってくるんです。それで私、わくわくして首を吊って…」

「おはよう」

 朝風が糸色に挨拶する。

「う、うわ、来てたんですか」

 糸色はびっくりし、それから自分の首を吊っている縄を解き、地面に降り立つ。

「おはようございます。ええと、着替えて準備してからまだ来ますね」

 糸色は一礼し、首吊りの縄を持ってその場から去った。

「本当にうちのクラスには、いろいろな人がいますね」

 神田先生が糸色の後ろ姿を見ながらそう言い、朝風もうなずく。

「おはよう」

 長谷川がそう言いながら神田先生の横を通り抜ける。

「あっ、長谷川さん、おはようございます!」

 神田先生がそのほうを振り向き、挨拶を返す。神田先生は一つ気づいたように、長谷川に言う。

「そういえば、長谷川さん、先週の歯科検診、休んでいましたね。今日は欠席した人の再検診の日ですから」

「はい?」

 長谷川は一瞬真っ青になったが、とたんに冷静を表情に取り戻す。

「わたし、家に忘れ物をしましたので」

 そう言いながら長谷川は、そそくさと去ろうとする。

「待ちなさい。」

 いつの間にか起き上がっていた羽生が長谷川の肩をつかむ。

「一度学校に来てしまった以上、病気以外の如何なる事情があっても、その日の課程を終わらせるまで家に帰ることは許されません。」

「で、でも、さっきの糸色さんは?」

 長谷川が反論するが、羽生は黙って首を横に振る。

「ここで寝ているからいいの。」

「遅刻は8時から」

「ともかく、あなたは如何なる事情があっても、今日あたしの許しなくで帰ることは許されません。」

「うええっ!?」

「あ、あの、あと1時間の間なら十分な準備ができると思いますか?」

 神田先生が横から羽生に声をかけるが、羽生は厳しい口調で神田先生に言う。

「この人は、小学1年生の時から付き合っていますが、今までに忘れ物をしたことは一度もありません!」

「でも、猿も木から落ちるといいますし、」

「いけません、先生…。長谷川さんは、小学1年生の時からすっと、歯科検診の日は必ず休むんです。」

「はい?」

 神田先生は長谷川の方を向き、言う。

「なにか……事情があるのですか?虫歯がはなはだしいとか?それならば、むしろ見てもらうべきです。僕みたいな素人が分かる問題でしたら、それは大変なことですよ!とりあえず、口を開けてください」

 神田先生が言うが、長谷川は顔を横に振る。

「何で歯科検診に行けないんですか?」

「ほっといてください」

 長谷川はそっぽを向きながら言うが、それと同時にばちっと白い光とシャッター音がした。

「玲子ちゃんのお口の中、しかと撮影させていただきました!」

 カメラを持っているのは、少年だった。

「あっ、先生、ついてにおはようございます」

 少年が一礼すると、神田先生は問う。

「どなたでしたっけ?」

「先生!」

 羽生が横から神田先生に怒鳴る。

「生徒の名前は全部覚えてください!」

「い、いや、でも、読者が分からないので、」

「読者サービスもいい加減にしてください!」

「僕に暴力を振るあなたこそ読者サービスじゃないんですか?」

 神田先生は反論するが、羽生は例のあの眼をする。

「わあ、嘘です、嘘です!」

「とにかく、6番の伊口いく君です」

「伊口君ですか」

 神田先生がそう言うのと、長谷川が伊口に飛びつくのと、ほぼ同時であった。

「写真を返せ!カメラごとよこせ!」

 長谷川が伊口の襟をつかむが、

「ちっちっちっ♪世の中そんなに甘くないもんね♪」

 伊口はそう言い、カメラを手で固く握って死守する。長谷川はその手を何とか解こうとする。

「そういえば、いつもより口数が多いね、長谷川さん。」

 羽生が言う。

「友達ですか?」

 神田先生が尋ねるが、羽生は続ける。

「いいえ、友達ってもんじゃありませんよ。彼女は無口で…、ある意味そして強いです。」

 羽生はそう言い、黙って児童玄関へ向かう。

「羽生さ…!」

 神田先生は羽生を呼ぶのをやめた。そして再び伊口と長谷川の喧嘩を眺める。

「朝風、赤木、手伝って♪」

 伊口が明るい声で言うと、赤木と朝風は長谷川の体を差し押さえた。

「へへ、インスタントカメラでよかった♪」

 伊口は明るい声で、二人の少女に差し押さえられてじたばたしている長谷川の目の前で、カメラから出た写真を常温に慣らしている。

「〜〜ん、こ、これは…!?」

 伊口はぴたっと静止して動かなくなった。

「返せ!」

 長谷川が、自らを差し押さえる二人の少女をおしのけて、伊口を襲う。伊口の手から写真を奪い、それをびりりっと細かく破り捨てる。

「誰にも言うなよ」

 長谷川は伊口の鼻を思いっきり押す。

「ひぃ!は、はい…」

 伊口は真っ青になってうなずく。

「や、やっぱり、家に帰してください!」

 伊口は真っ青になりながら神田先生に懇願する。

「ええと、今まで歯科検診をしたことがないなら…」

 神田先生が拒否するが、伊口は土下座をする。

「お願いだ!帰してくれ!長谷川は実は青のり好きだなんで誰にも言わない!神に誓って!」

 土下座をしている伊口の後ろから殺気がする。

「そっちかい!」

 長谷川は伊口の頭をぶん殴る。

「殺してやる!」

 涙を何滴か流して、長谷川は伊口を対象に殺りくを始めた。

「ええと、歯科検診の件ですか…」

 神田先生が尋ねるが、長谷川はぶいと言った。

「いないとだけ伝えてください」

「は、はぁ…、分かりました」

「えっ?」

 長谷川は神田先生の方を振り向く。

「いいんですよ、虫歯たらげなら」

 神田先生の追伸に、長谷川は再度肩をかっくりと落とす。

「やっぱりお前も殺してやる!」

 長谷川に襟をつかまれ、神田先生は、羽生ほどではないが強烈なオーラを感じた。

「や、やっぱり、長谷川さんは羽生さんの親友でいいです!いいです!」

 神田先生が言うが、彼は死の危機に瀕していた。

 〜To be continued!!


 *次話からは、旧「神田先生」の第07話「ヴァンパイアの逃亡」を複数話に引き伸ばしたものとなります。

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