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神田先生  作者: KMY
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第07話 抗議と変人

 2003年4月25日金曜日。一人の少女は、校長室のドアをノックしていた。

「入りなさい」

 中からの声とともに、羽生は丁寧にドアを開けると、校長室に入って礼をする。

「校長先生。」

「何だね」

 大きな窓を背にした大きな木の机に腰をかけている、年配の面の校長先生、有川武ありかわたけしに、羽生は一歩一歩歩み寄って言う。

「突然ですが…、あたし、1年は組になりました。」

「ああ、それはおめでとう。まだ餞別かね?」

「いいえ。」

 羽生は、校長先生の机の前つばに手をかけられる位置まで来ると、やや強めの声で尋ねる。

「あたしの1年は組の担任の神田先生ですが、」

 羽生がそこまで言うと、校長先生は口を挟む。

「ああ、この小説はコー○:ブレ○カーより先に発表されたからそこは大丈夫」

「その話ではなく。」

 羽生は、はあっとため息をつく。

「労働基準法では、15歳の誕生日の次の3月31日を経過しないと一切の労働をすることが認められませんが、まぁ第2項では俳優などに限ってこれを免除する旨が書いてありますが教師はどう見ても俳優ではないでしょう、で、」

「その話かね…来ると思っていたよ、でもよりにもよって君とは」

 校長先生は椅子から立ち上がると、後ろの窓のほうを向く。

「なぜ、神田先生の就任を許したんですか!」

 校長先生は、窓の外の、ありふれた街の景色を眺めながら、はあっとため息をつく。

「かおる」

「はい。」

「世の中には…、大人の事情だけでは割り切れない、何かがあるのだよ」

 校長先生はそう言って、羽生を振り向く。

「おこづかいをあげるからそれで勘弁しなさい」

「できません。」

 羽生は、首を横に振る。

「……あの人の恐喝だ」

 校長先生がぼそりと言うと、羽生は机に身を乗り出す。

「それは誰ですか!?教えてください!!」

 それと同時に、ばんと銃声が響く。がっしゃーんと、校長先生の後ろの窓がことごとく割れ落ちる。羽生は思わず校長先生に注視したが、校長先生は無事に何食わぬ顔をして立っていた。

「ちっ!ヤモリが絡んでいるのか!」

 羽生が制服の脇のポケットに手を伸ばそうとすると、校長先生は大きめの声で言う。

「私は…人質だ」

「……えっ?」

 羽生は、思わず声を上げる。校長先生は、視線を落としていた。

「かおる」

「はい。」

「君は、何も知らずにここで普通に生活していきなさい」

「できません。」

 羽生は、怒鳴る。

「私は、自分が正しいと思ったことだけをやります。」

「しかし、それが曲がり通らぬとしたら?」

「全力で駆け抜けます。」

「しかし、ゴールが見えないとしたら?」

「見えるまで駆け抜けます。」

「しかし、駆け抜けるための足が細いとしたら?」

「鍛えます。」

 羽生がそう言うと、校長先生は困った顔をする。

「私の命令だ。おこづかいは好きなだけあげるから、出て行って欲しい」

 校長先生の一言に、羽生は呆然とした顔で突っ立っていた。校長先生は、頭を抱えて椅子に座ると、再び顔を上げる。

「出て行きなさい」

「……はい。」

 羽生は、しょんぼりとした顔をして、とぼとぼと校長室から出て行く。ドアが閉まると、校長先生はゆっくりと立ち上がる。

「さて」

 校長先生は、スーツの脇のポケットから一本の―――、ペンくらいのサイズの木の棒、杖を取り出すと、足元に割れ散らばっているガラスに向ける。

「リターン」

 ガラスの破片らは浮かび上がり、それぞれの元いた場所へ戻っていく。窓は再び、元とおりになってゆく。元通りにきれいになった窓を見上げ、校長先生ははあっとため息をつき、杖を脇のポケットに入れる。

「やれやれ…、この年になって使うとは思わなかったな」

 そうつぶやくと、再び椅子に腰掛ける。そうして、手を組みその上にあごを乗せ、視線を少々上へ上げる。少し重い声で、校長先生は一息ついた。

「―――魔法を」


「まったく、役立たずなんだから。」

 羽生はそれだけ言うと、校長室の前から離れていく。

「校長先生と、何があったの?」

 横に朝風あさゆうがついて来る。

「朝風。」

 羽生は、朝風の顔をじっと見つめる。

「な…何?」

 朝風が少し戸惑いながらもにこっとした顔で尋ねると、羽生は首を横に振る。

「あたしたちは……、大変な学校に来てしまったかもね。」

「え?どういうこと?」

「朝風さん。」

 羽生は、真顔で朝風の目を見る。

「もしできることなら、できるだけ早く別の中学校を探したほうがいいわよ。」

「どうして?」

 朝風が疑問そうに尋ねるが、羽生は口を開けない。

「そんな事いわないで、もっと明るくこの学校を過ごそうよ!ね?」

 朝風がにこっと羽生に言うと、羽生は少し微笑む。その微笑みが微妙に無理やりな感じがしたので、朝風は心配そうな顔になる。

「大丈夫?今朝、何か悪いもの食べたの?」

「大丈夫。こんなの、作者の恋煩いに比べたらなんでもないから。」

「そう、よかった!」

 朝風はにこっとそう言うと、るんるんるんと廊下を走り出す。

「ちょっと!朝風さん!廊下は走っちゃ……」

「まあ、いいでしょ」

 後ろから羽生の肩に手を置く。

「赤木さん」

 羽生は振り向いて言う。

「いいんちょ、最近暗すぎるよー。大丈夫?」

「だ…大丈夫。」

「こういうのは、」

 赤木はそう言い、羽生の両肩に手を置く。

「わたしの妄想で治してあげる!」

「へ?」

 羽生は一瞬、眼を点にする。

「ルンパ、ルンパ、ルンパ、ルンパ、人として軸が」

「どんな呪文よ。」

 羽生はいささかあきれた顔をする。

「ふふっ、その顔!」

 赤木は顔を上げる。

「わたし、いいんちょのあきれてる顔が一番好き!」

「えっ……。」

 羽生は一瞬、赤木の笑顔にどきっとする。

「それじゃ、ね!」

 赤木はそう言い、これまだるんるんるんと廊下を走り出す。

「……こら!!廊下は走っちゃだめでしょ!」

 羽生は後ろからこう怒鳴った。

「まったく。」

 羽生はそう言い、自分の教室へ歩いていく。

「羽生さん、めずらしいですね」

 すれ違った神田先生が、羽生に声をかける。

「えっ?何がです?」

 羽生が神田先生に尋ねると、神田先生はにこっと答える。

「授業、始まってますよ」

「え……」

 羽生はどきっとする。

「な……」

 羽生は全力で、自分の教室へ駆け出した。

「あ、廊下をそんなに速く走ったら……」

 神田先生は、いささかあきれたようにそう言ってから、次の自分の受け持ちのクラスへ早足で歩いていく。


「今日のいいんちょ、珍しかったなぁ」

「ああ、そうだな、授業に遅れるなんで」

 その日の昼休みの教室で、零時治と前田渉の間でこんな会話が交わされる。

 と、そこに。

「やあ!」

 龍山みやびやまが、二人に声をかける。その龍山の容姿を見て、零時と前田の二人は同時にどきっとする。

「ずぶ…濡れ」

 龍山の服はずぶ濡れで、髪の毛も水びたし。手の先も、体中どこまでも、先ほどまでプールに入っていたかのように水びたしであった。

「プールにでも入ったのか?」

 前田が冗談のつもりで言うと、龍山は途端に朗らかな顔をする。

「大正解!!」

「プール……」

 二人はあきれた顔をして、お互いの顔を見合わせる。

「なぁ、プールはもうちょっと先だろ」

「ああ、まだ4月なんだし」

「だって俺、濡れるの好きなんだ!ああ楽しい!」

 龍山はそう言うと、別の生徒に同様のことを話すべく、二人のもとを去っていく。二人はしばらく黙っていたが、やがて前田が口を開く。

「あきれたな……、このクラスには変人がたくさんいるんだな」

「うん」

 零時もそう返し、教室の隅で大きなかばんの中から水着をあさっている八月一日ほずみをちらと見る。

「変人が二人だけであることを祈るしかないな」

 零時がそう言ってため息をつくと、前田も苦笑する。

「羽生も几帳面すぎで変人レベルじゃないか?」

「ああ、それも確かに」

 零時は、くすっと笑う。

 〜To be continued!!

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