第06話 バイバイン
羽生は、学校の教室で、読書タイムで「神○先生」という名の本を読んでいた。その本は"誰もが認めた世界一つまらなく、吐き気を催すのに最適"とされている小説で、K○Y原作で、ある程度の厚さはあった。
読書タイムを終え、羽生はその本をバサッと机の上に置く。
「こんな本にするんじゃなかった。つまらない。」
すると、羽生の隣で、終了の合図を過ぎてもなお本を読み続けている是が、珍しく羽生の方を向いている。
「な、何よ。」
羽生が尋ねると、是は言った。
「ズル、しましたね」
「はぁ?これはとってもつまらない小説なのよ。これを読んでどこがズルなの?」
そんな羽生に、背後から朝風がぼそりと声をかける。
「それ、一刷だから」
「どういうこと?」
羽生は振り向き、朝風に尋ねる。朝風は応じた。
「最初のものには価値があるということですよ」
「はい?」
「最初のものには価値があるのに、続くほど価値が減っていくのです」
朝風のセリフに、赤木が便乗する。
「第一話では期待させておいて、第二話では急につまらない内容になるんです。つまり、第一話が最新話になっているうちは価値があるんです。神○先生とか」
朝風が応じる。
「神○先生だけじゃありませんよ。世の中のありとあらゆる小説、そして漫画、みんなみんな最初のうちは読者に期待させておいて、進むほどに読者の期待を裏切って行くのです」
その二人のやり取りを聞いて、羽生は耐えられなくなった。いきなり立ち上がり、教壇に向かって怒鳴る。
「神田先生!」
「ひ!」
嫌な予感のした神田先生は、退る。
「な、何でしょう」
「価値を維持させてください!」
「何の話ですか?」
「一度決めた価値は、きっちり維持してください!」
羽生は教壇へ歩み寄る。是は、読書を再開している。羽生は、神田先生に詰め寄る。
・タイムサービス
・居候
・テレビ東○のアニメ
・佐藤、田中、小泉、安陪
「とにかく、進行していくごとに価値が減っていくものが沢山あるんです!先生、責任を取ってください!」
羽生に襟をつかまれた神田先生は、応じる。
「い、いや、別に僕の所為では」
「先生」
一人の生徒が手を上げる。
「あ、犬神さん」
神田先生が応じると、犬神は立ち上がる。その犬神の姿を見て、神田先生は眼を丸くする。
「あ、あの、ベットは持ち込み禁止ですよ?」
犬神の腕には蛇、頭には犬の耳みたいなもの、肩には鳥がおり、さらに黒猫を抱いている。犬神は言った。
「ええと、この前ライオンを動物園から盗みましたが、あたしの家で動物が増えすぎたら逆に可愛くありませんね」
「逆に減ると思いますか!食べられるし」
神田先生が突っ込むが、犬神は続ける。
「増えすぎたら価値がなくなるものですね」
「そうとは限りませんよ」
朝風が立ち上がり、犬神の方を向いて言う。朝風は、教室の隅、自分の斜め後ろを指差す。そこには、机にたくさんの水着を、並べてもどうしても重なってしまうくらいたくさん並べて、片っ端から水着をなめたりキスしたりを繰り返している少年がいた。
「水着コレクターの八月一日聡君です」
神田先生は呆れた。
「水着をなめているのはもはやコレクターとかではなく変態のたぐいですから!」
朝風は続ける。
「それだけでなく、是さんもいらっしゃいますよ」
「本の多さには圧倒されましたが、繰り返し読んでいるわけではありませんから」
神田先生がそこまで言うと、長谷川が手を挙げた。
「長谷川さん」
神田先生が当てると、長谷川は立たずに言った。
「前に座っている犬をどうにかできませんか?動物、迷惑です」
「は、はぁ…」
神田先生は、長谷川の前に席を取っている犬神の方へ歩み寄る。
「犬神さん、ベットは学校に持って来ないでください。というか家にはいくつベットがいるんですか?」
「ええと、パンダ、ドラゴン、幽霊、オコジョ、赤ちゃん…」
「全部家にいるのはありえないですから!というか、赤ちゃんは?妹ですか?」
「四国に旅行に行った時、ポストから拾いました」
「ポストから拾って…あのポストですか!?だめですよ!ポストに返してください!」
「とにかく。」
羽生が教壇に立ち、神田先生に向かって怒鳴る。
「高校生を教える17歳の先生、中学生を教える10歳の某魔法使い英語教師、そして神田先生…14歳。とにかく最近は未成年の先生が増えすぎでそういった話つまらなくなりました。」
「あ、あの、僕はやりたくでやっているわけでは…」
神田先生が教壇に戻ると、羽生はさらに続ける。
「17歳はともかく、10歳と14歳は許せないんです!」
「そういえば、最近魔法の話が増えすぎていますね」
赤木が横から割り込む。
・魔法
・未成年の教師
・個性的な人たち
「最近似たような内容の小説が多くなってきていますね。K○Yも魔法を敬遠し出しましたし…」
「結局敬遠できていないじゃないですか!」
神田先生は反論するが、赤木は言った。
「増えすぎで自分が読みたい小説が見つからなくなる。インフレの障害ですよ」
「あ、あの」
神田先生は反論の糸口を探そうとするが、羽生が横から神田先生に言う。
「全部梅どんの責任です!」
「い、いいえ、梅さんの責任ではないと思います。みんなの夢が…」
神田先生がそこまで言うと、羽生は神田先生の腹を殴る。
「とにかく某小説投稿サイトの管理者には更迭してもらいます!」
「い、いや、だから、そんなことを梅さんの圏内で言ってしまったら大変なことになりますよ!」
神田先生が何か言葉を探そうとすると、いきなり引き戸が開く。
「K○Y秘密警察です」
私服を着ているその男の姿を見て、神田先生は男に言う。
「3日前、駅前で会った男じゃありませんか!」
「やあ、久しぶりですね」
男は言い、一区切りつけて教壇へ歩み寄る。
「それ以上言うとK○Yさんの作者登録が削除されてしまう恐れがあるとの懸念から、K○Yさんの指示で逮捕します。羽生かおるさん」
男は羽生の手に手錠をかける。
「な、何ですか!」
羽生が男に怒鳴るが、男は黙って羽生の手錠をぐいぐい引っ張る。引き戸が閉まる。二人は、教室から出て行ってしまった。
その様を見て、神田先生は安堵のため息を漏らす。
「羽生さんは、法律で死刑になるかもしれませんね。まあそれはそれでいいとして、HRを始めましょう。出席を取ります」
「先生」
一人の生徒が手を挙げる。
「ああ、佐々木君」
佐々木は立ち上がり、先生に問う。
「ロシアですか?」
「はい?」
神田先生は眼を点にする。
「なぜロシアの話になるのですか?」
「あ、いや、だから秘密警察とか出ていましたので…」
「ああ、確かに秘密警察…サード○イ…って、話題をそらさないでください!いいかげん朝のHRを始めますよ。」
「ちょっと待ってください。」
いきなり引き戸が開き、羽生が現れる。
「はい?逮捕されましたはずですが?」
神田先生が羽生に問うと同時に、羽生の手が赤っぽくなっていたので見た。
「ひ!」
なんと、羽生の手には、血に染まったナイフが握られていた。
「こ、殺したんですか!」
「まあね。」
羽生はさらりと言い、教壇へ歩み寄り神田先生に言う。
「殺した時、思いついたんです。増えすぎたら、余分な物を削ったほうがいいじゃないですか」
「な、なんたか嫌な予感がします」
羽生はチラッと生徒達の方を見る。
「生徒の数が31人。春の野原に似せたいのは分かりますが、せいせい女の子はラ○ひなみたく6人で結構」
「ひ!」
生徒達は真っ青になり、がくがくと隣の席の人を抱き合う。
「まず生田万。毎日欠席なのね。」
「あ、ちゃんと毎日通っていますよ」
犬神が羽生に言う。
「そこの席に、毎日座っています」
「嘘をつけ。」
羽生はそう言うが、犬神は続ける。
「チョンマケに着物を着ているから、すぐ分かると思います」
「どこ?」
羽生は、血まみれのナイフを右手にぐっと握り、犬神に尋ねる。犬神は答える。
「そこの席です」
「空っぽじゃない。」
「ちゃんと座っていますよ」
羽生は、ナイフをさくっと生田の机に強く刺し、犬神に怒鳴る。
「言っておきますが、あたしには見えません。以上。」
「ええと、HR中です」
神田先生が言うが、羽生は神田先生を、例のあの眼で睨む。
「ひぃ!」
神田先生は真っ青になる。羽生は続ける。
「思えば、このクラスで一番いらないのは、先生でしたね。そもそも存在自体が違反ですし。」
「ひぃ!ね、ネギのほうが悪質なのでは…」
「後悔しなさい。」
羽生はそう言い、机からナイフを抜こうとする。しかしぬけない。羽生は両手で抜こうとするが、これもまだ抜けない。
「呪いですよ」
犬神が言うと、羽生は犬神に尋ねる。
「呪い?」
「だって、生田君、幽霊ですから」
その語句を聞くなり、羽生はいきなり真っ青になり、絶句して倒れた。
「ああ、気絶してしまいました」
神田先生が教壇に立ち、改めて生徒達に言う。
「確かに羽生さんの暴走も、回を重ねるごとにつまらなくなってきましたね。羽美さんと反比例ですし」
生徒達もうなずく。むしろ命に関わるのである。
「で、どうします?羽生さんを保健室に連れて行く人」
神田先生が聞くが、生徒達は誰一人手を挙げようとしない。神田先生は生徒達を見回す。一人だけ手を上げている少女に気づいた。
「長谷川さん」
長谷川は黙って立ち上がり、生田の席の前で気絶している羽生を背中に抱き、黙って教室から出て行く。引き戸が閉まると、神田先生は評価する。
「彼女、強いですね」
「強いわけではありません」
朝風が言う。
「それはどういうことなのですか?」
「彼女の父、幽霊ですから」
「はい?」
神田先生は真っ青になる。しかし朝風は平然と続ける。
「幽霊インフレですよ。最近は幽霊を主人公にした小説も増えていますしね」
「あの、幽霊と決まったわけでは!それに生徒の一人に幽霊なんて、まんまあの漫画のいじりと思われるじゃないですか!」
神田先生が反論するが、朝風は続ける。
「思春期の反抗も多すぎますね。多すぎで対応が機械的になりかちです」
「それはどうでもいいですから!」
「それに、幽霊がいる以上霊能者もいなければいけません」
朝風はそう言い、ちらっと犬神を見る。
「犬神さん、幽霊見えるんですか?」
神田先生が尋ねると、犬神は短く言った。
「まあね」
「そうですか…、では余談は置いといて、」
神田先生がHRを続けようとしたその時、引き戸がいきなり開く。
「大丈夫のようです」
長谷川が神田先生に短く言い、自分の席へ戻る。そこへ残った少女、その名は羽生かおる。
「ひぃ!」
神田先生は再度真っ青になる。羽生は続ける。
「余談多すぎ!ちょっとだけの余談なら続きをしたくなりますが、たくさん余談をすると価値がなくなりますよね。」
「そ、それも確かにその通りなのですが、」
「では、先生、一つ提案をします。」
「な、何ですか」
神田先生は嫌な予感を覚えた。
「では、出席を取ります」
羽生を除くその教室にいる人々は、みんなあきれ返っていた。
「糸色さん、公孫田さん、犬神さん、一条君、生田君、伊口君、…」
神田先生は、あまりに過酷な事情で、生徒達の名の読み上げをやめた。出席を取るのが、あまりにも静寂過ぎるのである。すなわち、余談禁止の故に生徒達全員がマスクをしているのである。
「では、3時間目の国語の勉強を始めます。まず、今回の新出漢字ですが、これを読める人は手を挙げてください」
神田先生は言うには言うが、生徒達は発言が出来ないから手が挙げられない。
「って、雑談以外の時もしゃべれませんから!」
神田先生が教壇をバンと叩き、羽生に反論する。しかし羽生はマスクを外して言う。
「セリフも、増えすぎたら訳がわからなくなります。正当な処置です。特にこの小説はセリフが多すぎます。」
「い、いや、だから、そこまでしなくでも…」
「なら、神田先生が実は魔法使いだったという当初の設計を修正することを約束しますか?」
「約束します、ってかそのことはもともと第06話発表時点では決まっていなかったことですし!」
「魔法が出てくる小説が増えてきてK○Yも魔法を形式上敬遠している以上、きっちり魔法をこの小説から排除しなければいけません。ええと、当初の設計では、あなたの他に、長谷川さん、あたし、零時君、その他女子を中心に魔法が項目になっているものがありますね。」
「は、はい」
「全部、撤去してください。」
「あ、あの、僕は作者ではありませんから…」
神田先生がそう言うと、羽生は例のあの眼をする。
「ひぃ!」
神田先生は真っ青になる。羽生は続ける。
「キティみたいに、ヴァンパイアの設計を持った少女もいると聞きましたが?」
「い、いや、だから、歯科検診の時は必ず学校を休む人もいますが、それはちょっと…って、ネタバレ」
「いっそのこと、この小説からファンタジーを一掃することを要求します。」
「ひぃ!僕、作者じゃないのに…」
神田先生が言うが、羽生は例のあの眼をする
「黙れ。」
「ひぃ!」
神田先生は真っ青になり、退る。これから自分がしなければいけないことが垣間見えてきた。
次回第07話は、新「神田先生」の書き下ろしです。お楽しみに。