第05話 1減らせば済むことなのか
「姫甥菓子博2008まであと313日です!」
朝、テレビ画面で、羽生はニュースを見ていた。
「姫娚菓子博とは、兵庫県姫甥市で開催される…」
ニュースのアナウンサーが伝えることを、羽生はパンを食べながら聞き流した。
学校。羽生は、教室に入った。
「おはよう、委員長さん」
教室に入ってすぐに朝風から声をかけられる。羽生は毎日朝一番に来ていたのだが、今日は朝風が一番で、自分は二番らしい。
「誰が委員長よ?」
羽生は尋ねる。
「あなたじゃないの」
「はぁ?」
「今日、委員長と副委員長と書記の任命式なんだけと、このクラス、まだ決めてないでしょ?だから神田先生がしょうがなく羽生さんを強制的に…」
「えっ?なに?ちょっと待って!」
「本当の話だから」
羽生は、そういう朝風を押しのけて、黒板を見る。
"前期 委員長 羽生かおる 副委員長 八月一日聡 書記 朝風まき"
黒板にはこう書かれていた。
「なに勝手に決めているのよ!」
その時、引き戸が静かに開いた。
「おはよう」
その人の顔を見て、羽生が、その少女に言う。
「あれ、誰だっけ?あんた。」
その少女は、羽生に応答もせずに黙って教室に入る。
「長谷川よ、長谷川」
朝風が羽生にささやぐ。
「長谷川?ああ、10番ね。」
羽生もそう言う。しかし急に思い出したように、朝風に怒鳴る。
「ってか、委員長の話はどうなったのよ!」
「ああ、しょうがないね」
「しょうがないって、何よ!」
教室の引き戸が再び開き、前田と零時が入る。
「あ、おはようございます、羽生さん」
零時が羽生に挨拶すると、羽生は怒って反応する。
「おはよう!」
「ああ…、そういえば菓子博まであと313日だったね」
零時が前田に言う。
「そうだね。それにこの姫甥市立一ノ谷中学校の生徒達は全員参加するって」
「へー」
二人はそう話しながら、自分の席へ向かう。
「なんか今日はいらいらする。」
羽生はそう言い、朝風を睨む。朝風はそれに対して何の反応も示さずに、羽生に明るく語りかける。
「そういえば、私の妹出産予定日まであと24日よ」
「はい?お母さん妊娠してたの?」
朝風はこくっとうなずく。
「お母さんね、名前は例磊にするって」
「レライねぇ…。例磊…。どっかで聞いたような名前。」
「まあそれはそれとして、」
「おはよう」
引き戸が開き、糸色が入る。
「あたしのお父さんの命日まであと53日だって」
「え?お父さん、死んでたの?」
羽生が尋ねると、糸色は首を横に振る。
「53日後に自殺するって。」
「なんじゃそりゃ!」
羽生は呆れるが、糸色は黙って二人の間を抜けて席へ向かう。羽生はドアを閉めながら、
「最近はカウントする人が多いわね。」
「まあ、しょうがないじゃないの。時代の潮流だし」
朝風が言うと、羽生はいらっとした顔で言った。
「それじゃ、今までの潮流はどうなったの!?」
「ええと…」
朝風がそこまで言うと、再び引き戸が開く。赤木であった。
「わん」
「何犬の真似しているのよ!挨拶は?」
羽生が怒鳴ると、赤木は引き戸を閉めながら答えた。
「挨拶代わりに犬の鳴きまねをするプーム到来まで、あと45日です」
「勝手な事ぬかすな!てか誰もこれもみんな何をカウントしているんだ!」
「潮流ですから」
赤木はそう答え、「失礼」と、二人の間を抜けて席へ向かう。
「起立。礼。おはようございます」
神田先生が教室で生徒達と挨拶をする。
「では、これより朝のHRを始めます」
神田先生がそう言った頃、羽生が立ち上がる。
「あ、羽生さん、委員長のことですか?」
神田先生が尋ねると、羽生は首を横に振る。
「あんた、何か言う事ありませんでした?」
「ああ、はい、ええと、僕の妹の誕生日まであと3日ですね」
「はい?」
羽生は、今まで胸の中にあったわだかまりがぶち切れる思いをした。
「何で最近の日本人は、何でもかんでもカウントするんですか!」
「いや、急にそう言われましても」
神田先生はためらうが、羽生はいつも通りつかつかと教壇へ歩み寄り、神田先生に怒鳴る。
「カウントの数字ばかり覚えていて、当日の日付が分からなくなるんです!」
「ああ、確かに、カウントって当日の日付を入れているか入れていないかややこしいですしね」
「その通りです!それなのに日本人は何でもかんでもカウントしようとする…。」
・MYKblog
・テレビアニメ放送の公式サイトでの「放送まであと○日」
・しんち○ん15周年まであと○週間
・CUR○RUへの移行まであと○日
・閉鎖まであと○日
・福本さんの漫画…最終話まであと○週間
「何でもかんでもカウントしようとしているんです!」
「それもそうですね。世の中には、くだらないことをカウントする人も多いですし」
神田先生が言うと、羽生がさらに深く掘り下げる。
「この小説の作者まで、JavaScriptを使ってカウントするプログラムまで作っていますし、絶交しましょう。」
「いえ…」
「一緒に駅前へ来てください!ダメカウントしている人が多いんですから!」
「いや、今はHR中だし…」
神田先生が言うと、羽生は例のあの眼をする。
「ひゃぁ!『例のあの人』みたいに言わないでください!」
神田先生は真っ青になり、退る。羽生は言う。
「じゃあ従ってください!」
先生と生徒達は、みんな駅前へ向かった。
「あうう、1時間目国語なのに…」
神田先生は泣きながら、羽生の背中についていく。
「ありましたよ、先生。」
羽生が神田先生に言う。
「何ですか?」
「姫甥菓子博2008のカウントです。」
「ああ」
羽生は、生返事をする神田先生を無視して、周りを見回す。と、羽生の肩を叩く者がいた。
「どなたです?」
羽生がその男に尋ねると、男は言った。
「地球滅亡まであと何日ですか?」
「えっ…」
羽生は答えに戸惑う。
「答えは一つですよ」
朝風が横から割り込む。
「2006年です」
「3年後?」
「アン○リ○○ーでこの前やっていた予言特集です」
「ああ、それ結局は外れるのよね。作者も、一生懸命心配してたのに損したって。」
二人が話していると、男はさらに神田先生に尋ねる。
「麻○首相が退陣するまであと何日ですか?」
神田先生は答えに詰まった。
「た、確かに支持率は低迷していますが、それはあまりに唐突かつナーバスでは…」
男は続ける。
「次の衆議選で退陣しますか?」
「い、いや…。というか、あんた誰ですか!」
「そんなことより、民○党が自○党に勝つまであと何日ですか?」
答えに詰まる神田先生に、男性はさらに追い討ちをかける。
・次に酸性雨が降る日
・次に光化学スモック注意報が出る日
・次に大型ハリケーンがアメリカに来る日
・北極の氷が全部解ける日
・地球が滅亡する日
・はしかが世界的な病気と認定される日
・三国○NET K○Y Ve○sionが閉鎖する日
・KMYが死ぬ日
・あの子と付き合える日
「まで、あと何日ですか?」
神田先生は呆れた。
「い、いや、そんなカウントはしたくないですから!特に最後!」
神田先生はそう言いつつ、後ろで地球滅亡の日について複雑な計算をしている羽生に、背中から尋ねる。
「ここは危険です。教室へ避難しますよ」
「待って、この計算が終わってから。」
「もう、羽生を抜いて避難しましょう!」
神田先生と生徒達は、教室へ走るように戻っていった。
「やっと出た。地球滅亡の日。」
羽生が、そこいらの人を脅迫してもらったA4のコピー用紙100枚にわたる長大な計算式の結論を神田先生に読みあげようとした時。
「あれ?先生…先生!」
駅前にいる姫甥私立一ノ谷中学校関係者は、自分しかいないのに気づいた。
「駅前は危険ですね。ええと、1時間目の国語が終わるまであと30分ですね」
神田先生が腕時計を見ながらそう言うのと、羽生が教室の引き戸をバンと開けるのと、ほぼ同時であった。
「羽生さん!」
神田先生は青くなる。羽生は、はあはあと息を漏らしながら、大きな声で言う。
「今、カウントしましたね!」
「あ…いえ、その…」
「あたしは、カウントは許さない女!」
「いつからですか?」
神田先生が突っ込むが、羽生はさらに言う。
「そんなにカウントが好きなら、きっちり一秒一秒ちゃんとカウントしてください!」
「はい?」
神田先生は、悪寒を覚えた。
「今から、1時間目が終わるまでカウントしなさい!」
「いや、そう言われましても」
神田先生はそう言うが、羽生は例のあの眼をした。
「ひぃ!嘘です、やります!ええと、1時間目が終わるまであと28分37秒、28分36秒…」
「その時計、時報と合っていますか?」
羽生はそう言い、神田先生に詰め寄る。
「携帯を貸してください。」
「は、はい」
神田先生から携帯電話を借りると、羽生は時報案内へ電話をかける。時報を確認すると、羽生は神田先生に言った。
「あと27分59秒です。」
「は、はい。27分58秒、57、56、55、54、53、52、51、…」
神田先生は早口でそう言った。
「違う。」
「はい?」
「実際の時間と2496ミリ秒の誤差があります。」
「そんな、ミリ秒単位の誤差はいいじゃないですか」
「だめです、先生。カウントするならきっちりしてください!」
「カウントする人は楽しい気持ちでカウントしているんですよ。そこまできちんとしたら楽しくなくなります!」
「それがどうしましたか?先生。」
「ひぃ!い、いえ、あの…」
「あたしは、カウントを許さない女。これによってカウントする人が減ったら幸いね。」
「は、はい」
神田先生は真っ青になる。羽生は続ける。
「分かったらカウントしてください!」
「ひぃ!」
しろと言われても、ミリ秒単位まで細かくされると、どうやってカウントすればいいのか迷う神田先生であった。