第04話 耳似た子が出来ました
その少女は、ひたすら本ばかりを読んでいた。
彼女の名は、是長読。彼女の机には無数の本が積まれ、天井まで届いていた。たまに呂麻男咲子がよしのぼったりするが、今日は他の友達との会話に夢中であるようであった。
「では、これより朝のHRを始めます」
神田先生が教壇に立ち、言った。
「今日の予定は昼休みに歯科検診です。では出席を取ります。糸色さん、公孫田さん、犬神さん、一条君、生田君は休みですね、伊口君、呂麻男さん、白黒君、花田君、長谷川さんは休みですね、羽生さん、火厘さん、八月一日君、別所君、問丸君、有薬君、零時君、謎十君、卵さん、掲門さん、大場さん、冲本君、前後君、前田君、是さん…是さん!」
神田先生が大きく是を呼ぶが、是は本を読んでばかりで返事をしない。羽生が立ち上がり、つかつかと是の方へ近づく。
「是さん!」
羽生の怒鳴り声に是はびっくりした表情を出すが、視線は相変わらず本である。
「是さん!」
再三神田先生と羽生が怒鳴るが、応答がない。とうとう羽生が、是の読んでいる本を取りあげる。
「返事をしなさい!」
羽生に怒鳴られるが、是の返事は驚くべきものであった。
「本、返して」
「タバサみたく言わないの!返して欲しいなら返事をしなさい、返事を!」
「嫌」
「はいって言いなさい!」
「嫌」
「いくら言っても聞いてくれない人はよくいますから」
神田先生が横から割り込み、羽生の取りあげた本を羽生の手から抜こうとする。
「先生!」
羽生が怒鳴る。
「いくらなんでもこれは優しすぎませんか?」
「いいえ…、人間というものは複雑で、しかも人によって違います。大まかな性格ならすぐに把握できますが、細かい性格を把握するのは難しいです。だから、細かい性格が分からないうちは、相手の反応を見てから対策した方がいいと思いますか…」
「いけません!」
羽生は再度怒鳴る。
「いくらあんたがあたしより1歳か2歳年上だからって、そんな偉そうに言うことはないわよ!」
「で、でも、年上ってことには変わりありませんし」
「そんな根拠で本を返すくらいなら、教育委員会に訴えますよ。」
「い、いや、言っても聞いてくれない人はいくらでもいますよ」
「あんたもじゃないですか!」
「……」
「でも、先生の言うことは、半分は正しいですね。」
「正しいと認めるならば、正しい行動をしてください」
「嫌です。」
「はい?」
「いくら言っても聞いてくれない人がいなくなるまで、この本は返しません。」
「い、いや、だから、それは没収と同じでは…」
「しかもこの本のタイトル、ひ○らしですよ。未成年には望ましくないとされている本です。」
「あうう」
是が、追い詰められたようにふらりと立ち上がる。羽生が言う。
「あんたはこの前もひ○らしを持ち込みましたね!いくら言っても聞かないんだから…。」
「2回目…」
是はぼつりと反論するが、羽生は聞いていない。
・依存症
・お金の事ばかり考えている人々
・ゲームのバグを逆用する人々
・食べ物の好き嫌い
・中国人グループによる人気商品の大量買い上げ
・核
・僕?
「とにかくこの世には森羅万象、いくら言っても聞かない人がいるんです!」
羽生が誇らしげに言うが、神田先生が反論する。
「この小説の作者だって、パソコンをやめて受験勉強しなさいといくら言われても全然聞かないで、さよなら希望先生のアニメばかり検索しているんですから!」
「当時の話ですから…って、そういう問題じゃなくで!話題を反らさないでください!」
二人は言い合うが、横で第三者が会話を始めた。
「そういえば、政治でもいくら言っても聞かない人がいたよね」
零時が前田と、おしゃべりを始めた。
「そうだね、ライ○ドアのメール問題でやめさせられた民○党の議員とか」
その会話を、羽生は拾い聞きしていた。
「それよ!」
羽生は二人に割って入る。零時と前田はびっくりする。
「もしかしてあの議員…」
「違う!」
羽生は反論する。
「おしゃべり!」
「はい?」
「授業中の私語は、一度してしまうと癖になっちゃうのよね!」
「……」
二人は困った顔をして顔を見合わせる。
「とにかく」
神田先生が羽生に言う。
「すっかり忘れられたようですが、是さん日本を返してください」
羽生はそのセリフに反応する。
・〜さんに本を → 〜さん日本を
・車で行く → 来るまで行く
・墓石 → 破壊師
「作者のパソコンのIMEも、いくら変換しなおしても次の変換の時にはまだ同じ変換をしてしまうのよね!」
「あの、そんなにいちいち敏感に反応しなくでも…」
神田先生が言うが、羽生は無視していつも通りの独り言を始める。周りの人々は冷や汗をかきながら聞いた。
「暴政だ!」
「暴政が始まった!」
そんな声が、どこからか響く。
「まず、神田先生。」
羽生は真っ黒な顔をして、神田先生の肩を叩く。
「くしゃみをして人のパンツを見るような十歳の男の子が、いくら言われてもくしゃみをやめないんですよね!」
「いや、だから、それはやりたくでやっているわけでは…」
「それに、14歳の先生。」
「こっちもやりたくでやっているわけでは…」
「先生になった経過を教えてください!」
「いや、ですから…」
「いくら言っても先生を辞めない。一応免許は持っているんですね?」
「はい、国語だけですが…」
「14歳の分際で中学の国語?笑わせるわね。」
「ひぃ!」
神田先生は真っ青になる。羽生は続ける。
「いくら言ってもやめない…一回命令されたらとまりなさい!」
「それじゃロボットと同じじゃないですか!」
神田先生が反論すると、羽生は顔に笑みを浮かべる。
「それよ。」
「はい?」
神田先生と生徒達は、嫌な予感を覚えた。羽生は悠々と言い始めた。
「全員がロボットになればいいんだわ。というわけで、生徒の皆さんには死んでもらいます」
「はい?何でロボットにするためにそこまでやらないといけないんですか?」
神田先生が反論するが、羽生はさらに続ける。
「世界で全く同じ人が二人いたら嫌でしょう?」
「いや、だから何で機械を残して生き物を殺すんですか!」
「ともかく、あんたから死んでいただきます。」
「はい?」
神田先生は退る。
「携帯電話を貸してください。」
「は、はい」
神田先生は、震える手で携帯電話を羽生に渡す。羽生は携帯電話をかばっと開けて、警察に連絡する。
「もしもし。」
「はい、警察です」
「突然ですが、あたしの周りにいる人を全員殺してください。」
生徒達は、羽生のこの発言を聞き、真っ青になって部屋から出ようとする。
「理由?もちろんないわよ。え、だめ?コロス…いいですか?ありがとうございます!」
羽生はそう言い、教室からぞろぞろ出ようとする生徒達を片っ端から捕まえようとする。
「神田先生!」
最初に捕まえたのは、神田先生であった。
「先生として、生徒達を統率してください!」
「あ、あの、そう言われましても…」
先生としゃべっている隙に、生徒達は全員教室から出て行ってしまった。教室は、神田先生と羽生の二人のみになった。
「どうしてくれるんですか、先生!生徒達を全員呼び戻してください!」
「いいえ…、先生として生徒達をまとめるのも大事ですが、先生の義務はもう一つあります。」
「何?」
羽生は、鬼に勝る顔で尋ねる。
「先生は、生徒達に勉強を教えるのと同時に、生徒達を危険から守らなければいけません。親から預かった子供達ですから」
羽生は神田先生の襟をつかむ。
「あんたも子供じゃないの!14歳と聞いて親もかっくりするわよ!」
「は…いえ…」
神田先生はうつむいた。羽生は、しばらく考えてから言った。
「いいわ。」
「へ?」
「教室をもう一つ作る。」
「は、はぁ」
「ただし、あたしの予定があんたのせいでぼろぼろになったのよ?一人二役でないと困るわ!」
「はい?」
神田先生は、さりげなく悪寒がした。
「では、これより国語の授業を始めます」
神田先生は教壇に立ち、生徒達の前で言う。神田先生はちらちら腕時計を見ながら黒板に向かう。やがて、神田先生は生徒達に言う。
「10分経ちました」
その合図で、先生と生徒達はみんな教科書とノートと筆記用具を持って、教室から出る。向かう先は、もう一つの一年は組の教室である。全員が着席したのを確認して、神田先生は黒板に書き始める。やがて10分経ち、教室を変え…。
「って、これあまり意味ないですから!」
3回目の「国語」で、神田先生が羽生に突っ込むが、羽生はにんまりと笑って言う。
「条件よ、条件。それとも、死をお望みなら?」
「ひぃ!」
神田先生は真っ青になる。