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神田先生  作者: KMY
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第02話 帰ってきた神田先生

 4月8日火曜日、入学式の次の日である。その日の1時間目のLHRで、神田先生は言った。

「では、今日から授業が始まりますね。国語の担任は僕で、数学は足座義雄あざよしお先生で、理科は関口疾風せきぐちはやて先生で、社会は緒方澪おかたみお先生で、英語は長羽孝ながはたかし先生です」

 神田先生はそう言い、生徒達に問う。

「他の教科の先生も言いましょうか?」

 生徒達の反応を見て、神田先生は続ける。

「音楽は西島学にしじままなぶ先生で、保健体育は東聡あずまさと先生で、美術は大田磊おおだらい先生で、技術家庭は田中一たなかはじめ先生です」

「そんなこと、いっぺんに言われても分かりませんが」

 羽生が手を上げて言うが、神田先生はにっこりと言い返す。

「少しずつ覚えていけばいいんです。無理して覚える必要は無いですよ」

 神田先生は、ふうっとため息をつき、白いチョークを持って黒板へ向かう。

"1年は組 学級委員長 一人 副学級委員長 一人"

 そう書き、神田先生は再び生徒達の方を向く。

「希望の人は手を挙げてください。では、まず学級委員長」

 神田先生が言うと、何人かの生徒達が手を挙げる。

「じゃんけんで決めます」

 神田先生がそう言うと、羽生がいきなり立ち上がり大声で言った。

「じゃんけんでは公正な競争は望めません!投票で決めてください!」

 羽生が言うと、生徒達も「そうだ、そうだ」と言い始めた。

「そうですね、ええと、ではさっき手をあげた人は前に出てください」

 神田先生が訂正し言うと、先ほど手を挙げた希望者が教壇の前へ並んだ。

「羽生かおる、一条隆、冲本守人、佐々木室治、零時治、八月一日聡の6人ですね」

 神田先生が名前を読みあげる。

「では、まず、一人ずつ抱負を言ってください。ではまず、羽生さん」

「はい。わたしはまず、みんなに言わなければいけないことがあります」

 羽生はそう言い、一区切りつけて大きな声で言った。

「責任を押し付けられても自殺はしません。責任は全部こちらで適切に処理します!」

 生徒達はみんな耳を塞いだ。

「はい、もう少し静かに出来ませんか?」

 神田先生にあっさりそう言われ、羽生は下をうつむいた。

「では、一条君」

「はい、」

 一条君が言いかけた頃。

「ちょっと待ってください!話はまだ終わっていません!」

「あ、すみません、羽生さん、続きをどうぞ」

 神田先生が促すと、羽生はさらに言った。

「桜も舞い散っていきますね」

「前置きは結構です」

 神田先生が言うが、羽生は続ける。

「でも、舞い散る桜だけでは、物足りないと思いませんか?このクラスでは、生徒達がみんな会ったばかりで連携力が不足しています。こんなことでは3年生に対抗できません」

「いや、だから、あの、普通3年生は強く…」

「先生は黙ってください。ということで、何か物足りないなあと思った皆様、私に票を入れてください!」

 生徒達は拍手した。というか呆れていた。拍手しないとさらに続くようなものが生徒達の心を狩り立てていた。次いて、一条隆の番になった。神田先生は一条君の背中を軽くただいた。

「は、はい。ええと、そもそも学級委員長は、生徒達の厳粛な信託によるものであって、その権威は生徒達に由来し、その権力は生徒達の代表者がこれを行使し、その福利は生徒達が享受します。これは人類普遍の原理であり、…」

「何を言っているんですか?」

 みんなは一瞬軽くひいた。しかしそれにかまわず一条君は続ける。

「We desire to occupy an honored place in an international society striving for the preservation of peace, and the banishment of tyranny and slavery,…」

「今度は英語ですか!」

 神田先生が言うが、一条君はやめない。

「SATが一人死んで、あの家の玄関に長時間置きっぱなしだったのは長官で、…」

「もう終わらしてください!」

 羽生が神田先生に耳打ちする。

「で、でも、まだ話は終わっていません…」

「いいから終わらしてください!こんなに長くで支離滅裂な文章は異常です!」

「確かにそうですが、」

「とにかく一条君の演説をやめさせてください!」

 羽生は言うが、一条君は演説をやめない。

「チェスで取った駒は使えないルールとか、ハンカチがタオルになっていたりとか、役人の不明瞭な態度とか、とにかくこの世には物足りないものが多いんです」

「ああ、勝手にあたしのセリフを!」

 羽生が後ろから怒鳴るが、一条君はやめようとしない。


 ・岡松の自殺に対する政府の対応

 ・エレベーターの社長の対応

 ・小学1年生の学習トリル

 ・完全征服 1級


「とにかく森羅万象この世には物足りないものが多すぎるんです!」

 教室は一瞬、静寂となった。

「ちょっと待って!」

 羽生が、その雰囲気を壊した。

「あたしのセリフを盗用してどうするの!」

「たまたま同じだっただけだよ!」

 一条君は反論した。

「どうですか、先生!」

 突然振られて、神田先生はどう答えようか迷った。

「ええと・・・、とにかくこれはこれでよしにしましょう」

「その対応、物足りません!きっちり和解すべきです!」

 羽生は、反論した。

「いや、だから、たまたま同じだったかもしれませんし、」

「やっぱり14歳で先生はいけませんね。警察に連絡しますよ?」

「うっ・・・。い、嫌です」

 神田先生は拒否するが、羽生は鬼に勝る怖い眼を神田先生に向ける。その背中には、何者か知れぬオーラが踊っていた。

「わぁ・・・嘘です、嘘です!」

 神田先生は真っ青になり震えていた。

「携帯電話を貸してください!」

「は、はい」

 神田先生は言われるかままに、真っ青になって携帯電話を羽生に貸した。

「もしもし、警察ですか…」

「はい、警察です。いかがしましたか?」

「14歳なのに先生をやっている人がいるんです!」

「まあ…それはそれでよしにしましょう」

 羽生はその警察の返事を聞くなり、携帯電話をかたんと落とした。

「物足りない警察の態度!」

 羽生は、怒りに満ちた声で言った。神田先生は、ごまかしを兼ねた声で言った。

「いえ、態度が強すぎて誤認逮捕された例もありますし、それくらいがちょうど…」

「よくない!」

 羽生は、神田先生に反論する。

「じゃあ、どうなの?堀江を釈放するの?言ってごらん、ただじゃおかないから」

 どこからか出てきたナイフを首に突きつけられ、神田先生は応答に迷う。

「ええと、その…」

「たいたい先生の学歴も、わたしたちは生徒として物足りません!集団不登校も視野に入れて考えます!」

「い、いや、だから…」

「羽生さん!」

 いきなり朝風あさゆうが立ち上がって言う。

「物足りないなら自分で満たせばいいんですよ」

「えっ?」

 羽生は朝風のこの言葉に反応した。朝風は続ける。

「チェスで取った駒は使えないルールは、協会を脅迫すればいいんですよ」

「そんな方法では満たせません!」

 神田先生が横から反論するが、朝風は続ける。

「ハンカチ王子については、いっそのことタオル王子にしちゃえばいいんですよ。役人は殺して自分が身代わりになっちゃえばいいんです」

 羽生はしばらく考えてから、顔に笑みを浮かべる。

「それもそうね。では、神田先生については、私が代わりに警察になって逮捕します!」

「ひぃ!」

 神田先生は悪寒を覚えた。羽生は続ける。

「私の言うとおりにしてください!」


 神田先生は、教室の隅のダンボールの中に入れられた。食事は毎日一食、水っぽいスープと黒パンのみである。箱から出る事も許されず、毎日「警察官」の鞭に怯える毎日であった。

「さあ、今日も楽しい鞭の時間ですよ。」

 羽生が鞭を右手に持ち左手の平に叩いて、神田先生のダンボールの前に立つ。

「ひぃ!」

 神田先生は真っ青になった。生徒達も、その時間は目を塞ぐのだ。羽生は、鞭を振り上げる。神田先生は頭を抑えた。

 ぱーん

「あぅ、僕、先生なのに…」

「黙れ。」

 ぱーん

「ひぃ!」

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