第15話 校長の陳謝とハルス
「今気づいたけど」
赤木が、パソコンをいじっている柳生の後ろから話しかける。
「今、たくさんのことが同時に進行しているよね?」
「うん」
柳生は生返事をする。
「でもこんなにたくさんの同時進行があったら読者の混乱を招くよね?」
「作者本位だから」
柳生は生返事をする。
「そんな答え、許されないわよ!」
大馬が柳生に怒鳴る。
「責任者はお前だ」
「…………」
商店街で、数人の警官が青木と赤木と鵜戸の三人を連行しているのを後ろから見て、神田先生と是は呆然とした顔をしていた。
「さっきの光は……何ですか?」
神田先生が、答えは期待できないのに是に問いかける。
「わ……私に聞かないでください」
是はそう言い、「あっ」と付け加える。
「私の本」
「そういえば後ろに置きっぱなしです」
神田先生が言うと、是はくるりと回って後ろへ走り出す。
「あ、待ってください、事情徴収があるかも……」
神田先生も、その是を追いかける。
一方、ハルスは一ノ谷銭湯の煙突の上に立っていた。
「まったく、神田進はどこにいるのかしら」
ハルスははあっとため息をつき、煙突の上から一ノ谷市の町を眺めている。
「情報によれば、一ノ谷中学校にいるとかいないとか……」
ハルスはしばらく黙っていたが、やがて手に持っていたほうきにまたがり、一ノ谷中学校へ向かう。
「みんな、本当にすまない……」
一方、その一ノ谷中学校では、職員室で校長先生が先生たちに平謝りをしていた。
「が、まだヤモリからの要求が来ました」
先生たちは、一気にどよめく。
「静粛に」
校長先生の隣に立っている教頭先生が言う。校長先生は、さらに言葉を続ける。
「われわれは5月5日にこいのぼり大会を催さなければならない」
「…………」
先生たちは、一気にお互いの顔を見合わせる。
「校長先生」
西川先生が挙手する。「西川先生」と、校長先生が指名すると、西川先生は立ち上がる。
「まさか、幼稚園児のするような陳腐な催しを、中学生がやれと?」
「はい」
校長先生は、うつむきながら言った。と、別な先生が挙手しているのに気づく。西川先生もそれに気づき、席に座る。
「阿久津先生」
校長先生が指名すると、職員室の奥の方の机に座っていた阿久津先生が立ち上がる。
「ここはいっそ、無視してわれわれも全力で戦うべきです」
「そうはいきません」
校長先生は、やっとの思いで声を絞り出す。
「そんなことをしたら一ノ谷中学校の校舎が彼らによって破壊され、場合によっては生徒全員に命の危害が及ぶ可能性があります」
校長先生がそこまで言うと、職員室はどよんとなる。阿久津先生も黙ってしまい、座ってしまう。
「失礼します」
職員室のドアをノックする音。
「どうしますか?会議中ですが…」
教頭先生が尋ねるが、校長先生は、職員室の入口の引き戸の、白くぼやけて外のはっきり見えない窓を眺めて言う。
「あの身長は生徒ですね。まだ下校していずに、ここに留まるとはよほどの用があってのことでしょう。入れなさい」
校長先生が言うと、ドアの近くの先生の一人が、ドアへ声をかける。
「入りなさい」
「はい」
そう言って、その少女はドアを開ける。黒い髪に、白いカッターシャツに、茶色のスカートに……、髪の色は違い、マントはまとっていないものの、それはまさしくハルスであった。
「あれ?この学校の制服じゃ……」
ドアの近くの先生が声を上げるが、ハルスはそれを無視して校長先生に尋ねる。
「神田進はどこにいますか」
「こら、先生の名前を呼び捨てしちゃだめだろう」
校長先生が返すと、ハルスは目を点にする。
「先生……?」
「この学校の先生です」
教頭先生が捕捉し、そしてさらに続ける。
「それより、学校に私服で来ては」
「神田先生は今、どこにいるのですか?」
ハルスが尋ねる。
「あなた、見かけない顔ですね。名前は何で言うのですか?」
校長先生が尋ねるが、ハルスは強い声で尋ねる。
「神田先生は今、どこにいるのですか?」
校長先生はため息をつきながら続ける。
「その前に私の質問に答えなさい」
それを聞き、ハルスはいらっとした顔をする。
「なら、いいです」
ハルスはそう言い、ばたんとドアを閉める。
「全く」
一ノ谷中学校の屋上で、魔法で髪の色をピンク色に戻したハルスは、屋上から町全体を眺めていた。
「神田進……、一体どこにいる」
ハルスはそうつぶやく。
「こんな男を私のいいなずけにするなんで、パパも本当にアホだわ」
ハルスはそうつぶやき、屋上の端っこから、外へ、床のない4階分の高さの上へ、右足を乗せる。
「無駄な抵抗はやめ、凶器を地面に落としなさい」
現場に到着した機動隊らが、揃って田中先生に銃を向ける。右手に包丁を握っていた田中先生は、人質もいないのに関わらずにやりとした顔をしていた。
「10秒後に発射します。10数える間に凶器を捨ててください」
機動隊長である左古町が大きな声をかけるが、田中先生は一動たりともしない。
「10、9、8、……」
「そこまでよ、ご苦労様」
突然、病院の入口から、一人の少女が病院に入る。青髪でちょこんとした、小柄な少女、長谷川玲子であった。
「だ……誰だ!」
左古町はそう叫ぶと同時に、ガラス張りの病院の玄関の向こうから、誰一人立っていずうつぶせになっている病院の入口周辺を見た。まさかこの少女一人で?一体どうやって?
「総員この少女に発射せよ!」
左古町の号令と共に、機動隊総員はその少女に向かって発砲する。
しまった。これは……、始末書を書かなければいけない、ど、どうしよう、つい焦って……、これでは罷免ものかな、などと左古町が冷や汗をかき終わると同時に、左古町は急に眠くなってきた。
「ああ……」
見ると、周りの機動隊員も、次々とばたばた倒れて行った。
「あ……」
薄れ行く意識の中で、左古町は、その少女、長谷川の顔を見た。
「雑魚キャラなのに名前をつけてくれただけでも光栄ね」
長谷川はそう言い、総員倒れた機動隊員の体を踏みながら歩き、田中先生のほうへ向かう。
「ご苦労、田中一。そのまま死んで」
長谷川がそう言うと、田中先生は何の抵抗もなく、ずんなりと返事をする。
「はい、ご主人様」
そう言い、田中先生は、持っている包丁を、そのまま自分の首へ―――・・。
「何なんですか、ただでさえこの小説の主人公なのに出番がほとんどなくてひがんでいるときに!」
商店街。そう言う神田先生を背に、是は地面の上にばらばら落ちていた本を拾い集める。そんな是を見て、神田先生も手伝おうと、足元の本を拾おうとする。
「手伝わなくていいです!」
是が怒鳴ったので、神田先生は思わず足元へ伸ばした手を引っ込める。と、足元の本のタイトルが見えた。
「ん……、……これ、ひ○らしじゃないですか!」
神田先生はその本を拾い上げる。
「なぜあなたがこのような本を?」
神田先生が言うと、是は恥ずかしそうにもじもじする。
「あ……あの」
是はそこまで言いかげるが、やっぱり、とつぶやき、首を大きく横にぶんぶん振って、神田先生に前からとつぐ。転んで、思わず神田先生が手放した本を、是は捕まえる。
「とにかく、二度と私に関わらないでください!」
是はそう神田先生に怒鳴ると、周りの本を拾い集める。その是に、神田先生は何も言うことはできなかった。
「すみませーん、お二人さん、ちょっと事情徴収をー」
あすこから、警官の大きな呼びかけ。
「は……はい」
神田先生は立ち上がる。
「ほら、是さんも……」
神田先生が是に声をかけるが、是は無視していた。神田先生は、そんな是を見て黙ってしまう。
田中先生の手は震えることなく、何の躊躇もなく包丁を首へ運ぶ―――・・。
長谷川は、田中先生をにやにやした顔で見つめていた。と、……。
田中先生の握っていた包丁の刃が、突然粉々に砕ける。
「!!」
長谷川は、病院の入口を見る。果たして、そこに立っていた少女は。
「羽生……かおる」
〜To be continued!!