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神田先生  作者: KMY
10/15

第10話 玲子を捕獲せよ

 長谷川は、そのまま走り続けた。この際、手ぶらで帰るより他にない。歯科検診を受けないなら。

 一階へ。長谷川は、階段のほうへ走り続ける。

「大丈夫です」

 職員室では、教頭である辻見田先生が、学校のあちこちにある防犯用の監視カメラを切り替える。西川先生の机の上のパソコン画面には、1階階段の踊り場が移っていた。パソコン画面を覗き込む神田先生に、席に座っている西川先生は補足する。

「ここからは見えませんが、1階へ通する階段の入口に四月一日わたぬき先生を配備しています」

「西川先生、ご協力ありがとうございます」

 教頭先生が軽く一礼すると、西川先生は立っている教頭先生を見上げる。

「中学生にもなって歯科検診を拒否するわがままは、我ら一ノ谷中学校教諭達が許さない!そして私は一度ここの校長を務めたこともありますしね…!」


 長谷川は、走っていた。とにかく走っていた。校舎から出るべく走っていた。しかし校舎は広い。なにぜ、1学年がい組からと組まで計7組、HR教室だけでも合計21教室。補足するなら、1つのクラスの生徒は約30人、この学校の総生徒は630人を超えるのである。それだけならまだしも、理科室が計6つあり、家庭科室が計3つあるなど、実に大きな中学校なのである。とにかく広い。なのに通常の中学校と同じく4階建てで、端から端まで、半端ではない長さなのである。それでもついに階段の前へたどりついたと思うや否や。

「!!」

 長谷川は一瞬びっくりした。目の前に、四月一日先生が立ちはだかっていたのである。

「待っていましたよ……、では、そろそろ歯科検診をおとなしく受けてもらいましょうか」

 四月一日先生が言うが、長谷川は顔を真っ青にする。

「拒否!」

 そう怒鳴り、四月一日先生の横を通り抜けようとするが、四月一日先生は手際よくそこへ寄る。長谷川がどっちへ行こうとしても、四月一日先生は長谷川が通り抜ける前にそこを守るのである。長谷川はやむなく、脇から一本の、ペンくらいの長さの棒を取り出す。

「四月一日先生……、悪いですが」

 長谷川は、その棒―――・・、杖を四月一日先生に向ける。

「それは何ですか?」

 四月一日先生は落ち着き払った声でそう言う。長谷川は小さくため息をつくと、短く唱える。

「スリープ」

 授業中だったこともあり、廊下には誰もいない。廊下に出ている生徒達が騒ぎ出さぬように先生たちがした配慮が、かえって仇となった。こうして、長谷川は落ち着いて使うことができるのである。―――・・魔法を。


「四月一日先生、今頃長谷川さんを捕まえているはずですね!」

 神田先生は、そう言った。西川先生と、お互いの顔を見ながら微笑む。西川先生は、パソコンのビデオ、階段の踊り場を指差す。

「この画面に長谷川さんが映っていなければ、我々の勝ちです」

 西川先生がやや興奮気味に言う。

「…………えっ!?」

 そのムードは一気にして白けた。なんと、そこには、一人だけで階段を下りている長谷川が映っていたのである。

「な……」

 西川先生は思わず立ち上がる。

「護衛術に長けている四月一日先生を突破するとは」

 教頭先生も、目を丸くしていた。


 一方の長谷川は、玄関を探していた。玄関から外へ出ようという魂胆であるのだが……。

 一方、こっちも玄関に備え付けのカメラを映していた。今度は内部の、田中先生の立っている場所もはっきり中央に映っているのである。

「長谷川さんは、なかなかの凄腕なのか、それともただの幸運なのか、それをこれから見ることができます……!」

 そう言う西川先生の額は、汗ばんでいた。同時に、チャイムが鳴る。

「2時間目、終了ね」

 教頭先生が言う。


 ほぼ同時に、歯科検診を終えた1年は組の生徒たちが教室に戻る。

「この例題が今日中にできなかったのは残念ですが、残りは宿題で」

 「え〜」と言う生徒たちを横に、足座先生は教科書とファイルを持ってささっと教室から出て行ってしまった。

「もう……」

 今日の日番、大馬馬子おおばうまこは、黒板を消しながらため息をついた。

「……ん?」

 大馬は、教室の真ん中に生徒たちが集まっているのを見て、黒板消しもそこそこにその集まりの中心を覗く。

「ハッキング、成功」

 柳生きりゅうが、机に座って、パソコンをしていた。

「な……」

 ハッキングと言うその異常な単語に、大馬は声を出さずにはいられなかった。

「冗談?」

 大馬が隣の蛍崎ほだるざきに尋ねると、蛍崎はやや興奮気味に言った。

「すけえ…本物だよ、これで捕獲完了とか言えばもっとかっこいいのに」

「な……」

 大馬は、思わず柳生のパソコンをぱたんと閉じずにはいられなかった。

「何をする」

 柳生がパソコンを開き、両隣の人が大馬の腕をつかむ。

「何やってるの、ハッキングは犯罪でしょ!」

 大馬がわめくが、左腕を掴んでいる前後まうらは平然と言う。

「そんな、某ドラマの最後のデロップみたいなこと言わないで、ファル○ンみたく長い目で見守ってやれないの?」

「そんなことを平然と言うな!」

 大馬が怒鳴る。それと同時に、羽生は後ろから前後の肩をぽんと叩く。

「ドラマを見てそれに感化されるのもいいこと……、でもいけないのは、それによって善悪の区別ができなくなること。」

 羽生はそう言って前後の足を蹴ると、柳生のほうへ向かう。

「柳生君。」

 羽生が言うと、柳生は羽生を見上げる。

「どこをハッキングしているの。」

 羽生が恐ろしい顔で柳生を見下ろす。

「……この学校のサーバー」

「何ですと。今すぐやめなさい!」

「やた」

 柳生はあっさりそう答えると、さらにパソコンのキーボードを叩く。

「出た」

 柳生がそう言うと、周りの生徒たちはパソコンの画面に注目する。画面には、コマンドプロンプトみたいな画面の上に新しいウィンドウ、メディアプレイヤー……、ビデオ映像が映っていた。

「これは……?」

 一人が尋ねると、柳生はコマンドプロンプトでいろいろコマンドを入力して結果を見てから言った。

「この学校の玄関前のカメラに映っている映像」

「やめなさい!」

 羽生が大きな声で怒鳴ると同時に、柳生はちょっと強めの声で言う。

「こ…これは……、長谷川さん?」

 そこには、田中先生と、田中先生と向かい合っている長谷川の姿があった。


「羽生さん、来ませんね」

 教頭先生がそう言うのと同時に、足座先生が職員室へ入ってくる。

「ああ、足座先生、2時間目は1年は組の担当でしたね」

 教頭先生が声をかけると、足座先生は答える。

「はい」

「授業は終わっていますか?」

「はい」

 足座先生はあっさりとそう答え、自分の机へ歩いていく。

「羽生さんは、もうすぐ来ます」

 教頭先生が言うと、神田先生は教頭先生に尋ねる。

「羽生さんが、なぜ必要なのですか?」

 パソコン画面を注視していた西川先生が、神田先生を見ずに画面を見ながら言う。

「羽生かおるさんが長谷川玲子さんと深い付き合いであることは知っていますね?」

「そうだったんですか」

 神田先生が答えると、西川先生はくすっと笑う。

「羽生さんに、長谷川さんを説得してもらうのです」

「そこまでするんですか」

 神田先生が半ばあきれた声で言うと、教頭先生が続きを言う。

「長谷川さんは小学校のとき、歯科検診を一切受けませんでした。おそらく捕まった後もしぶとく抵抗すると思います。そこを、説得させるのですよ」

「生徒を利用するのは教師としてやや問題なのでは」

 神田先生が口を挟むが、教頭先生は首を横に振る。

「むしろ、いいことです。学校では、問題を基本的に生徒たち同士で解決してもらうために努力しているのです。そうしないと、大人になっても生徒たちは自立することができませんからね。生徒たちのいさかいに先生が介入するのはやむをえない時のみと、この学校の方針で定められているのです」

 〜To be continued!!

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