マッドサイエンティスト
3人の工作員達を帰すと、俺と母さんは謎の機械を片付ける。これは何に使う道具なのだろうか、いや、考えるのはやめておこう。好奇心は猫を殺すのだ。
ひとしきり片付いたところで、気になっていたことを訊いて見る。
「結局なにがしたかったんだ?」
俺の質問に対して母さんは、また謎ポーズをしながら答えようとする。
「少年よ……その質問は、ま」
「普通に話せ」
「愚問だな、少年よ! そのし」
「2式……」
「うわああ!! 待って! 待って! 待って! 話す! 普通に話しますぅ! だからそれだけは堪忍してえぇぇ!」
すがる様に、俺の下腹部を頭でぐりぐり押してくる。
「うぉ何しやがる! こら離れろよって痛!! なんで仮面からツノが……ブシドーか! 紛らわしい色使いやがって、ちゃんと黒くしとけよ!って痛たたたたたっ!!」
この前「運命的な出会いキター!」とか言ってたのは、ブシドーのことだったのか。
「乙女座の私は、センチメンタリズムな運命を感じずにはいられないな!」
「お前は蠍座だろうが! 蠍座の女だよ!」
「いやだいイヤダイ! あんな野郎より大佐がいい! 乙女座の君がいいぃぃ!」
「いいから落ち着けえええぇぇぇ!!!」
〜1時間後〜
なんとか、母さんを落ち着かせることに成功した。ん? 何をしたのかって? 母さんの心をへし折って慰めただけの簡単なお仕事だよ。
「ううっ、えっとね、タカちゃんの質問は根本的に間違いなのよ」
タカちゃんとは俺の呼称である。いくらやめろと言っても聞かないので、諦めている。
「間違い? 何が?」
「何がしたかったんだ、ではなく、何をしたのかって訊くべきなのよ」
ふふんと、これまたドヤ顔でそう言った。
「そ、それはつまり……いやでもまさか……」
そう、俺が訊いた言葉は願望だったのだ。そうあって欲しいと。……まだ何もされてないと。
「ミッションコンプリート♪」
「何しやがったああああぁぁぁぁぁぁ!!」
ひとつ言い忘れていたことがある。
俺の母、松戸西子のマッドサイエンティストという設定は、嘘ではなく本当なのだ。厨ニ病患者なのは間違いないが、家計は母さんの特許による金によって支えられている。
ひとつ例を挙げるなら、とある必殺技を再現したくて、手袋型の超小型レールガンを作り上げた。そして、その技術をこれまたとある軍隊に売ると、ちょっとシャレにならない金額になったのだ。
『私の夢は、息子をパーフェクツバディに改造して、俺TUEEEeeeさせることよ!』と目の前で言われ、顔面にぐーパンをぶち込んだのは、しょうがないことだと思う。だってあの時、母さんの目はマジだった。
そんな母さんがミッションコンプリートと言ったのだから、全くもってシャレになってない。体に異常がないか、全身を急いでまさぐっていく。
「www必死過ぎワロタm9(^O^) 」
「うっせ!!!」
「プギャ!!」
俺の三日月蹴りでその場にうずくまる。誰のせいで必死になってると思ってるのか、腕確認……よし、繋ぎ目やボタンの類いは見当たらない。
ちなみに、三日月蹴りとは、ミドルキックの軌道から内側に変化して、足の爪先を相手の鳩尾に突っ込ませる蹴りである。
モチロン俺の様に、靴を履いて使えば内臓がヤバイことになるため、よい子のみんなや、よい子じゃなくても真似しないように。
「だ、大丈夫よ……タカちゃん、体を改造したわけじゃないから」
脳震盪になりながらも、必死に立ち上がるボクサーよりも、膝をがくがくさせながら立ち上がる。カウントセブンまで休んどけばいいのに。
「いじったのは、世界設定軸だから」
「世界、設定軸? 何それ?」
聞いたことがない単語が出てきた。
「簡単に言うとね、この世界観から外れたのよ。あっ、ついでに私も外れてるから」
世界観から外れた? 何を言ってるんだコイツ。みんなはこの説明で理解できてるのか?
「それよ、タカちゃん今、世界の外に話し掛けたでしょ? あなたは、この世界が小説の中の世界だと、本能的に気付いてる」
……うわ、マジだ。この変な感じは、この部屋で目覚めてから感じ始めたものである。
「もしかして、さっきからちょくちょくモノローグに、母さんが突っ込んでたのは……」
「タカちゃんは、この物語の語り部になったのだ! そして、私も外れてるから、その語り部の考え、つまりタカちゃんのモノローグが読めるのだー!」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
お年頃の男子の思考がダダ漏れとかマジでありえない「大丈夫、私と読者ぐらいしかわからないわ」早速モノローグに突っ込みきました。でもまてよ、俺が語り部ってことは、俺この物語の主人公⁉ やった「ちがうよ」って違うんかい!!
「俺TUEEEEee!! は⁉ 母さん言ってたじゃん! 息子をそんな感じにしたいって!」
「俺TUEEEEee!! は、もう飽きたのよね」
「は?」
「だってこのサイトは、探せばたくさんの俺TUEEEEee!! があるし、それに現代の日本を舞台にするとこじんまりしちゃうしね」
ヤバイ、メタ発言すぎる。まあ俺も読んでるから、そんなに驚かない……って!!
「これ、小説を読もう、に載ってんのかよ! ……げ、マジ載ってるし」
しかもBL、GL要素ありになってるじゃないですかやだー。
「私もBL好きなのよね」
「やめろ! これ以上俺の中にある母さん像に、不名誉なタグ着けるのやめてぇぇ!!」
母さん、38歳・コスプレイヤー・世間体無視・画面の向こうに恋した女・トラブルメーカー・マッドサイエンティスト・オタク・腐女子☆NEW!