38歳with工作員達
「いいからコレを外せ」
グスグス泣いてる母さんに要求すると、そのまま右手を高々と上げて、指を鳴らす。パチンと小気味良い音と共に、ガシャンと拘束が解除される。
解放されたことによる安心感に包まれたのもつかの間、不安がチクリと俺を刺した。
「……やけに聞き分けがいいじゃねぇか」
いつもの母さんなら、「まだだ、まだ終わらんよ!」とかほざきながら抵抗するはずなのだ。それが今日は、ほぼ二つ返事なのだから気味が悪い。何を企んでるのかとても不安だ。
「私だってね一応傷つくのよ……はぁ、まあもう慣れてきたからいつもの悪口言われたって、母さん泣かないけど」
なんだそのドヤ顔は、いやまあ顔の半分は仮面で隠れてるんだが。雰囲気がなんかイラっとした。
「いつものって、あれは1式だろ?」
「なん……だと……」
「俺の悪口は108式まである」
自分で言っといてなんだが、意味がわからんな。
だが母さんには効果があったのか、うわぁーんと泣き出した。38歳の仮面を着けた女性が、マジ泣きしているのは絵的にかなり痛い。いややったの俺だけど。
「グスン、あっ! そうそう、もう終わったからコレ給料ね」
相変わらず立ち直るの早いな。ふところから1万円を3枚取り出し、3人の工作員達にそれぞれ1枚ずつ渡した。
「日給かよ! しかも1万とか微妙に高いし!」
こんな下らないことに付き合って、1万円とは中々の収入ではないだろうか。
「バカにすんな! 3日で1万円に決まってるでしょ!!」
「あんたはこの人達をバカにしすぎだ!」
何? 3日って何するのさ、もしかしてリハーサルとかしちゃうわけ?
「い、いいんですよ息子さん」
工作員の1人が、間に入ってきた。
「俺達……じつは最近仕事クビになりまして、でも家族には打ち明けられず……」
そして、別の工作員が何か語り出した。え? 何これ? 聞かなきゃダメなの?
「公園のブランコで、3人そろって靴飛ばししてる時にサイコさんに出会ったんです」
お前ら仕事探さずに何やってんだ。
「ああ、『暇ならば、我が野望を手伝うがよい』ってな」
ヤボウじゃなくてヤボヨウの間違いだろ。そんなことより、今の話しで重要なのはそこではない。
「あのー、その時母さんは……今の様な格好を?」
「え? いや、ちがうけど……」
よ、よかった。一応母さんにも世間体ってモノがあったんだ! やったーー‼
「たしかあの時は世紀末な格好だったよな」
……汚物は消毒するべきだろ。
「なんかさ……俺達工作員やってる内に、こんなバカげたことでも全力でやることも、悪くないなって思えてさ」
へへッ、とか言いながら、人差し指で鼻下をこする工作員達は、正直気持ち悪かった。ていうか、バカげたことしてるって自覚はあったんですね。
「お前たち……」
いやいやいや、その反応はオカシイだろ。半分バカにされてるぞ。
「サイコさんには、本当に感謝しているんです。ありがとう」
そう言うと、工作員達は頭を下げた。
「バッ、やめなさいよ……まるで私がいい人見たいじゃない! …………ちゃんと家族には本当のこと話しなさいよ。つらいことを共有するのも、家族なんだから」
「「「ハイッ!!」」」
ちなみに、この会話中もあのコスプレ状態で進行中である。全くもってシュールな状況であった。