厨ニ病、乙‼
タイトル通りのメタ要素ありありで、パロネタを盛り込んでるので、それらが気になる方は、そっとブラウザを閉じて下さい。
目を開けると、そこは見慣れない場所だった。
薄暗い室内の光源は、非常灯のようなランプのみである。
目が慣れてきたことで、部屋の様子が少しだけわかった。
薬品が並べられている棚に、一体何に使うのかわからない機械類、そして俺が寝ている硬いベッド。
(恐らく……手術室……いや、改造室、かな)
なぜ判断したのか……そう、俺こと 松戸隆康 は、硬いベッドに、手足胴を何かで固定されていたのだ。
そんなこと、される覚えも経験も、全くない……ないのだが、今更ながら焦っていた。
される覚えはないのだが、しそうな人物には心当たりありありだったのだ。
一度深呼吸して、心を落ち着かせる。改めて周囲を探ると、人の存在も気配もない。
チャンスだ。
今の内にと逃げ出そうとするも、ごく一般的な、高校生の身体能力しかない俺の力では、この拘束はビクともしない。
とにかく、ヤツが現れる前に、なんとか脱出しなくてはと、もう一度拘束を外そうと力を入れようとしたーー
その時だった。
「ッ……!」
バッ、バッ、バッとした起動音と共にまばゆい光が、俺を照らす。そして唐突に現れる人影は、ライトが逆光になっているため、素性はわからない。恐らく4人ぐらいだ。
「お目覚めかな、少年」
その内の1人が、そう語りかけてくる。姿は相変わらず逆光で見えないが、声でバレバレである。
「変なしゃべり方してねーでさっさとこれ外しやがれ」
「やれやれ、蛮族だな。もう少し話を聞いてみようと思わんのかね?」
「似てない声真似はいいから、くそ にしこ」
この、厨ニ病全開な人物の正体は 松戸西子 、認めたくないが、……俺の母である。
「に、にしこではない! サイコだ! マッドサイコだ!」
本当の読みは、まつどにしこ(38)である。いい年したオバサンだ。
「……少年よ、今……なにか失礼なこと考えなかったか?」
「……いい加減その変なしゃべり方ヤメろ」
「否定しないの⁉」
俺は正直者なのだ。
「むぅ……わかったわよ、お前ら、ライトの出力を落としな!」
『イー!』
ライトの出力が落ちたのか、やっと周りが視認できるようになった。
「……うわぁ」
思わずこぼれた。こぼれてしまった。
まずは、全身を黒タイツに包んだ3人の変態。
しかも頭には、これまた黒い目出し帽を被り、だらしなくたるんだ腹を、白いベルトで巻いている。
まぁ、身も蓋もない言い方すれば、ショ○カーだ。
3人とも、時々イーだのキーだのわめいている。だが3人とも、しゃべり方に照れが入っていた……恥ずかしいならやらなきゃいいのに。
そして問題の、俺の母だが……38歳ながら漫画やアニメに憧れ、腰の高さまで伸ばした黒髪。
38歳になり目立ち始めた目尻のシワを隠すように、某機動戦士に出てくる某大佐をモチーフにした鉄仮面を装備。
38歳を迎えて所々リミットが近づいてきた身体を、軍服とマントで隠している。
こんな格好をした38歳with変態達を見た俺。
「コレは酷い……」
そうつぶやかざるを得なかった。
「……ヤメろよぉ、38歳連呼するのヤメろよおぉ」
仮面から涙が一筋、頬を伝う。
たるんだ体を黒タイツで包んだ照れの入った工作員。それを引き連れ、堂々とした態度の、初恋の人(テレビの中)のコスプレをした実母(38)。
そして、そんな奴らに何かの手段で、ベッドに張り付け状態の俺。
泣きたいのはこっちの方である。
昔、小学校の授業参観日に、あの格好で教室に入ってきた時を思い出してしまった。
その時、母さんは「当たらなければどうということはない」と言いながら、取り押さえにきた教師を謎の拳法と動きでいなしかわしていく。
しかし、母さんの元担任である校長先生に捕獲され、俺の名前を叫びながら職員室に連れていかれた。
「隆康の母ちゃん大佐なんだな」
俺はこの友人のせいで、大佐なんて変なあだ名が付いてしまった。
その夜、初めて母さんを殴ったのは、苦い思い出である。
その時「更にできるようになったなムスコ」と言われ、イラっとしたのでもう1発殴ると「二度もぶった! お父さんにもぶたれたことないのにー‼」などとうれしそうに叫び、お隣さんに壁ドンされた。
「どうでもいいから、これ外せ(38)」
「ついには呼称になった⁉ 何が悪いんだよぉ……別に私が38歳だからって、迷惑が掛かる訳じゃないだろ‼」
いや、年齢に罪はないだろうが、その歳になってまで息子に迷惑掛けるのは罪だろう。
全くもって迷惑な母親である。