居眠り教授との出会い1
私はよく夢を見る
いつも突然それはやってきて、私に夢と現実の区別をつきにくくさせる
これはそういう病気なのだ
ナルコレプシー=居眠り病
睡眠時間が浅くなり夢を見る回数が増える
そして夢のほとんどが悪夢だ
でも私の見る夢は、悪夢に違いないが少し違う
今日もまた夢を見る
実際に人が死ぬ夢を−−−−−
*************
「世の中は理不尽だ!!」
湊はそう思っていた。
彼は今とある研究室のドアの前にいる。こうなったのも、全ては気心の知れた幼なじみのせいだった。
ある理由で実家から逃げている湊は、住み込みの仕事を探してはなんとか生活を凌いでいた。
だが、運悪く次の仕事が見つからず「さすがに住む所は必要だ」と、色々思い悩んだ結果、頼める人物が気心の知れた幼なじみしかいなかった。
奴は昔から金に意地汚く、そこをいいように利用して「家賃の前払い」を条件に出したらあっさりと湊の思惑通りに事は進んだ。
だが一つだけ誤算だった−−−湊はまさか生活費まで取られるとは思いもよらなかった。(俺の考えが甘かった…)
意外にも奴は抜け目なかった。(ほんと、金の事になると浅ましいんだよな…)
一ヶ月は働かず、ダラダラ過ごしながら奴の為に家事をし、二ヶ月目に入ったあたりで仕事を探して働こうと湊が決め込んでいたら、奴は唐突にこう言った。
「彼女できたんだ。出てって」
何を言ってるんだコイツは…とア然としていると、ハッとある事を思い出した。
湊はすっかり忘れていた。
奴が女にもだらしがない事を−−−−…
湊は必死で住家を無くさないよう食らい付いた。
「意地でも出て行かない!!」
そう言い張ったが奴には右から左で、湊より体格のいい奴は軽々と湊を引きずりながら、あれ?お前そんなに手際よかったっけ?と思わせる程の手際の良さで湊の荷物をまとめ、荷物と一緒に湊も放り出して一言、
「今月の生活費はいいから」
そう言って無慈悲にもドアを閉め、しっかりと鍵をかけた。
ガシャン…とドアの閉まる音が虚しく響き、すぐさまカチャリ…と響く鍵の音が湊の胸を貫く。
何て心優しい幼なじみなんだろうか……な、わけはない!!
当たり前だ!!家賃の前払いは半年分は渡した。その金を差し引いても多いぐらいだ!!
くそっ−−−…残りの金は確実に返ってこないだろう…
「貸した金は返ってこないものだと思え」なんて誰が言ったのか…こんな事はあってはならない!借りたものは返すのが当たり前だ!!(涙)
「騙した方より騙された方が悪い」ってのも一緒だ!
なんで騙した方より騙された方が悪いんだよ!どう考えたって騙した方が悪いに決まってるだろ!!
「ちくしょう!世の中は理不尽だぁーーー!!」と嘆きながらトボトボ歩いていると、ケータイが鳴った。
メールだ…、誰だよ!ったく…と思いながら見てみると、奴からだった。
何だよ…と、毒突きながらもメールを見てみると−−−−
『突然の事で本当に悪かったな。悪いと思ったからお前の財布の中に金を入れておいた。
その金で何とか凌いでくれ』
奴と俺の友情はちゃんとあった−−−−
さっきの出来事をなかった事にしてやってもいいぐらいに湊は感動した。
(乙なことしてくれるじゃねーか…)
金に意地汚い奴がお金を用意してくれていたなんて…、少し涙ぐみながらいくら入っているのか気になった湊が急いで財布を見てみると−−−−千円札が3枚入っていた。
「三千円でどうやって凌げってんだよ!!」
やっぱ奴との友情なんて女には敵わないないんだよな!!
もぅ本当に泣けてきた…と悲観していたら、よく見ると三千円と一緒に何か紙が折りたたまれて入っているのに気付いた。
(何だこれ…?)
広げて見てみるとそれはハガキサイズの求人募集の紙だった。
<人助けが好きな人 求む>
何だこの求人…人助けって…湊はちょっとバカにしながらその求人を見ていく。
資格 普通免許
体力に自信のある 人
待遇 住み込み、食事付
給与 690円
(690円!!?低っ!コンビニかよ!!岡山の最低賃金ギリギリじゃねーか…?)
おいおい…と思いながらも続きを見ていくと、募集しているのは岡山の人間でなくても知っているような大学だった。
何でこの大学が!?人助け??湊は不思議に思ったが他に行く所がない。
夏なら住む所がなくても野宿できるが、今は秋真っ只中。次には厳しい冬が待ち構えている。
少しの好奇心と住み込み食事付に惹かれ、湊みたいなバカには特に縁もない大学に、荷物を抱えてとりあえずお金もないので歩いて向かうことにした。
(歩いて行けねー距離でもねーし…)
だがは湊は甘くみていた。
一月のニート生活を−−−−
「はぁ、はぁ、はぁ…」
何とか歩いて大学まで辿り着いたのはいいが、まさかここまで自分の体力がなくなっていると湊は思いもよらなかった。
しかも湊が思っていたよりも大学が遠く、何度と楽をしてバスに乗ろうと思ったが、それでも少ない所持金を無駄に使うわけにはいかないと湊は意地でも歩いた。
湊は息切れが激しく、大学の入り口の塀に手をついて休む。
大学は湊がイメージしていた古風な感じではなく、意外と普通の地味なコンクリート建築だった。
ズボンのポケットからバイト募集の紙をら取り出し、それを見ながら湊は思う。
普通は電話して面接の日取りを決めてから行くべきなんだろうが…電話代をケチる為に直接押しかけようと「全は急げ!」でここまで来た。
来てみたはいいが、紙には場所がこの大学だという事と教授の名前しか書かれてなく、研究室がどこにあるのか解らない。
「研究室までの地図ぐらい書いててくれりゃあいいのに」とバイト募集の紙の不親切さに愚痴りながら、どうしようか…と湊が考えていると、校門の所に小さな警備員室があり警備員さんがいたので尋ねてみた。
「あぁ〜、この先生の所か!地図を書いてあげるよ」
とても愛想のいい警備員さんで湊はお礼を言う。
「ありがとうございます!!」
「この先生の所で働くなんて、君も余程変わってるねぇ〜」
「え?何が−−」
「はい」
書いてくれた地図を渡されて湊は「何がですか?」と聞きそびれてしまった。
結局聞き返す事もできずにそのまま地図を受け取り、お礼をして行こうとしたら警備員さんに「頑張ってね」と意味深な応援をされた。
「頑張ってね」って言った時のあの人…、何かバカにしたような笑い方じゃなかったか…?
何かモヤモヤするものがあるが、とりあえず気にせずに湊は向かった。
進んだ結果、彼は今知らない研究室のドアの前にいる。