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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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倒せないバケモノの正体は

作者: 五日 永遠
掲載日:2026/07/07


草原の中、少し小高い丘に寄り添うように石を積み重ねた家が一軒ある。


「ここが例のバケモノの棲家か?」


筋骨隆々な戦士の問いに勇者は頷く。


「ああ、僕も少し予想外だ」


「そうですね。近隣の村から、食料だけでなく若い娘まで攫うバケモノが住む家にしては、質素すぎます」


僧侶は勇者の気持ちを代弁するように言語化した。


「そんなことより、助け出すことが先でしょ」


攫われた少女を思う魔法使いの言葉に、一同は顔を見合わせて頷いた。


「そうだね。それじゃ、いつもみたいに僕たち二人が先行で突入するから、君たちは周囲を警戒後、時間差で突入してほしい」


勇者の指示で彼らは速やかに動き出した。

勇者と戦士は、たった一つしかない正面扉の左右に音もなく立つ。その様子を少し離れ、家を囲むように僧侶と魔法使いが配置につく。

ぶっつけ本番でも流れるような動きが、彼らがくぐり抜けてきた修羅場の数を物語っていた。


戦士が勇者の顔を見る。そして勇者が小さく頷くと、それを待ってたとばかり戦士は扉を壊して突入した。








激しい破壊音と共に、薄暗い屋内へ入った二人。戦士は持ち前の勘に近いもので、すぐさま剣をベッドに腰掛けてる人影に向けた。

戦士をカバーするように入った勇者の視界には台所のかまど、水瓶、小石と泥で出来た煙突、テーブルと椅子が映る。隠れる場所や逃れるところが無いことを瞬時に確認すると、戦士と同じように剣を向けた。


「動くな……少しでも動いたら、叩き斬るぞ」


ようやく室内の暗さに目が慣れたのか、ベッドに腰掛けてる人影が見えてきた。

靴を履き、足らない裾から見える足は細く、猫背な上半身も痩せている。頭頂部はハゲており、顔は情けなそうだった。中年のおっさんに中央値があるなら、それから大分離れているだろう。


「何しに来た?」


弱々しい声でおっさんが尋ねる。

そのタイミングで僧侶と魔法使いも室内に入って来た。


「僕は勇者で彼らは大切な仲間だ。そして、魔王を倒す旅の途中、立ち寄った村の少女が攫われたと聞いて助けに来た」


「攫った覚えはないが、コレを連れて帰りたければ好きにしろ」


その態度と言動は勇者たちを不快にさせるには十分すぎた。


「あぁ? なんだ、こいつ。マジでぶっ殺してぇ……」


殺意増し増しの戦士を抑えるように、魔法使いの手が軽く触れる。


「待って、今は彼女の安全が先でしょ」


「あぁ、分かってる。ありがとう」


怒りを抑え、礼を言う戦士に、魔法使いは優しく微笑んだ。それから、ベッドへ近づくと、ベッドの上で震えながら丸まってる少女に声をかけた。


「もう大丈夫よ。私たちは、貴方を助けに来たの」


少女は答えない。ただ黙って震えている。そのひどく怯えてる姿に、中年男性に対する嫌悪感が溢れ、おっさんを睨みつけた。


「おい……」


仕方ない感じでおっさんが少女に声をかけると、少女はビクンっと身体を跳ねさせた。


「行け……」


その言葉で少女はゆっくり起き上がると、綺麗に揃えておかれた靴を履き、どこかおぼつかない足取りで、魔法使いの元へと歩いた。そして、魔法使いは優しく少女を抱きしめる。


「先に外に出るわ」


「ああ。頼む」


勇者に報告すると、魔法使いは少女と共に出て行った。


「これで用件は済んだろう。君たちも出ていってくれ」


「おいおい、まだ、大事な用件が残ってるだろ」


「……それは何かな?」


「決まってんだろ。オメェをぶっ殺すって用件だ……よっ!」


戦士はおっさんめがけて踏み込みながら剣を振り下ろそうとした。

だが、身体が固まったように動かない。


「な、なんだコレは……」


戦士は戸惑う。

勇者は僧侶を庇うように移動すると、彼もまたおっさんを攻撃しようとして、身体が動かなくなった。


「なっ……」


この時、ようやく勇者にも戦士の戸惑いが理解出来た。

麻痺とは別物。それに似た感覚を勇者は知ってる。


それは恐怖だ。だが、それを認められない。少なくとも勇者は恐怖を感じてない。それなのに、身体が勝手に恐怖で動かない。それに戦士も戸惑っているのだと、勇者は理解した。


「仲間に何をしたんですか?」


僧侶は麻痺解除の魔法を使い、それが効果無いことを把握し、次の手を打つ時間稼ぎに尋ねた。


「私は何もしていない」


「嘘をつかないでください。何もしてなければ、こうはならないでしょう」


「あいにく、嘘をつく必要性も、意味も無い」


「そうですか……」


「ところで、私を殺すという用件だが、それは不可能ではないが、君たちには無理だ。それが理解出来たら、帰ってくれ」


「あぁ? 」


「まぁまぁ、ここは一旦退くとしましょう」


「……そうだね」


ブチギレてる戦士を僧侶がなだめ、勇者は何か僧侶に考えがあることを察した。

そして、三人はすんなりと外へ出て行く。さっきまで動かなかった身体が嘘みたいに。










家から離れた場所に少女はしゃがみこんでいた。そして少女を包み込むように魔法使いもいる。


「もう、倒したの?」


「いや……」


魔法使いの問いに、戦士は苦虫を噛み潰したような表情で答えた。


「なんで? あんなキッショいヤツ、みんななら簡単に倒せるでしょ。まさか……見逃したの?」


「いや……それがよぉ、ヤツを攻撃しようとすと、よくわからん力で身体が動かなくなりやがる」


「ごめん、ちょっと何言ってるのかわからないんだけど」


「彼の言ってることは本当だよ。僕も同じだった」


「じゃあどうするの? このままヤツを放置するわけにはいかないでしょ」


「あぁ、そうだね。そこで、何か思いついたんじゃないかな」


勇者はそう言って、僧侶を見た。


「えぇ。ヤツを攻撃しようとすると、なにかしらの不思議な力によってそれを行えません。これは、直接的な攻撃だけでなく、拘束魔法なども発動できなかったので、間違いないでしょう」


中年男性と会話しながら、色々と試していた僧侶が説明する。


「それなら話は簡単です。ヤツを攻撃しなければいい」


「ん……? 何言ってんだ?」


理解出来ない戦士ことを一旦置いて、僧侶は魔法使いを見る。


「そこで頼みたいのですが、あの家を魔法で破壊してくれませんか」


「その攻撃にヤツを巻き込むってこと?」


「その通りです。少なくとも、扉を破壊出来てるので、攻撃対象を家にすれば問題は無いと思います」


「分かったわ。それなら任せて。そういうの、私得意だから」


魔法使いは立ち上がると、全身に魔力を込めた。すると、周囲の空気が線香花火のようにパチパチと弾け、頭上に魔法陣が浮かびあがる。

ゆっくりと手に持つ杖を家へ向けると、叫んだ。


「爆ぜろ!」


その瞬間、巨大な爆発が家を中心におこり、その爆風は大地を抉り、土の塊をばら撒いた。

それを戦士と勇者は剣圧だけで次々と弾いている。

そして、僧侶は熱風からみんなを守るため、癒しの魔法を発動させていた。


「やったか?」


「ちょっと、そんなことを言うと、やってないみたいになるでしょ」


「そうですね。大体、この爆煙の中から攻撃されたりしますね」


「じゃあ、油断せずいこう」


彼らは互いに警戒しながら、いざという時には守れるようにしていた。

そこに後ろか強風が吹いてくる。

急激に熱せられた爆心地を目指し、周囲の冷たい空気が移動してきた。その風は中心でぶつかると、上昇気流を生み出し土埃を柱のように持ち上げた。


しばらく警戒しながらその光景を見ていた彼らも、ようやく緊張の糸をほぐした。


その時、それまでしゃがみこんでいた少女はゆっくりと立ち上がる。

そして、彼らの前まで歩く。


「あ、ちょっと。危ないから戻ってきて」


魔法使いの声で少女は立ち止まる。

そして、言う。


「なんて、ヒドイことを……」


その言葉の意味を彼らは考え、静寂が訪れた。

それを真っ先に破ったのは戦士だ。


「あぁ、嬢ちゃん。もしかして、大事な物があの家にあったのか? だとしたら、すまん。代わりにならねぇかもしれねぇけどよ、俺が新しい物買ってやるから。元気だしてくれ」


「ええ、そうですね。申し訳ありません。私もそこまで配慮出来てませんでした」


「いや、これは僕の責任だ」


「違うでしょ。これは私たち全員の責任。仲間なんだから」


彼らの言葉を背に受けながら、ゆっくりと少女は振り返った。


「私がヒドイと言ったのは、無実の中年男性を殺害しておきながら、ほのぼのと談笑してる、君たち人殺し集団の行為についてだよ」


空気が一瞬で変わった。


「君は何者だ?」


「それは、この肉体の名前が知りたいのか?」


「違う。その娘の身体を乗っ取ったのか?」


「いや、乗っ取ってなどいない」


「それなら、さっさとその娘の身体から出ていけ」


「それは無意味だ。というか、中年男性だけでなく、今度は無実の少女を殺害したいのか?」


「何を言ってる。僕は君に出ていけと言ってるんだ」


「だから、それをすれば少女の肉体が死ぬだけだと、私は言ってる」


勇者と少女のやりとりに、他は混乱していた。


「え、えぇ? ちょっと待って。なにがなんだかわからないんだけど」


「……つまり、他者の肉体を乗っ取るか、操作する能力ですか……やっかいですね」


僧侶の推論に少女は眼ざしをむけ、否定する。


「それも間違い。私は乗っ取って無いし、操作もしていない」


「嘘よね……だって、それじゃ……あなたが黒幕ってことに……」


先ほどまで守ろうとしてた少女が黒幕だと思い、魔法使いの身体は抑えがたい震えに襲われた。


「つまり、あの家に居たおっさんが、本当はこの嬢ちゃんに操られていただけってことか」


「それも、間違い。それにしても、姿が変わっただけで、私は私だというのに、随分と態度が変わるものだ。また、問答無用で殺しにくると思ってたが……」


「おや、その割に、バラすのが早いですね。もしかして、殺されたかったのですか?」


「したければ構わない。それで死ぬのは少女の肉体だけだ」


「それなら、君を封印したらどうだい?」


「その場合も、封印されるのは少女の肉体だけだ」


「なるほど……それにしても、随分とベラベラと喋ってくれるね」


「当然だな。君たちの知りたいという気持ちは、最大限尊重してるつもりだ」


「なら、いい加減教えてくれないか、君の正体を」


「いいだろう。知りたいのなら、答えよう」


「おいおい、マジかよ。だったらついでに、オメェの倒し方も教えてくれよ」


「そんなことが知りたいのか……。まあ、いいだろう。私の倒し方も答えよう」


流石にその返答は予想外すぎた。彼らは驚きの表情を浮かべていた。


「さて、先ずは私の正体だが、はじまりから話すとしよう」








あれは、今からずっと昔。神話の時代よりも遥か昔。この地に、いや、この星に人と呼べる存在が私しか居なかった時だ。


私の肉体はそれなりに強く、そしてそれなりに賢かった。それこそ、この星で食物連鎖の頂点に立つくらいには。

生活は不便だらけだったが、少しづつ改善されていくのは、むしろ楽しかった。

毎日やりたいことばかり、一人でも寂しいなんて感じたことは無かった。


これを油断や慢心というのなら、その通りだった。




ある日、私は高熱を出し、全身を痛みと倦怠感が襲った。無理して食べても、消化する前に吐いてしまう。

病気なのはすぐ分かった。肉体の状態を調べ、症状と照らし合わせた。ところが、それは未知の病だった。

痛み、苦しみながら、私がどうにか完成させた薬は、症状を一時的に抑えるもの。


このままだと、肉体が免疫を持つより先に、症状が悪化するのが目に見えていた。しかも、薬を服用するほど、効果が薄れていく。



そこで、私は発想を変えた。

私は私を治癒するのではなく、もう一人私を生み出すことにした。

私とほとんど変わらない肉体、それにいかなる環境にも適応する強靭な私の心。少し違ってるのは、この病に対して免疫力を最初から持ってることくらいだ。



だが、それは失敗した。

生まれた私は、私を認識した後、自我崩壊するように自害した。

そこで、次は肉体だけを生み出した。今度は自害出来ないように肉体を拘束し、その上で私の複製した心を入れた。


だが、それも失敗した。

先ほどまで生きていた肉体は、私の心を入れた瞬間、全ての機能を停止させた。


そして、三度目だ。

今度は私の肉体に、別の心を入れ生まれた。それは自害もしないし、肉体の機能も問題なかった。もちろん、私の心を入れようとすれば、抵抗するのは分かりきってた。

だから、拘束していたのだが、私の心を無理矢理入れたところ、肉体が崩壊した。


どれだけ優れた肉体でも、心の容量は一人用ということも分かった。




そうした失敗例から、私が生み出した人。

それは、私とは似てない肉体に、私の心を入れ、さらに、擬似人格の薄い膜で私の心を包み隠したものだ。

これが成功した。あとは、同じように、色々な肉体で生み出す際、自己増殖プログラムとして、互いに繁殖するようにした。




こうして、この星には多種多様な色々な人々の私がいるわけだ。








「これが、私の正体だ。そして、私の倒し方は、この星すべての人を皆殺しにすることだ。もちろん、君たち自身も、君たちが大切な人々も、全て……」


「そ、そんなこと……出来る訳ないじゃない!」


「だろうね。だから、彼らにははじめに言った。私を倒すことは、不可能じゃないが、君たちには無理だ、と」


まるで仲間割れを誘うような指摘に、僧侶は激昂した。


「嘘を言うな。悪魔め、神を侮辱したこと万死に値する」


「あぁ、それが君の信仰なら尊重しよう。だが、それなら尚更、私は悪魔ではないよ」


「悪魔がほざくな」


「そうだな。悪魔でないことを証明するのは難しい。そのかわり、君たちのいう神話の時代に何があったか答えよう」


「なんだと……」


「まず、神だの天使だの、悪魔だのそんなものは居なかった。その時代に居たのは、希望を持って今を守ろうと生きた保守的な人々と、絶望して今を変革しようと戦った人々だ」


「なっ…………」


「そして、戦いに勝った保守的な人々の子孫が、自分たちの先祖を天使だと称し、負けた人々を悪魔として見下したわけだ。よって、君たちの分類に合わせるなら、私は悪魔ではない、となる」


もう、僧侶から言葉が出てこなかった。


「それで、これからどうするつもりだ?」


「どう、とは?」


「村に帰り、その娘として生きるのかと聞いてる」


「まさか、そんなヒドイことするわけないだろ」


「何が、ヒドイんだ。その娘を待ってる人がいるんだ」


「あぁ、記憶にあるこの少年かな。だったら余計戻れないだろ。少年が少女の肉体に恋したのか、心に恋したのかわからないが、現状、心は私だ。そんなことを知ったら、その少年の心が、それこそ壊れてしまうよ」


そう答えながら、少女は彼らを見渡す。

そこに映る勇者たち四人は、いつの間にか少女と視線を合わせるように膝をついていた。


「あ、そうだ。これも答えておこう。君たちが私を攻撃出来なかった理由は、君たち自身が私だからだよ。本能的にってヤツだね」


「それはつまり、僕たちに個性が無いとでも言いたいのか……」


「いや、そんなことは無い。なぜなら、君たちは外見なんてくだらないものに価値を見出し、やたらと気にするじゃないか。それこそ、君たち自身が薄っぺらい存在だから持ちえた価値観だ。私には理解出来ないが、尊重はするさ」


「くっ……」


「さて、そろそろ行くよ」


「ま、待て……最後に一つ聞きたい」


「いいよ。別に一つと言わず何個でも」


「……このこと、魔王は知ってるのか?」


「もちろん、知ってるさ」


「なっ……それなら、なぜ」


「なぜ? ああ、どうして魔王は人間を殺そうとするのか、ってことなら、それが彼ら絶望した人々に残された、小さな希望のカケラだからだよ」


「だが、そんなことをしても、何の意味もないはず」


「おやおや、君は本当にヒドイな。君たちだって、魔族とか見下しながら、散々無意味な人殺しをしてきたんじゃないか」


「違う。あれは人々を守るためだ」


「じゃ、魔王も同じ。人々を守るため、人々を殺してる」


「それなら、僕たちは分かり合えないままか」


「さあ、それはどうだろ。あっ、それとは関係ないけど、君たち魔王に会いに行くんでしょ。だったらついでに言伝を頼むよ」


「なんだ」


「なんか彼らの風習なのか通過儀礼なのか知らんけど、毎回魔王が私を殺しにくるんだよね。で、その度に私の正体を話すんだけど、いい加減めんどくさいから、そろそろやめてほしいって」


「ははは……そうか。それなら、ちゃんと僕が伝えよう。君が相当嫌がる、素晴らしい風習だと。なんなら、僕たち勇者たちも見習うべきだとね」


「おっと、何か吹っ切れたみたいだ。じゃ、最後に……この、自問自答は面白かったよ」


その言葉に絶句した勇者の脇を、少女は歩き去っていった。




勇者たちの姿が見えなくなると、少女は一人つぶやく。


「知らないは幸せ。知るは喜び。だから、人生は楽しい」


そして片側だけ異様に高く口角を上げる笑みは、どっからみてもバケモノの浮かべる笑みだった。







おわり




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