第55話 変わりゆく世界の始まり【前編】
健人さんが無事に世界チャンピオンになり日本に凱旋した。
加山会長と一緒に連日テレビ番組に出演してて一気にスター選手になった健人さんは日本の番組でもラスベガスで発言したのと同じ様に「防衛戦は誰の挑戦でも受けますので、そうですね、最低条件として世界ランキングで十位以内に入れば申込みをお受けしますよ」と発言した。
更に、今後の目標として「今回はWBAのベルトを獲得させていただきましたけど、出来れば世界チャンピオンが同じ階級に沢山居る事は納得できませんから、日本国内で認められている四つの団体の統一戦を望みますね!」と発言していた。
「各団体の都合もあるので中々実現はしないかも知れないけど四つのベルトを全て手に入れる事が現在の目標です」
歴史上最強と言われたカイザーに完勝したことで試合が実現さえすれば十分に可能な事だろうと日本中が健人さんの統一チャンピオン戦に向けて盛り上がっていった。
出演番組のM.Cの人に「ラスベガスの試合後のインタビューの時に松尾翔君に挑戦されてましたけど、その実現性はありますか?」ときかれて「あいつは別です。あいつが本当に体重絞り込んできたら仮病使ってでも対戦を避けますね」と発言して笑いを誘っていた。
俺じゃなきゃいいのなら今度マーにでも挑ませてみようかな? とテレビを視ながら思ったけど残念ながらマーは女の子だから実現の可能性は薄いよね。
◇◆◇◆
日本に戻って、今週末は金曜日の午後から香織と一緒に名古屋市内の大きなシネコンで舞台挨拶のイベントに呼ばれた。
土曜日は大阪、日曜日は東京と今週はずっと香織と一緒に舞台挨拶が続く。
どの会場でも俺と香織の壁ドン、アゴクイシーンの再現を求められるので、ひたすら同じことを繰り返してるぜ。
既に映画のCMでもそのシーンだけが流されてるので、どの会場でも大盛りあがりだった。
俺の出演シーンなんてそこだけなんだけどね。
でもなぁ良い事ばかりではなくアンナがちょっと不機嫌なんだよね。
香織と俺の2ショットがずっと続くから……
「来週は絶対埋め合わせで、週末は付き合ってもらうんだからね」と言っている。
香織も流石に「今週は翔君成分を公認の壁ドンで堪能したから来週はしょうが無いね」と言ってたけど俺の都合とかはそこに一切考慮されないのかな?
◇◆◇◆
ゴルフも順調に成長してるぜ。
ドライバーの飛距離はかなり自信ある。
今取り組んでいるのは運の要素が少なくなるように出来るだけ低い弾道で風の影響を受けにくいボールを打って常に安定した結果を求めようって計画だ。
「もうコースを回ってみても良いかもな、今の翔のショットの精度だとイーブンパーをいきなり下回る可能性も十分だ」
倉田さんの言葉に俺も安心した。
「じゃぁ次回はコースデビューって事でいいんですね! 楽しみだなぁ。アプローチの精度が上がるようにピタッと止まるようなボールを打ちたいんですけどコツはあるんですか?」
「ぉ、もうそこに考えが辿り着くなんて凄いね。止まるボールを確実に打つには使用するボールも柔らかいボールを使うほうがいいんだけど、その分ドライバーを使った時のランが稼げないとかデメリットもある。翔君はパワーが十分だから柔らかめのボールでもいいかもね」
「そうなんですね、俺的に一番不安が残るのはパターだからアプローチで出来るだけピンそばにつけれるようにしたいから柔らかめのボールで慣れようと思います」
その後で倉田さんにアドバイスを貰いながらスピンのかけ方を練習して、なんとか形になるようになった。
「翔君がコースデビューするなら、それに合わせて翔君モデルのクラブも販売スタートしないとね」
黛さんのプロデュースによるグッズ販売は、ウェアとシューズでは始まっていて、すでに全国的に品薄状態なんだって。
ゴルフシューズは、コース専用のものが主流だけど、タウンユース用のデザインだけ同じタイプのラインナップもあって結構売れてるそうだ。
キャップとサンバイザーにスポーツサングラスも今までにない売り上げを記録してるらしいよ。
因みに俺が使うゴルフクラブはチタンとカーボンファイバーをふんだんに使用してキャディーバッグ込みでフルセットが三十万円の価格設定なんだって。
ゴルフってお金かかるんだねぇ。
当然デザインだけ似ている廉価版のセットもあるらしいけど、黛さん予想では売れ筋は高級ラインナップの方になるって言ってたな。
◇◆◇◆
「ねぇ翔君、最近さ、綾子先生がメチャ奇麗になったように感じるけど何かあったのかな? 私って最近世界のトップレベルのモデルさん達とお仕事することあるから、結構目は肥えてると思うのよね、そんな人たちと比べても綺麗だと思う綾子先生って凄いよね」
授業が終わった後にアンナが唐突に綾子先生のことを話し始めた。
実際綾子先生はレベルもすでに二十を超えている。
きっと体の最適化とかそんな現象が起こってるんだろうな。
綾子先生のJOB『セクレタリィ』は直訳すると秘書で、なんだか戦闘向きではなさそうなJOBだと思ってたけど誰の秘書なのかで大きく能力の変わる、結構なぶっ壊れJOBだった。
当然俺の秘書である綾子先生は現状俺以外ではステータス面も最強になってる。
スキルもステータスも俺からレンタルする事で何でも使えるし十分に人外だよね。
ただし貸し出したスキルは俺が使えないって言う、デメリットがあったりするから状況に応じて対応は変えなくちゃね。
でも最近は、綾子先生ちょっとお疲れ気味なんだよね。
原因は俺……
一般入試を希望する俺は、まだ進学先を公表はしてないから毎日特待入学を希望する学校からの猛アピールを断るのにとても苦労してるんだ。
せめてものお詫びにと思って今日の勤務終了後に食事に誘った。
十八時に拠点で待ち合わせた俺は綾子先生と合流してパリに飛んだ。
日本と八時間の時差があるパリでは現在十時、まだちょっとランチには早い時間だ。
二人でパリの街を歩きながらショッピングを楽しんだ。
シャネルの本店でしか手に入らない白い紙袋に白いカメリアの付いた限定ショッパーが欲しいらしくて、それならと思ってピンク色の財布をプレゼントしてあげた。
エルメスでは予約してないとバッグなんかは見せてももらえないんだって、でもエルメス本店は観光地のようになってて結構人も多かった。
綾子先生が最近よく使ってる、バーキンのバッグの状態の良さを褒められて気分よさそうだった。
当然腕にはショパールもはめていたので上客だと思ったお店の人が「次回のご来店時に連絡を入れていただければ特別なラインナップの商品を揃えて、お待ちしております」と言われてた。
俺は別にパリで欲しいような物は無かったけどバカラのショップに行ったときに眺めてたクリスタルガラスのゴブレットを綾子先生がプレゼントしてくれた。
大事にするね!
時間も十二時を回ったので予約無しでは入れないレストランばかりだからカーネル大将にお願いして取って貰った。
モンパルナスタワーの最上階にあるレストランでエッフェル塔を下に眺めながらランチを楽しんだ。
ランチを食べ終わって拠点に戻ると最近は少し照れくささも無くなってきた綾子先生が「今日はありがとう」と言いながら軽く唇に『チュッ』としてくれた。
我慢が利かなくなると困るから転移で自宅に戻って唇に残る感触を感じながら眠りについた。
そして翌朝世界が大きく変わるような状況に陥った……
「朝早くにゴメンな翔君。ちょっと緊急で確認したい案件が起こった」
まだ薄暗い六時前に斗真さんの電話で起こされた。




