第41話 オリンピックのヒーローは本物のヒーローに大変身!
千五百メートル走も無事に金メダルを獲得し、明日の早朝行われるマラソン競技の為に、陸連はわざわざ自衛隊機を使って俺を札幌に送る手筈を整えてくれていた。
俺と両親、綾子先生、遊真、GBN12と陸連関係者。
それに加えて斗真さんたちJCIAのメンバーもテロ対策で同乗している。
二千十七年度から実戦配備の始まC-2輸送機が今日の俺達の移送に使われた。
まだ新しい機体だけど、基本は軍用だし決して乗り心地は良いとは言えないよね。
横田基地からフライトした機体は、新千歳空港までを一時間半ほどで移動して、そこからはチャーターのリムジンバスで札幌市内まで送ってくれた。
既に時刻は零時を回っていて、集合時間の五時半まで睡眠時間もまともに取れない状況だが、明石さんは俺が少しでも寝れるように気を使ってくれている。
俺にしてみれば、転移で移動すれば何の問題もなかったんだけど、そんな事公表出来ないからしょうが無いよね。
マラソンのスタート地点の大通公園からほど近いホテルで仮眠を取り、朝の五時過ぎには起こされて大通公園に向った。
既に空は明るく、大通公園には大勢の人が集まっていた。
テレビ局も沢山訪れているが睡眠時間が不足している俺を気遣って、スタート時間ギリギリまでは俺にインタビューが来ないように明石さん達がブロックしてくれていた。
俺は回復スキルがあるので寝不足は殆ど関係ないから体調は全然平気だけどね。
GBN12は、大通公園内に設置された大型モニターの前に設置されたステージで既に応援イベントを始めている。
一体何万人の人が集まっているんだろう? と言うくらい人で埋め尽くされている。
今日は東京の国立競技場では閉会式が開催されるんだけど、開会式と同じで夜の二十時から二十三時までの予定になっている。
中学生の俺は、開始から一時間程度しか参加出来ないので、最初から参加しないことにした。
今回の大会で一番注目を浴びた俺が参加しない閉会式で、今後国内開催の競技大会が日本の青少年がリアルタイムで楽しめる時間帯に開催してくれるようになってくれればいいけどね!
アメリカのテレビの都合に合わすくらいなら、最初から日本で無理して開催すること無いと思うのは俺だけなのかな?
そして時刻はスタート時間を迎える。
現時点で世界記録保持者である俺は最前列からのスタートだ。
号砲と共に、一斉にスタートをきる八十か国、百六十人に及ぶ選手達の先頭を切って、集団を引っ張る形での出だしだ。
五輪や世界陸上では、ペースメーカーの選手も居ないために、自分のペースで走ることが出来る。
最初のほぼハーフマラソンに該当する周回コースを回る間は、それ程ペースを上げるわけでもなく、先頭集団を引っ張る形で走った。
ライバルとなるケニアやエチオピアの選手達は【OCSC】での経験もあり無理に俺のペースにあわせることはせずに、自分達がベストのパフォーマンスを行えるペースを保って走っているようだ。
俺のマラソンシューズは他のトップクラスの選手達が履いているような、厚底タイプの物では無いが、契約メーカーが俺専用ににデザインしてくれたシューズだ。
昨日の千五百メートル決勝でも使用したこのシューズは、恐らく五輪終了後は凄く売れるんだろうね?
厚底シューズと違って耐久力もあるので、カジュアルユースでも使い勝手もよく「普段履いてもカッコいいのがいいな」と言った俺の希望を聞き入れてもらってデザインしてある。
最初の一周を終えて、二周目は大通公園のスタート地点からまっすぐ横断して、一周目の半分程の距離になる様に調整された小回り周回を二周する事になる。
小回りっていっても一周十キロメートルはあるんだけどね!
給水所は五キロメートル置きに設置してあるけど、俺は本当は全然必要ないんだけど取らないと怪しいから、十キロメートル毎に一回は取っている。
俺の飲み物はスポーツドリンクとかでは無く普通の水にしてもらった。
テレビでマラソン中継見た時に頭から水かけてる姿を見て、ちょっとかっこいいなと思ったからやってみようと思ってたんだ。
スポーツドリンク掛けたらベタつくしね!
そして給水所で取った水を一口含んで、残りを頭の上からかけ必死で走ってる感を出しながら、小回り周回の一周目を終え再度大通公園に戻ってくる。
この時点で、もう俺の周りに追走してくる選手は誰も居なかった。
そして最後の周回になり、沿道の大歓声に支えられながら走り続ける。
三十キロメートルのラップタイムを確認した時点で、前回の世界記録ペースを上回っていたので、余りペースを上げすぎるとゴールタイムがヤバイことになりそうだから少しペースはセーブしよう。
もう俺の周りにいるのは、先導の白バイの人と大型スクーターに載ったテレビカメラを構えた人、それと天井にパラボラアンテナを立てている報道用の車くらいだ。
そして三度目の大通公園が視界に入ってきた。
誰もが俺の優勝を確信して凄い笑顔で歓声を上げている。
色々在ったけど、この舞台で走ることが出来てよかったな。
そしてゴールのテープが見えてきて、誰よりも先に自分の胸でテープに触れた。
そのままGBN12のメンバーや綾子先生、両親が居るメインステージの方まで走って行った。
最初にアンナが抱きついて来ると、香織も負けずに飛び付いてきた。
その様子を見てたGBN12の他のメンバーも、次々に抱きついてきてちょっと収拾がつかない。
「待て、一回落ち着け、まだ大事な事やってないだろ!」
そう言って俺は、ステージの上に上がると、全員に見えるように両手をパーに広げてアピールする。
会場にいる全ての人が、俺に併せて両手をパーに広げて構えてる。
そして俺はそのまま手を上に上げ「「バンザーイ」」と大きく叫んだ。
色々パターンを考えたけど、こんな時は絶対思いっきりベタなほうが印象に残るよね?
そしてみんなも大きく手を広げて「「「「バンザーーーイ」」」」と叫んでくれている。
そこでアナウンスが入って正式タイムが表示された。
当然O.R W.Rの二つの文字も表示されている。
1時間56分30秒
再び大歓声に包まれた。
その時だった。
マーから念話が入った。
『翔君大変。東京にテロリストが集団で現れたわ』
『何だって? どんな状況なんだ』
『私にも解らない、スカイツリーを占拠して立て籠もってるわ』
『人質もいるんだよな?』
『オープンしてすぐだからそんなに多くは無いはずだけど、中で働く人達を合わすと二百人以上は居るはずだわ』
『解ったちょっと全員で拠点に集合してくれ、俺も香奈を連れてすぐに行く』
そこで競技の疲れで立ちくらみが起こった様に装ってうずくまると、両親に肩を抱かれて救急テントへと連れて行かれた。
テントで両親に、「俺ちょっと急用出来たから、父さん頼む。上手く誤魔化しといて!」と伝えると、何も解らないはずの父さんが「おう、お前が納得できるように頑張ってこい。何の事か解らんがな!」と二つ返事でOKしてくれた。
俺は隠密を発動してステージの香奈の側に移動すると、香奈の手を取りそのまま転移で、拠点に飛んだ。
「ちょっと翔君。いきなり拉致られるといくら私でもびっくりするんだからね? 何かあったの?!」
拠点ではマー、ビアンカ、ヤリマンスキーの三人がテレビを見ていた。
スカイツリーの占拠を報道していたが、予想される犯人グループは三十人以上はいそうだ。
今回は、まだ犯人側からの要求などもなく、五輪関連施設に警備が集中したために、手薄になったスカイツリーを対象に選んだようだった。
「解決するのは決定事項として、こんなテレビカメラなんかが集中している中に顔を晒して突っ込むような事は出来ないから、これに着替えてくれ」
俺が取り出したのは、五色の全身タイツだ。
色は五輪のカラーに合わせて青・黄・黒・緑・赤の5色にした。
顔には同色の3Dマスクとサングラスを付けてもらう。
勿論サングラスのフレームもタイツと同じ色だ。
「これに着替えてもらうぞ。腰に巻くベルトのポーチがマジックバックになってるから、ちょっと練習したら一瞬で普段の服から早着替えできる様になるし、それは今回の件を解決してから各自で練習してくれ」
「ちょっと、マジで言ってるの? こんなクソ恥ずかしい格好させて誰が喜ぶのよ?」
「どうせ顔出さないんだから平気だって」
「人としての尊厳を失いそうだよ」
色々と文句はあるようだが、とりあえずは着替えてもらった。
まぁ顔は解らないはずだから、きっと大丈夫だろう。
因みに色は、
俺 ・赤
香奈 ・黒
マー ・緑
ビアンカ ・黄
ヤリマンスキー・青
に決まった。
一応、決めポーズも練習させたぜ、戦隊ネームは『五輪ジャー』だ!
やっぱ主役はレッドが基本だろ?
マーは、結構なナイスボディが強調されて何かエロいな。
香奈は、おこちゃま体型だから問題無しだ。
ビアンカの肉が歩く度にブルンブルン震えてかなり怖い。
ヤリマンスキーの股間は、それでなくてもでかい一物が異様に強調されて不気味だ。
「制圧は、俺とヤリマンスキーが転移で移動しながら、転移門の中に犯人たちをひたすら放り込んでいくでいいかな?」
「ねぇ? この格好とその作戦だと別に私、必要無くない?」と香奈がまだ抵抗しているが却下だ。
「能力的に、転移、鑑定、格闘は必要だから、マーと香奈とヤリマンスキーで一セットだ。俺はビアンカと組む」
斗真さん達JCIAは札幌に主力メンバーと行ってたから急ぎで戻るにしても、二時間は掛かるはずだ。
「犯人達の要求なんかは全く解らないが、人質に紛れてるやつもいると思って間違いないから、俺と香奈で片っ端から鑑定掛けて、テロリストの背後に転移で移動しながら、転移門に放り込んでホイホイに転送する」
「俺とビアンカは、上の展望台から下に向かって行くから、香奈達は下から順に制圧していってくれ」
「それじゃぁ行くぞ!」
俺達はテレビカメラに囲まれているスカイツリーの前に転移で移動すると……
「「「「「五輪ジャー見参」」」」」
と、香ばしい決めポーズをかまし、再び転移でスカイツリー内部に転移した。
「あのふざけた連中はなんなんだ?」と言う呆れとも怒りとも取れる反応は一切無視だぜ。
予定通りに鑑定スキルと転移門を活用しながらどんどんテロリスト達をホイホイ送りにして行きスカイツリーは無事に解放された。
再び全員揃ってスカイツリーの入口前に現れ「平和は守られた、アデュー」と香ばしいポーズを決めて拠点に転移で戻った。
「お疲れー、俺と香奈は札幌に戻らなきゃヤバイから、後は頼むな。早着替え練習しとけよ!」
そして俺は香奈を連れて札幌大通公園に戻った。
香奈は何事もなかったように「ステージの下で座ったら本当に寝ちゃってた。ごめんね」と言ってごまかした様だ。
俺は、父さんに「ゴメン遅くなった。もう大丈夫だよ」と伝えると、「陸連の人たちが凄い心配して何度も顔を覗かせたけど、疲れと寝不足で少し寝てるだけだから大丈夫です。もう少しだけ時間を下さい」と言って誤魔化してる」と教えてくれた。
「父さんありがとうな、感謝してるよ」
と言って陸連関係者が待つテントへと向った。
既に棄権者以外は全員ゴールして、表彰式が始まろうとしていたので明石さんが俺の姿を見ると安心して「良かった、大丈夫か? 俺が無理なスケジュールで競技に参加させてしまったから、責任を感じていたよ済まなかったな」
「心配掛けてスイマセン。明石さんのせいでは無いですから気にしないで下さい。明石さんのおかげで二度と出来ない貴重な体験をさせて頂いたのは事実ですから、心から感謝していますよ」と伝えると、少しだけ表情も明るくなった。
そして、俺は表彰式に臨み、君が代が流れる中を昇っていく日の丸の旗を見つめ、首に十個目となる金メダルを掛けて貰った。




