第32話 ロシアのお姉さんは、高級レストランがお好き
競泳競技は六日目に突入した。
今日の俺の出番は午前中の二百メートル個人メドレー準決勝と、夜の百メートルバタフライの予選競技だ。
今回の東京五輪は俺は予定通りの調子で競技を行えてるけど、他の競技でも中々頑張っていてメダルの獲得数では現状、アメリカを抑えて日本がトップに立っている。
国中が盛り上がってて何よりだぜ!
GBN12の応援ソングと振付も凄い流行を見せて、投稿動画サイトでも自作のコスチュームで完コピする動画が流行したら、さらに冬本さんが「コピーじゃんじゃんやって下さい! 出来の良い物で私の目に止まれば実際に会場に招待しますので応援手伝って下さい」と発表しちゃたもんだから正に日本中がGBN12の応援ダンスで盛り上がってた。
冬本さんの発言は忠実に実行され完コピプレーヤーたちも毎日選び出されて、東京に招待され実際の競技場でGBN12と同じ衣装を用意されて観客の前に立って応援ダンスを踊れる。
やっぱり凄いプロデューサーだよね。
普通なら思っても中々実行できない事を即断即決で行う行動力、トップに立つ人は違うよね!
しかもGBN12を含めてあくまでも公式応援団では無く、私設応援団を民放が取り上げてるだけだから色々緩くて使い勝手が良いみたいだよね。
そして俺は今日の個人メドレーの準決勝は二着泳ぎをして夜のバタフライ百メートルの予選までの間はGBN12と共にテレビ局に呼ばれ、お昼のバラエティ番組へ出演した。
翌日金曜日からスタートする陸上競技の見所とかを聞かれて、当たり障りの無い範囲でコメントしたよ!
スタジオでパフォーマンスを繰り広げるGBN12の後ろで、俺の金メダル獲得シーンや指を突き上げるシーンが大型ディスプレーで映し出されての感動っぽい演出になってた。
テレビの出演を終えて競泳会場に向かう時にマーから連絡が入った。
「何か合った?」
「事件は起こってないんだけど、ヤリマンスキーがロシアのスペツナズの連中を見たって言ってたから、何か起こりそうな気がするんだよね、今回ロシアは国としては参加してないし、公式に護衛とかがある訳じゃないから怪しいでしょ?」
「それは十分に注意しなければならない状況だな、斗真さんにも伝えておくよ」
何だか不穏な空気が流れてきたな、俺はとりあえず斗真さんに連絡をして気を付けるように伝えた。
でもおかしいな? 実際カーネル大将の機関に協力する国、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツの諜報機関の連中は結構入国して来ているし、その存在は斗真さんも把握している。
今の日本国内では俺が用意したタブレットがあるので、少なくとも斗真さん直属のJCIAではスペツナズと言えども武器を所持していれば解るはずだ。
ワザと見逃していたのか、それとも武器を持たずに入国していたのか……
どちらも考えられないな。
あー、悪意に反応するようになってるから、悪意が無ければ大丈夫なのか。
だとすれば目的はなんだろうな?
◇◆◇◆
夜の部の競泳会場では俺は百メートルバタフライの予選だけだ。
二着泳ぎで明日の準決勝に進出を決めて早々に会場を後にした。
みんなで食事に行ったんだけどたまには和食が良いよね! って事で今日はお寿司を食べに行った。
カウンターに並んで目の前で握ってもらいながら食べる高級なお寿司は、いつもの回転寿司と比べると別次元の美味しさだった。
何でこんなに美味しさが違うんだろうね?
俺なりに考えてみたけどネタは当然値段も違うし良いものを使ってるんだろうね?
ネタの一つ一つに細かな仕事がしてあるって言うか、イワシとかの安いネタでも細かく切込みが入ってたりして、口に入れたら溶けるような感じで食べれるんだよね。
一番違うのはシャリなのかな? やっぱり熟練の職人さんが手で握るお寿司は回転寿司の機械が握るシャリとは別物だよね。
まぁ大満足で、それぞれの宿泊先に戻ったんだけど俺はさっきの寿司屋の中で明らかに見られている気配を感じていた。
恐らく、マーの話に出てきたスペツナズかな? 俺が目的であるなら逆に安心だけどな。
俺が一人になるタイミングを待って近づいてきたカップルに対して
「何か御用ですか? スペツナズのイヴァンさんとアナスタシアさん」と鑑定で調べた名前で呼んであげた。
「あら? オリンピックのヒーローは超能力もお持ちなのかな? まさかスポーツは変な能力は使ってないよね?」と返された。
「さぁどうでしょう、通報でもしますか? あなた達はどんな用事で日本に来てるのかな? 敵意は無さそうに見えるんですけど」
「それも解っちゃうんだね、とりあえずいいイメージは持たれてないと思ってたから、どうやって接触しようか悩んでたのよねぇ」
「俺に接触することが目的だったんですか?」
「そうよ、うちの国の能力者はあなたがどうかしちゃったのかな?」
「ここで話すのはちょっとマズイと思うから場所を移しませんか?」
俺は、拠点にはヤリマンスキー達がいるので名古屋の自宅に二人を連れて転移した。
今なら両親は東京に来てるから誰も居ないしね!
「あら、ロシアの能力者と同じことも出来るのね厄介だわ」
「お二人はヤリマンスキーの事は何処まで把握してるんですか?」
「あの子は異世界帰りの能力者だと把握してるわ。ちょっと性格に難があるから重要な件は任せてなかったけど転移の能力は役に立つからね」
「そうですか、俺も同じですよ少しだけヤリマンスキーより出来る事が多いですけどね」
「身体能力は何か魔法の様な物を使ってるの?」
「いえ、魔法というかスキルを使うと、あんなもんじゃないですよスポーツは普通に自力で頑張ってるだけです」
「証明は出来るのかしら?」
「そうですね、見てもらう方が簡単かな?」
俺は無口な男性の方イヴァンさんの肩に触れ、アイテムボックスに収納することをイメージすると、当然そこには素っ裸のイヴァンが残る。
アイテムボックスから武器以外の衣服を取り出して返すと、イヴァンの持っていたピストルを取り出し、身体強化をマックスにして握りつぶしてみせた。
「凄いわね、備品壊されると給引きで弁償させられるから困るんですけど?」
「日本でこんな武器持って歩かれても困るんですけど?」
「まぁしょうが無いわね、イヴァンのは諦めるから私のは許してね」
「おい、俺も困るぞ」
「スキルを使うと百メートルなんて五秒も掛からず走れちゃいますよ。あくまでも身体能力だけで真面目にオリンピックには参加していますから、俺と敵対する事を選ぶんじゃなければ、そこは触れないで欲しいですね」
「解ったわ。私達の任務はあくまでも貴方と仲良くなる事だから、そこは約束するわ。貴方が能力者なのかどうかの確証が欲しかったの」
「理由はありますか?」
「チェルノブイリは解るかな? 今はウクライナの領土だけど元々ソビエトの原子力発電所の在った都市なんだけど」
「解ります。そこがどうかしましたか?」
「変異動物というか、モンスターねあれは……モンスターが発生して周辺の村が壊滅したわ。まだ公式には発表してないんだけどね、ロシアからも部隊を出して包囲してるけど押し返すのが精一杯で倒せないの」
「そうなんですか、きっと異世界の魔物でしょうね」
「やはりそうなのね……貴方なら何とか出来るの?」
「多分ですが大丈夫です。俺はヤリマンスキーと違って魔王倒して能力持ったまま戻ってきましたから」
「ヤリマンスキーでは無理なの?」
「無理ですね」
「お願いできるのかな? 勿論無料とは言わないわ」
「五輪終わるまで抑えれますか?」
「恐らく抑えるだけなら何とかなるわ」
「解りました。この世界の人間が魔物を倒して能力が上がるかどうかは解らないので決して無理はさせないでくださいね。五輪が終わってから対処します」
「助かるわ、それと一つお願いがあるの」
「なんでしょうか?」
「食事は出来るだけ高級な店でとってほしいわ、貴方の見張りの名目ならどんな高級店でも経費で落ちるから、今日は嬉しかったわ」
「中学生だけの時は、中々高級店は目立っちゃうから入りにくいんですよ、夜は善処します」
「それと、翔君はJCIAや西側諜報とは仲がいいでしょ」
「そうですね、否定はしません」
「今回の件はまだ内緒にして欲しいのよね」
「理由は?」
「ヤリマンスキーが何か言ってなかった?」
「影の支配者ですか?」
「そうね……あの方は旧ロシア帝国の時代から祖国を守ってきたわ、当然歴史からは抹消されているけど、その存在は西側諸国にとっては驚異でしか無いの。余分な争いを起したく無いの、本心よこれは」
「それとチェルノブイリは直接の関係があるんですか?」
「あの方はあなた達と同じ存在イルアーダの出身よ」
「その表現は正しくありません。俺は日本の出身です」
「そうだったわね、ゴメンナサイ」
「恐らく今回の魔物はイルアーダの魔物と同じだと俺も思っています。とりあえずは条件を飲みましょう」
「ありがとう翔。くれぐれもレストランは美味しいお店を選んでね」
「イヴァンさんは何をしに来たんですか?」
「私の付添よ、男に喋られるより私みたいな綺麗なお姉さんの方がいいでしょ?」
「あーそうですね」
「なんか台詞が棒読みだよ?」
「戻りましょうか、五輪終了までは余程の事が無い限り連絡はしないで下さいね、斗真さん達は凄く優秀ですから、もしアナスタシアやイヴァンが悪意を表に出した行動を取ると、直ぐに捕捉されてしまいますよ?」
「解ったわ、レストラン選び以外では自由にして頂戴」
そして俺達は東京に戻り俺は選手村へと戻った。
三箇所目の魔物発生地か、それとイルアーダから来たロシアの影の支配者。
ん……帝政ロシア時代から居るって言ってたな「ラスプーチン」本人か! なんかヤバそうな気がするな。




