「きらきら星」についての米内洋六家の面々の色々な想い
「冬の童話祭2026」参加作品になります。
正直に言って、童話とは言い難い小説ですが、どうか緩く見て下さい。
「きらきら光るお空の星よ(以下、略)」
米内早苗は、1941年12月下旬に無邪気に歌っていた。
それを聞いた異母姉の米内藤子は、早苗に言った。
「佐世保で、宣教師の方がクリスマスの讃美歌として、「きらきら星」を歌っていたわね」
「うん。ちょっと懐かしくなって。今頃は佐世保の、私達が住んでいた官舎の近くのあの教会で、クリスマス行事をしているかな」
「そうね」
異母姉妹は、やり取りをした。
小学4年生の早苗はそれ以上のことを考えなかったが。
女学校1年生の藤子は、色々と考えてしまった。
「きらきら星」か、私にとって、今は「ABCの歌」だな。
実際問題として、アルファベット26文字を覚えるのに、「ABCの歌」は、それなり以上に自分にとっては役立ったといえる。
更に言えば、「きらきら星」を讃美歌として、自分が覚えていたから、この春に女学校に自分が入学して、英語を学ぶ際に「ABCの歌」を、自分は容易に覚えることが出来て、英語を比較的にだが、容易に習得できたと想うのだ。
そんなことを、藤子が考えてしまっていると。
早苗は、更に別のことを言い出した。
「私が「きらきら星」を歌ったら、(同級生の)友達が、別の歌詞があると言って、色々と教えてくれたの。お姉ちゃんに、歌って聞かせたいけどいい?」
「いいわよ」
早苗の頼みを、藤子は軽く承諾した。
「おほしさまピカリ(以下、略)」
と早苗は、「きらきら星」を別の歌詞で歌って見せた。
そして、早苗は、他にも二つの歌詞を歌って見せた。
それを聞き終えた藤子は、早苗に言った。
「本当に色々とあるモノね。ところで歌詞は全く違うけど、同じ節回しの歌があるの」
「どんな歌?」
「ABCの歌よ」
早苗と藤子はやり取りをして、藤子は「ABCの歌」を歌って見せた。
それを聞き終えた早苗は言った。
「確かに節回しは、「きらきら星」ね。ところで、フランス語やドイツ語、イタリア語の「ABCの歌」とかもあるの」
「あってもおかしくないけど、私は知らないわね」
「ふーん、お姉ちゃんなら知っているかも、と想った」
早苗は無邪気に話をして、藤子は少なからず考え込んでしまった。
実際、ドイツ語での「ABCの歌」を、私は小林アンナさんから聞いたことがある。
だが、アンナさんにしてみれば、何とも複雑な歌なのだ。
歌に全く罪は無いのだが、アンナさんは本来はユダヤ人だ。
そして、1941年12月現在、ドイツではユダヤ人迫害が酷く行われているらしい。
アンナさんの本音では、ドイツ語は学びたくないのだ。
だが、何とも皮肉なことに、江戸時代に鎖国していた日本は蘭方医学の影響もあるのだろう、明治維新以降はドイツから主に医学を学ぶことになり、医師はドイツ語を学ぶのが当然と言っても過言ではない事態が起きてしまったのだ。
そして、日本人になって医学を学ぼうとしたアンナさんは、ドイツ語を学ぶしか無かったのだ。
言葉、言語に罪はないとはいえ、本当に何とも言えない事態を引き起こすモノだ。
そんな想いを、子ども達がしているのと、相前後して。
アンネ・フランクは、自らは知らずに「きらきら星」をハミングしていた。
アンネにしてみれば、「きらきら星」は、18世紀末のフランス大革命の頃に作られたフランスのシャンソン(歌)の一つで、暫くブルターニュ半島の難民キャンプにいた際に、周りのフランス人が歌っているのを聞いて、何時か好きになって覚えた歌曲の一つだった。
そして、曲は気に入ったものの、フランス語の歌詞を未だに完璧には覚えきれておらず、ハミングでアンネは謳っていたのだ。
その曲が耳に入った米内久子は、目に入ったアンネの年齢もあって、自分の子ども達、早苗達のことを思い起こしていた。
あの曲は「きらきら星」だ、自分の子ども達が歌っているのを聞いた覚えがある。
本当に自分の子ども達は、日本で元気にしているだろうか。
自分の子ども達を息子の嫁(?)に預けて、夫を追い掛けて家を出てから、間もなく2年になる。
子ども達は、「きらきら星」を歌っているだろうか。
子ども達を思い起こした久子は、想わず日本語の歌詞で、「きらきら星」を口ずさんでいた。
それを聞いたアンネは、久子に訊ねた。
「それが、日本語での「きらきら星」なの」
「ええ。この歌は、多くの国で歌われているの。それぞれの国の言葉でね。英国でも歌われているし、ドイツでも歌われている。そして、いつの間にか、日本に伝わって、そこではキリスト教会の讃美歌のようにもなっているわ」
「そうなんだ」
久子の言葉を聞いたアンネは、自らがユダヤ教徒であることもあって、色々と考えたようだった。
そのアンネの表情を見た久子は、アンネに語り掛けた。
「本当にどんな言葉で歌っても、歌であることに変わりはないわ。そして、同じ歌を好きになって、違う歌詞で歌い合って、それで平和な世界が何時か来てほしいわね」
「そうですね」
久子の言葉を聞いたアンネは微笑んだ。
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