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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
2章 おまけの兄→女神の使徒
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94話 海王国からのSOS(12)

 この国のお城は町の中心にある。

 立派な門を抜けると何千人と入れそうな広場があり、その奥にこれまた立派な屋敷がある。白壁に朱色の柱や柵、緑青の屋根。二階建ての中華な城を、俺は物珍しく見回した。


「景色が違って見えるな」

「凄い異国感」


 まぁ、それは獣人国もそうなんだけれど。


「ここは政治の場ですので、無駄に大きいのです。これからお通しする奥院は我の住まう場所ですので、もう少し落ち着けるかと思います」

「え! あの、紫釉様の生活する場所に泊めてもらえるんですか?」


 客用のところとかかと思っていた。

 俺の驚きに彼も驚いた顔をして、次には悲しそうにされた。


「お嫌ですか?」

「いえ、そんな! ただ、不用心とか……」

「まさか! 女神が選び、霊亀が乗せた者が何かするだなんて思っておりません。それに、先程も言いましたが我は其方と友になりたいのです。友を家に招くのは、少し憧れだったので」


 ちょっぴり恥ずかしそうにそんなことを言われて、「行きません」なんて言える人間はいない。少なくとも俺は無理!

 っていうか、俺も何か照れるなぁ。


「あの、有り難くお世話になります」

「本当ですか! わぁ、おもてなしをどうしましょう。あっ、呼び方もよければ紫釉と」

「えぇ! あの、それは大丈夫ですか?」

「はい、勿論です」


 美人の満面の笑みに勝てる奴って、存在しないよな。燈実に睨まれながらも、俺は結局同意した。


 彼の私的な屋敷は城の奥の方にあった。一度外に出て、大きな蓮池にかかる橋を渡った先にある。


「海の中なのに、池?」


 クナルは疑問符だらけで見回し、俺はもう深く考えないことにした。なんせ魔法のある世界なんだから、この際何があっても気にしない。考えるだけ無駄だ。


「面白いでしょ? 火も使えますので、煮炊きもできますよ」

「あっ、じゃあ今日は俺がご飯作りましょうか?」


 申し出てみると紫釉の目がパッと輝く。この様子、どうやら殿下から何か聞いてるな。


「良いのですか! 実はルートヴィヒ王子から其方の作る料理が絶品だとうかがって、是非とも食べてみたいと思っていたのです」

「主上! 流石にそれは」

「お前も食べてみたくはありませんか? 外界どころか異世界からの客人が作る料理なのですよ!」

「それは……」

「秀鈴も食べてみたいですよね?」


 紫釉と手を繋いでいた秀鈴も目は輝いている。どうやら似た者のようだ。


「……失礼ですが、作っているところを見させていただいても宜しいか。この方はこの国の要。何かあっては大変なことになるのです」

「それは構いませんよ」

「なんなら一緒に作ればいいんじゃね?」

「え!」


 クナルが突然爆弾を落とし、燈実は途端に大焦りとなった。それを紫釉が可笑しそうに「良いですね」なんて言うものだから引っ込みがつかなくなる。結局手伝うこととなった。


 屋敷はこぢんまりとしたものだった。平屋で屋根は比較的平坦。朱色の柱などは使われず、木目が綺麗な高床の屋敷は落ち着いていて居心地がいい。

 食事をする場所、客室などの案内をされ、荷物を置いてから俺は燈実の案内で炊事場へと案内された。

 炊事場は普段の宿舎よりも時代がかっている。基本は木造で、煮炊きには竈が使われていた。けれど本当に水の中で火が使えていて、改めてどういう仕組みなのかと疑問符だらけとなった。

 給仕をしている女性達が何事かと此方を見ている。その前に立った燈実が、女性達に向かって声を上げた。


「皆すまない。主上が今宵の食事を此方にいる地上の神子様に作ってもらいたいと仰った。そこで急ではあるが一品作らせてもらいたい」


 この申し出に女性達は少しザワザワする。急なことだし当然だ。

 俺は前に出て、彼女達に丁寧に一礼した。


「初めまして、マサと申します。急なお願いで本当に申し訳ありません。お邪魔じゃなければ一品、添えさせていただければと思うのですが」

「それは構わないけれど」


 給仕をしていた女性の一人が声を上げ、前に出てくれる。そしてスッと手を出した。


「給仕頭の林杏だ。地上の神子というと、獣人国かい?」

「はい」

「此方とは随分味付けが違うから、楽しみだ。まずはこの国の料理を味見するといい。作るにしてもあまりに味が離れていると妙だろ?」

「いいんですか!」


 思わず目が輝く。なにせ魚人族の料理だよ! 興味がないわけがない!


 どうやら夕食を作っていたらしい。海の底だから今が昼か夜かも分からないが、現在は夕方なのだそうだ。


 彼女達が作っていた料理はやはり中華っぽかった。

 海老やイカ、それに葉物野菜が使われたあんかけ料理や炒め物、ふっくらと蒸された蒸し料理。丁寧に出汁を取ったスープの中に海老ワンタンが浮いたもの。

 え? これに俺足すの? 正直もう不要じゃね?


「あの、完璧ですよね?」

「まぁ、一品残ってはいるけれどね」

「?」

「食後の甘味がこれからなのさ」

「!」


 言われてみれば確かに。林杏がニッと笑い、俺もニッと笑う。


「やります」

「任せたよ」


 もうそれだけで俺は全てを理解した。


 とはいえ何を作ろうか。甘味といっても色々ある。しかもこれだけ準備が出来ているのなら、時間はあまりかけていられない。

 マジックバッグの中を見てみると使えそうな材料もある。砂糖、牛乳、卵に、以前殿下が報酬としてくれた珍しい食材シリーズの中にあったバニラビーンズ。

 これだけあるなら、アレが作れるでしょ。


 ニヤリとした俺を見て、クナルと燈実がビクッとしたのは言うまでもない。


 とはいえ急ぐに越したことはない。今回は生クリームはないから、なしでも濃厚に作れるようにしないと。


「林杏さん、火を使いたいです」

「そっちにコンロあるよ。アタイ等は釜のが慣れてるけど、使えるはずさ」


 言われた方を見ると確かにコンロ。火もちゃんと付く。

 手早く卵黄と卵白に分け、牛乳を量り、砂糖も量る。これらを鍋に入れて弱火で加熱していくのだ。


「何作るんだ?」

「それは出来てのお楽しみで。クナル、この豆の種取ってくれる?」


 彼に渡したのはバニラビーンズだ。長細い茶色いそれはクナルにとっては食べられるものに映らなかったらしい。もの凄く驚かれた。


「これなんだよ!」

「バニラビーンズ。香りが出るんだ。少しでいいから適当な長さに切って、縦にも切り込み入れて、包丁の背でギュッと」


 指で摘まんでげんなりしながらもやってくれるの助かる。そして刃物の使い方はやっぱり一流だ。

 数センチに切ったものに縦にも切り込みを入れ、端を持って包丁の背で押し出すようにすると中から小さな黒い種がムリュムリュっと出てくる。


「うわ、なんだこれ」

「それ使うんだよ」

「おい、妙な物を主上に食べさせる気か」

「ちゃんと食べ物です」


 燈実にまで不審物扱いされたバニラビーンズ、憐れ。香りつけには優秀なのにな。


 俺の方は鍋が大事。ポイントは卵黄が固まらないように混ぜ続けること。卵だからね、ほったらかすと固まるんだ。

 そうして弱火で二十分も煮詰めると液にとろみがついてくる。ここで火を止め、先程のバニラビーンズを入れて混ぜる。均一になるように丁寧に木べらで混ぜると熱が加わり、甘い匂いが立ちこめた。


「なんだこの甘い匂いは」

「さっきの黒いのか?」


 驚く燈実と鍋を覗き込むクナル。そんな二人に笑いながら、俺は金属製のバットに移した。


「クナル、このバットの底の方から冷やすって出来る?」

「出来るぞ」


 俺からバットを受け取ったクナルがそれを手に持つと、ゆっくりと金属が冷えていく。見ると中の物も直ぐに冷えて固まりそうになっている。


「ちょっと待って! かき混ぜるから!」


 まさかの急速冷凍。これが出来るなら冷凍食品作れるんじゃないか?

 とりあえず固まりかけている所をスプーンでかき混ぜ、また同じくらい冷やしてもらってかき混ぜて。これを数度繰り返せばあっという間に完成した。本来なら冷凍庫で数時間なんだけれどね……。


「おぉ!」

「アイスクリームの完成」

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