82話 黒の森の奇跡(27)
だがそんなところがいいんだろうなと思うようになった。なんとも毒気のない無防備すぎる顔を見ていると此方の気も緩む。密かな癒やしの時間だ。
布団の上に出ている手をそっと握り、ゆっくりと力を込めていく。そこに魔力を込めていくとすんなりと受け入れられていくのが分かる。普通、血縁でももう少し抵抗があるものなんだけどな。
それに相性が良すぎる。最初、何の気なしに魔力を流した時にこいつは甘い匂いを出した。あれは間違いなく発情の匂いだ。
魔力を相手の体に流すのは、色々な変化を招く。拒絶が出れば痛みがあり、合わなければ入らない。
そして相性が良すぎると流す相手に官能を与える。心地良い程度で治まるのが理想だが、俺とマサは更に良いらしくその先の官能という部分まで影響を出してしまっている。
これに気づいた俺のほうが焦った。果実が熟れて食べられるのを待つように、甘く酔いそうな匂いだったんだ。あれを長く嗅げばこちらも妙な気分になる。
「んっ」
今も僅かに香る匂いは甘いだろうが、こんな動けない奴を相手に俺が発情するわけにはいかない。だから一時的に鼻を麻痺させている。一時間程度のことだが。
もの凄い刺激臭で頭が痛くなるが、魔力が足りないマサを回復させるにはこれが一番確かなこと。この国を……そして俺を救ったこいつに今、俺が出来ることだ。
あの時、俺は死んだと思った。むしろ目が覚めたことが妙だと感じていた。冷たくなる体と遠ざかる感覚。意識は妙なところを浮遊していて……ただ心だけはまだ死ねないと願っていた。マサを置いて、俺が先に死ぬなんてできない。あいつだけでも守るんだと、ずっと思っていた。
なのに周囲の騒がしさとデレクの声に起こされた時、マサは俺の上に倒れていて体は酷く冷たく震えていた。真っ青な顔をして意識もなく、呼びかけにも応じない。ただ、怪我はしていない。それどころか俺の怪我は何もなくなっていた。
何かした。何をした? 思うよりも前にこいつが死ぬと必死になっていた。死なせないためなら何でもしようと思った。
俺は、マサを死なせたくない。こいつを守るのは俺なんだ。
一定の魔力が体に馴染んで入りが悪くなった。俺は手を離して髪を撫でる。暢気な顔で眠る奴を見て、ふっと笑って側を離れる。
ベッドが見えるソファーに腰を下ろして一つ息をついた俺は、今後のことを考えた。
何が俺にとって一番いいことなのか。その答えはもう、見えている。
ここまでで一章終了となります!
皆様、読んでいただきありがとうございます!
そしてなんと! ここまでが序章みたいなものです(笑)
女神のお願いにより使命を受けたマサの物語はここから本格的になります。
勿論、クナルとの関係もですねv
明日からは同じく20時ですが、更新は2回。
でも1回の文字数は増やしていきたいと思います。
今後もお付き合いいただけると嬉しいです。




