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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
1章:おまけのお兄さん?
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73話 黒の森の奇跡(18)

「ちりぢりに逃げて、あいつに」

「……」


 暫く地上をのたうっていたベヒーモスが立ち上がり、怒りの咆哮を上げる。空気を震わすそれに俺と星那は固まったが、クナルは歯を食いしばって耐えた。


「逃げろ、マサ」

「え?」

「ロイがそのうち援軍連れてくる。森の出口までセナと戻って、案内してくれ」

「クナルは?」


 その問いかけに答えは戻ってこない。そのかわり、足元を固めるのが分かった。

 ここで、戦うつもりなんだ。


「無茶だよ!」


 腕を引いて俺はクナルに縋る。一緒に逃げようと。けれどその腕は振りほどかれた。此方を見ないクナルの横顔は、恐れながらも立ち向かおうと食いしばるものだった。


「あんた達を庇って戦える相手じゃない。邪魔だ、行け」

「っ!」


 悲しいという思いがこみ上げる。でも、クナルは俺達のために言っている。

 僅かに震えているのを、俺は見た。だから……。


 星那の腕を掴んで、俺は背を向けて走った。「お兄ぃダメ!」と星那は何度も言ったけれど、今はこうしなきゃいけないんだ。俺は戦えない。足手まといになる。そんなの抱えてクナルも戦えない。

 悔しい、何もできないのが。何もないのが。選べる選択肢がこれしかないのが悔しい!

 走って、走って……何度も木の根に躓いて転んで、それでも走った先が明るい。瘴気が晴れている。そこに飛び込むと平原で、道がある。その道の先には城壁が見えた。


「星那、戻ってロイさんに報告しよう!」


 急き込んで用件を伝える。その俺の腕を星那は掴んで首を横に振った。泣きながら。


「お兄ぃ、ダメだよ。クナル一人にしないで」

「でも!」

「母さんと父さんが死んだ時と同じ思いするの!」

「っ!」


 俺の両腕を掴んで叫んだその言葉は、恐怖でしかない。呆然と、死んでしまった人達を前にして俺は泣けなかった。泣いている人達を前に、俺だけが泣けなかったんだ。

 それが、今も俺を責め立てる。冷たい奴だ、見捨てたのに泣きもしないでと。


「私、嫌だよ。お兄ぃが苦しい顔をして、隠すみたいに笑うの見たくない。クナルのこと大事って思ってるでしょ? 気持ち許して側にいるんでしょ? そんな人に何かあったらお兄ぃ、今度こそおかしくなるよ!」

「でも、俺は何も……何もできない。邪魔にしかならないのに」

「女神様がくれた力があるじゃん!」


 その声に、ハッとして悩む。

 明確に使える力はない。不確定要素が大きすぎる。頼って行って、何もできなかったら?

 でも、何か出来るかもしれない。出来なかったら結果は同じだ。俺とクナルはきっとやられる。力が発動すれば、助けられる?

 希望はあまりに小さい。それこそ蜘蛛の糸くらい細い。掴まなければ変わらないけれど、掴んでみたら何かが変わる。

 その何かに、賭けるのか?


 手に力がこもった。俺はもう、あの後悔をしたくない。何かが出来たかもしれないのにやらなくて、失うくらいなら出来ることは全部したい。


「ごめん、キュイお願い」


 腕の中のキュイを星那に預け、俺は来た道を戻った。必死に走って、頑張って……クナル死ぬなって何度も心の中で叫んだ。

 俺はもう、見殺しなんかにしたくないんだ!


 義父が事故死した日、俺は義父の顔色が悪いのに気づいていた。「大丈夫?」と声をかけたら、「大丈夫」と優しく言われた。

 でも、大丈夫ではなかった。峠を走行中にガードレールを突き破って転落して、義父は亡くなった。

 母が頑張り過ぎているのも知っていた。あの日、少しふらついた母に「大丈夫?」と声をかけると「大丈夫」と返ってきた。

 でも、その日のうちに母は帰らぬ人になった。

 俺は二人を見殺しにした。具合が悪そうなのに気づいていたのに、強く言えなかった。あの時、もし強引に休ませたり、病院につれて行っていたら二人は今も生きていたかもしれない。俺は何かできたかもしれない!

 俺が、殺してしまったんだと思った。二人を前に、このことを言えなかった。責められるのが怖くて、心に抱えた。


 同じ過ちを繰り返さない。まだクナルは生きている。生きて……お願い、生きていて!


 遠くで音がする。森が、大地が悲鳴のような音を立てている。そこに俺は飛び込んで……呆然と立ち尽くした。


 大きな魔物を相手に、クナルは立っていた。左肩はだらりと垂れて、左足も引きずって、切れた額から血が出て白い髪が濡れていた。


「ク……ナル……」


 怪我が酷い。この状態で戦うなんて、耐えるなんて無理だ。

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