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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
1章:おまけのお兄さん?
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64話 黒の森の奇跡(9)

 もう一つある布を取ると、やはりそこにはカゴがあって、可愛らしい小さな猫が入っている。大きさは子猫くらいで怪我もしているが、うるうるの目で此方を見上げ、頼りなげに「ニャアン」と鳴いた。

 だが肩のカーバンクルはそいつに向かって唸り声を上げている。思わず抱き上げたくなるような可愛らしい生き物に対してだ。


「これはデビルキャットという魔物だ。これで成体だよ」

「え!」


 思わずマジマジと見てしまう。

 カゴの中では早々に正体がバレたからか、可愛らしかった見た目が豹変していく。口は真っ赤に裂けて鋭い歯が剥き出しになり、前足の爪は鋭さを増した。


「こいつは家畜荒らしなんだ。コッコやモーモーといった家畜用魔物を殺して食べる。知能も高いから人の言葉を理解し、罠を仕掛けても捕まえられない。それどころか人の指や耳くらいは食べてしまう」

「うっ」

「でも、怪我をしているのは確か。そして売ればお金になる。上手く調教すれば従魔にもなるんだ。治してくれるかい?」

「え?」


 真剣な顔で殿下は言うけれど、そんな危険な生き物を治して、本当に従えることなんてできるのかな? こっちの言葉を理解してか、さっきまで俺のことを食うくらいの凶暴な顔はまた可愛いうるるん顔になっている。

 こんなに賢いなら、従ったフリをして逃げ出して、また誰かを不幸にするんじゃないか?

 そんなものを、治してもいいのか?


 迷いが生じる。躊躇いがある。答えは難しい。

 でも、求められる結果を出さないと俺の自由もないかもしれない。無言の圧力に耐えかねて、俺はさっきと同じようにした。

 はずなのに、なんでか魔力が集まらない。感覚も掴めない。癒さなきゃって思っても力が出ていない感じがする。


「……いいよ、トモマサ」

「え?」


 突然殿下に言われて、俺は慌ててしまう。目の前のデビルキャットは治っていない。俺は失敗したんだ。

 ずしっと重くなる気持ちは、酷く苦しくなる。期待に応えないと。失敗なんて……したら嫌われる。


 いらない子になる。


 不意に幼い俺が囁いた。瞬間、怖くなって自分を抱きしめて、それでも震えが止まらなくなった。歯の根が合わない。


「マサ!」


 声と一緒に後ろから強い腕が俺を抱きしめて、大きな手が視界を遮った。その確かさに、俺はハッとした。


「大丈夫だ」

「あ……」


 大丈夫。言われて、息が吸える。抱きしめる腕に震えながら手を添えると安心する。震えが止まってきて、なんでもなかったみたいになって……そうしたら、どうして自分があんなに怖かったのか忘れてしまった。


 戻ってきた視界の先で、驚いた顔の殿下とデレク、そしてロイがいた。俺を抱きしめるクナルの手を、俺は強く握っていた。


「大丈夫かい、トモマサ?」

「あ……はい」

「無理そうなら日を改めるけれど」

「あぁ、いいえ! あの、大丈夫なので」


 さっきのは、なんだろう。何で俺はあんなに怖かったんだろう。失敗なんていくらでもしてきたのに。

 首を傾げる俺を見て皆が難しい顔をしたけれど、殿下は俺の意志を尊重してくれたのか頷いて、懐から紙に包まれた何かを俺に差し出した。

 受け取ったものを広げると、それは真っ白い髪の毛だ。一房あるそれを俺は見て、首を傾げて殿下を見た。


「あの、これは?」

「今回ロイを暗殺しようとした主犯の髪だ。そいつに『死ね』と願って欲しい」

「え!」


 あまりの内容に思わず手にした髪束を放り投げてしまう。

 何かの冗談……ではない。殿下は暗く陰鬱な目をして、とても鮮やかに微笑んでいる。


「知っての通り、奴等は既に死罪が決定している。そして私は今回のことを到底許すことはできないし、楽に死なせてやる気もない。想像しうる限りの苦痛を与え、絶望を与え、殺してくれと懇願されても更に苦しめてから殺してやろうと思っている」


 冗談……じゃ、ない? 笑っているのに何も笑っていない。刺すような視線が冷たくて震えてしまう。


「だが、慈悲もやろうかと思ってね。君がその髪の持ち主の安らかな死を願い叶えられたなら、それは女神の慈悲なのだろう。神の成すことだ、私もとやかく言うまい」

「でも!」


 それは結局、俺が殺したことになる。

 違う意味で震える。俺は本当に、そんなことができるのか?


「あぁ、これについて君に罪などないよ。死ぬ予定の者の死因が変わるだけだ。寧ろ君はそいつにとって慈悲深い女神になるんだ。苦しみ悶え絶望しながら死ぬ定めの者が、安らかに、夢見るように苦痛なく死ねるのなら立派な救済だからね」

「……できません」


 カタカタ震えながら、俺は言えた。俺に、誰かを殺すことなんて出来ない。例え罪人でも、俺は!


「謝礼は出すよ」

「できません」

「これが出来たら今まで通り、第二騎士団宿舎に住み込んでいい」

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