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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
1章:おまけのお兄さん?
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63話 黒の森の奇跡(8)

 それなら俺は、ちゃんと証明しないと。俺自身、自分の能力に怯えて過ごすのは嫌だ。向き合わないといけないなら、早い方がいい。


「お願いします」


 頭を下げた俺に殿下は頷き、正面にある箱の布を取った。

 それは箱じゃなくて、小さな動物を入れておくようなカゴだった。そして中には弱った、白っぽいリスのような……兎のような生き物が伏せている。

 綺麗な空色の目に、額に同じ色の宝石がついたそいつは俺を見て「ギギッ」と唸り声を上げて遠ざかろうと前足を踏ん張るが、痛いのか直ぐに姿勢が崩れてしまう。


「カーバンクルという霊獣だ」


 それ、この間グエンがから聞いた。精霊と魔物の間にあるような生き物だって。


「怪我を」

「護衛獣として人気があるからね、闇に流されることも多いんだ」

「え?」


 闇って……。


 驚いて見ると、殿下は落ち着いた、けれど憎悪するような目をしている。傷ついた小さなカーバンクルの先にある闇を睨むようだ。


「服従の鎖という違法魔道具がある。無理やり捕まえてそれを填めると、主人の言いなりにできるんだ」

「そんな! 酷い」

「逆らえば痛みが走る。だがカーバンクルは誇り高い霊獣だから、どれだけ苦痛を強いても自らが主と認めなければ従わない。そこに更に鞭を打つんだ」

「なんでそんな酷いことを!」

「金になる。生きたまま売れば五〇〇万レギン。死んでも素材だけで金になる」

「っ!」


 そんな勝手で、こんな小さい生き物を捕まえて酷い仕打ちをするなんて、間違っている。悲しくて、苦しくて……許せない気持ちもあって、俺はうつむいた。


「摘発した闇商人のところにいたので保護したんだが、主以外には触らせてもくれない。治療を試みたメイドの指を食いちぎったくらいだ」

「え!」

「あぁ、メイドの治療は直ぐにしたから大丈夫。けれどこいつ自身の治療はこのままではできない。カーバンクルは魔力が高いせいで拒まれると此方の魔法を跳ね返してしまうんだ」

「じゃあ、この子は」

「このままだと弱って死ぬ。こんなに人に傷つけられた個体を野に放てば見境なく襲うかもしれないし、邪気を取り込めば魔物になる可能性もある。だから簡単に離してやることもできない」


 今もまだ唸りながら警戒しているカーバンクルを見て、俺は可哀想になった。本当なら自由に野を走り回ったりしていたんだろう。捕まるだけで怖いのに、痛くて、傷つけられて。恨んでるのかな? それとも怖いのかな?


「トモマサ、この子を助けられるかい?」


 問われ、俺は迷わず頷いた。

 とはいえ、俺は自分の能力をちゃんと意識して使えたことがない。ただ必死に思うことで使えていただけだ。

 どうやって助けたらいいかよく分からないでいると、後ろからポンと肩を叩かれた。見上げた先でクナルが一つ頷いてくれた。


「昨日のことを思い出してみろ」

「あ……」


 魔力の流れを感じて、外に出す。確かにこの方法を試してみるのは一つだ。

 そっと手をカゴに近づけていく。でも手は突っ込まない。噛まれるかもしれないから。

 そうしたら目を閉じて、ゆっくり手に魔力を送ってみた。大丈夫、怖くない。助けたい。癒したいという思いを込めて流してみるとキラキラした魔力に変わっていくように思う。そのキラキラを傷ついているカーバンクルに。目に見えない手で撫でるように。


『キッ? キュ?』


 不思議そうな鳴き声。俺の手には直接触っていないのに感触がある。毛は柔らかくて、尻尾の毛は更にふかふか。耳の付け根を撫でたら気持ち良さそうに擦り寄ってきて可愛い。額の宝石は……あっ、触られるの嫌なんだな。

 痛そうな部分を摩ってみる。痛いの痛いの飛んでいけ! なんて、昔星那にもやったな。

 そして、なんだか首に嫌な物がついている。真っ黒い鎖だ。これがあるからこいつは苦しんでるなら切ってしまえばいい。

 指を入れて引っ張ると鎖は簡単に切れた。


『キュゥゥ』

「うわ、マジか」

「うん。マサ、もういいよ」


 呆れたデレクの声と、殿下の声に目を開ける。視界が戻ってくるとさっきまでの感触がなくなってしまった。それが寂しくて何度か手をにぎにぎしている間に、笑った殿下がカゴの扉を開けた。


『キュキュゥ!』

「わ!」


 飛び出したカーバンクルが俺めがけて突進してくる。驚いて声を上げて思わず頭を腕で庇ったけれど……痛いとかはない。肩に僅かな重みがあり、頬を小さな舌がペロリと舐めた。


「え?」

「その子は君を主と定めたらしい。よかったね、トモマサ」

「え!」


 思わず自分の左肩を見てしまう。そこにチョンと乗ったカーバンクルは澄ました顔をしている。おかしそうに笑う殿下は一つ頷いてカゴを降ろした。


「さて、次なんだけれどね」

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