62話 黒の森の奇跡(7)
此方を向いて待っていてくれたデレクの後ろについて、俺は歩き出す。自然と視線が集まってきて緊張してしまう。見られるということが苦手だから。
城の広いエントランスを突っ切り、階段を登って二階へ。ノックをしたのはいくつもある何の変哲もないドアの一つだった。
「第二騎士団団長デレクです。異世界人、マサを連れてきました」
「入ってくれ」
はっきりとした声で固く告げるデレクにも驚いたし、返ってきた声にも覚えがある。ドアを押し開けるとそこには殿下とロイがいた。
殿下はまさに王子様という服装だった。鮮やかな青いジャケットは金糸の刺繍と金のボタン。白いスラリとしたズボンに白いマント姿。
側に立つロイも表情を引き締めている。前に見た白い詰め襟のほっそりシルエットの服装である。
けれどそこに緊張感があって、知っているのに知らない人のようで戸惑ってしまう。
部屋もシンプルな応接室という感じだ。対面に複数人が掛けられるソファーと、真ん中にローテーブル。他はこれといって特筆するような飾り気もない。
そしてローテーブルには布を掛けた四角い箱のようなものが二つ置かれていた。
「忙しい所を呼び立ててすまない、トモマサ」
「あぁ、いいえ」
にこやかに応対して、近付いてくれる殿下だけれど空気が違う。前はもっと柔らかく気さくで、いい意味で和みやすかったのに。
これが王子様っていうものなんだろうか。
「……緊張しているね」
「え?」
「いいことだよ、空気を読めるのは。トモマサは危機感がないように見えたから、少し安心した」
笑った彼に促されて対面に。俺の後ろにクナルがついて、デレクは殿下の後ろ、ロイの隣に立った。
「さて、今日君を呼んだのはね、君の能力について幾つか確かめたかったからなんだ」
「俺の、能力?」
「固有スキルというのを、知っているかい?」
問いかけに俺は何となく『祈り』のことなんだと思った。ユリシーズも知らない新しいスキル。そして、おそらくとんでもないものだ。
「固有スキルというのはレアスキルであり、とても強力なものであることが多い。主に古い血筋の家に出やすいとは言うけれど、一般人でも稀に出る。叔父上の『直感』というのも固有スキルになるね」
「直感?」
デレクを見ると大きく頷いている。そういえば、デレクはそういうの鋭い気がしたけれど。
「俺の固有スキルは良いもの、悪いものを直感で知らせるものだ。お前を拾ったのもその直感が『こいつは良いもんだ』って知らせたからだ」
「ただし、その善し悪しの結果は動いてみないと分からない。予知や予言という固有スキルもあるけれど、直感はそこまで見通すことはできないという欠点がある。ただ、瞬間的に分かるから危機回避にはうってつけのスキルだ」
「そう、なんですね」
「私も固有スキルを持っている。強力すぎて使いどころが難しく、発動条件や使用回数にも制限がある。どんなにレアなスキルでも必ず欠点や厳しい条件がついている」
殿下の固有スキルはきっと、あの蛇精を従えたやつだろう。鎖が巻き付いて、その後は周囲の人にも蛇精が薄ら見えるようになっていたみたいだし、殿下に従っていた。
「けれど、君の持つ『祈り』というスキルはあまりに強力すぎる。使い方を間違えれば世界を壊しかねないものだ」
鋭い視線に俺はドキリとした。なんとなく分かっていたから。
俺が願うとその通りになる。本当にそうだとしたら俺だって怖い。思っただけで簡単なものなら叶ってしまう。
「前に君が見せた力はおおよそどんなスキルを持っていても不可能だ。霊視というスキルがあれば不可視の存在を視認はできる。だがそこに実体を持たせるなんて芸当は不可能。それは『見ることが出来ない』という彼等のあり方に干渉して改変していることになる。分かりやすく言えば空を飛ぶ鳥に君が『お前は飛べない』と思えばその鳥は飛べなくなる。そのくらいの変化だ」
「!」
言われると、そうなんだろうか。心臓がグッと圧迫されたみたいに痛くなる。不安が込み上げて少し気持ち悪くなりそうだ。
それでも今日の殿下は許してくれない。これが、王太子としての殿下なんだ。
「これほどの能力を、見たところ制限もなく無意識に使っている。それが国にとって脅威であるのは確かだ。場合によっては此方で身柄を預かることになる」
「! それは!」
「国を預かる者の末席に私はいる。だが、君に恩のある者としては自由を奪うようなことはしたくない。だからこそ、協力してもらいたい。君の能力がどのくらいの範囲に適応されるのか。それを知りたいんだ」
ジッと俺を見る殿下の目に曇りはない。だからこれは全部本当で、俺が危険な存在なら幽閉みたいなこともありえる。
でも、そうしたくないという気持ちも確かにあるんだと思う。




