59話 黒の森の奇跡(4)
この世界には竜がいる! あまりゲームとか漫画を読まない俺でも分かる雄姿を思い浮かべてちょっと憧れる。格好いいんだろうなって。
だがグエンは辟易とした顔をした。
「すんげぇ口うるさいし厳格だし気難しいらしいぞ」
「そうなんだ」
「手近なのはケット・シーっていう二足歩行の猫霊獣だな。器用ですばしっこくて頭もいいから仕事を覚えれば頼もしい。後は護衛獣のカーバンクルか。とにかく魔法が強くてな。大きさはリスくらいで、兎みたいな長い耳とふさふさの尻尾、額に魔石がついてる」
「へぇ」
色んなのがいるんだな。って思ったら、ちょっと知りたくなってきた。
「そういうのが知れる本とかないのかな?」
「モンスター図鑑があるはずだな。ここの書庫にもあるはずだ」
「……待って、書庫があるの?」
俺はその部屋の存在を知らない。そして知らされていない部屋というのは……。
「あぁ……開かずの間だな」
「やっぱりぃぃぃ!」
未掃除は既に確定しているとして、まさかの未開封! 内部どんなことになってるの!
でも知りたいし、他にも色んな本がありそう。俺は圧倒的にこの世界のことを知らないから、読めれば助かる。文字は読めるんだ、何故か。
「デレク団長に言えば大丈夫じゃないか?」
「そうしてみるよ」
まぁ、掃除確定だけどね! いいさこの際綺麗にするから!
俺の掃除魂に火が付いた瞬間だった。
夕食後、俺はクナルと一緒にデレクの執務室へ向かい書庫のことを聞くと、案の定渋い顔をした。
「あ~、あそこな。うん。あるけどよぉ」
「何か、見てはいけない資料があったりするんですか?」
「いや、そんなんはないんだが……凄いぞ」
おっと、前にも聞いたような台詞だ。
けど、結局遅かれ早かれ俺が掃除するんだしな。今のところ何もないから、したほうがいいよな。
「とりあえず、中を見てみたらどうだ?」
俺の隣で話を聞いていたクナルの提案に腕組みで唸っていたデレクも折れた。そして引き出しから一つの鍵を取りだした。
「場所はここの二つ隣だ。あと、リデルにも声かけとけ」
「どうしてリデルさん?」
「まぁ、なんだ。妙なのがいると困るからな」
「?」
妙なのって、なんだ?
首を傾げてクナルを見るが静観の構え。う~ん、この雰囲気だとデレクはこれ以上関わってはくれなさそうだし……まずは見るだけだしな!
鍵を持ってリデルの診察室に向かい事情を説明すると笑ってついてきてくれた。デレクはあんなに嫌そうにしてたのに、こっちへ平気なんだな。
書庫は扉のプレートすらも薄ら埃を被っていた。まずはそれを拭いて鍵を差し込む。少し渋いがカチャンという開いた音がして、俺はドアを押し開けた。
「! ウェッフ! ゲホッ! うえぇぇぇ!」
瞬間、視界が白む程の埃が舞い上がりかび臭いような臭いも舞い上がって咽せてしまう。後ろ二人は咄嗟に服で口元を覆ったから無事そうだけれど、俺は見事に直撃だ。
「大丈夫か?」
「うん、一応……凄い埃」
埃が少し落ち着いてくると、目の前にはあまり広くはない部屋が一つ。ドアの延長上には読書のための長机と椅子が四脚。その先には長細いカーテンが掛かっている。そのせいで室内は僅かに黒の濃淡が違って見えるだけで、基本真っ暗だ。
そっと先に進んでみると分厚く堆積した埃が僅かに舞う。本格的に掃除する必要がありそうだ。これは本も傷んでいそうだな。
なんて思っていると突然目の前に何かがヌッと現れ俺の顔面にぶつかった。
「むが!」
「マサ!」
慌てた声がして顔にひっついていたものが取れる。クナルが引っぺがしたんだと分かったが、瞬間俺の全身に寒気が走った。
「うわぁぁぁ! 蜘蛛!」
「あ? おう」
クナルがむんずと掴んでいたのは俺の顔くらいある大きな蜘蛛だった。それぞれの足をモゾモゾさせているのを見ただけで俺は全速力で部屋を抜け出し小さくなって震えた。
「どうしたんだ、マサ?」
「こないで! それ持ってこないで! ついでに手も洗って!」
蜘蛛だけはダメだ。しかも巣を張る奴はダメだ。あれは無理。絶対に無理! いくらクナルが拒否られて尻尾下げてもそれを掴んだまま近付かないで!
「トモマサさんは蜘蛛が嫌いだったんですね」
「無理です、本当に。死んでるのとか、百歩譲って巣を作らないものならまだ我慢できますけど。ってか大きすぎませんか!」
「まぁ、よく育っているみたいですね」
苦笑したリデルが俺の前に出る。そして両手を胸の前に置いてパンと一つ鳴らした。
『リーフシェルフ』




