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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
1章:おまけのお兄さん?
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53話 黒い陰謀(20)

「私の大切な者に手を掛けたことを地獄の果てまで後悔しつつ、生きたまま腸喰われる痛みに踊りながら死ねってことだよ」


 男の口から蛇精は中へと入り、命令に従い死に遠い所から食い荒らし始める。転がりのたうち血を吐きながら暴れる男を見下ろして、私はユリシーズの元へと向かった。


「なんとも惨いことです、殿下」

「私にここまでさせる者が悪いとは思わないかい? 大抵はいい王子だよ」

「ロイ殿が知ったら悲しまれますよ」

「っ! それを知られないために少し距離を置いているんだよ」


 幼少の頃から世話をしてくれているロイの私に対する認識は、どうも一二~三歳から進んでいないように思う。だが実際は王太子となり宮中の黒さを知って、それに対して立ち回るうちにこっちまで黒くなった。今や倍も年の離れた官吏相手にバチバチの戦いをしているのだ。

 だがこれを知られるのが少々怖い。幻滅されたり嫌われたりしたら……どうしよう、ひとまず旅に出たくなる。


「まぁ、ゆっくりとお話なさってください。王妃にと望むのなら、いつかは知られることですよ」

「……そうだな」


 正直今回のことはこたえた。思いを明確に伝えなければ彼には分かってもらえないと思っていたが先延ばしにしていた。そんな状態で死なれてしまっては後悔しかない。

 失えないのだ、自分以上に。もう、彼しかいらないから。


「さっさと言えば、後は押し切るだけなのかな?」

「……ちゃんと手順を踏んでいただかなくてはなりませんよ? いきなり既成事実とか、止めてください」

「それも手だよね」

「殿下」


 立場って、面倒臭いな。なんて思う瞬間だった。


 場が少し静かになった。見れば男は虫の息だが、まだギリギリ生きている。

 改めて祭器を確認したが、一つが壊れている。無事なのは今男を追い詰めている方だから、壊れたのはロイに憑いていたほうだ。


「何があって壊れたのでしょう」

「ここに答えはないだろうな。あるとしたら城だ」


 トモマサが何かした可能性がある。セナも十分規格外の聖女ではあるが、想定外の奇跡を起こせる力はない。


「トモマサ殿ですかね」

「間違いなくね」

「恐ろしい方です。殿下、彼についてどのような判断をなさるおつもりですか?」


 真剣な顔で問いかけてくるユリシーズは警戒しているのだろう。

 私も多少考えていた。トモマサの力はでたらめすぎる。これが悪用されれば恐ろしいことが起こるだろうと。

 だが……何故だろうな。平気だろうなって、思ってしまうのだ。


「能力について少し確かめたいことはあるけれどね。基本はあのままでいいと思う。むしろ余計なことをしたら此方が痛手を負うかもしれないよ」

「ですが」

「デレク叔父上もついているし、クナルがいる。あれが気に入っているんだから、簡単には手放さないよ。さて、それよりもだ……」


 室内が完全に静かになった。

 辺りを見回し、物色すると黒い装丁の本が一つ。邪神を崇拝する文言が書かれたその本に挟み込まれた紙に、それは書かれていた。


「黒の森か」


 走り書きされたたった一つの地名。この国の、王都に近い深い森は昔から魔物の多く生息している場所。そしてここ最近、騒がしい場所だ。


「森の異変はこいつらのせいだった可能性があるな」


 何をしかけたのかは分からないが、いいことではないだろう。こうなれば四の五の言わずに調査団を結成したほうがいい。そのうえでセナに少しずつ浄化をお願いするのがいいだろう。


「まったく、やることが多くて参るよ」


 溜息と共にメモに保存の魔法をかけてユリシーズに預け、私は無事な祭器を破壊した。



▼智雅


 殿下が帰ってきたのはその日の夕方だった。薄ら暗くなる頃に戻ってきた二人は凄くいい笑顔で今、俺とクナルを尋問している。


「それでね、トモマサ。何をしたのかな?」

「え?」

「術者と対峙していた時、突然祭器が破壊されました。普通、あり得ないことです」

「こんな説明の付かないことが出来るのはトモマサだけだからね。怒らないから」

「あっ……えっと……」


 いや、緊急事態だったから、咄嗟で。でも説明といわれても少し難しくて。

 オロオロする俺の少し後ろでドアの開く音がする。そして隣室からきっちりと着替えたロイが入ってきて、やんわりと微笑んだ。


「我が君、あまりマサさんを責めないでください。僕は無事です。マサさんとセナさん、そしてクナルが守ってくれましたから」


 格好を整えたロイはとても綺麗だった。褐色の肌に白い詰め襟の騎士服が映えている。控えめな銀糸の刺繍が施された縁飾りや草花文様。ほっそりとした腰元が分かる細身のシルエット。これらがもの凄く似合っているのだ。


 思わず見とれてしまう。そんな俺の横を通り過ぎて殿下は走り抜け、思い切り彼に抱きついた。


「わっ! 我が君!」

「よかった……本当によかった……」


 驚いたロイもこれには泣きそうな顔で笑って、優しく頭を撫でている。それが、とても素敵なものに見えたんだ。

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