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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
1章:おまけのお兄さん?
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52話 黒い陰謀(19)

 ベチンッと音がしそうなくらい叩きつけられた蛇精はそれでも逃げようとモゾモゾ動いているが、それより先にクナルが動いた。


『アイシクル』


 蛇精に向かい手を前にするとそこから氷の刃が現れて蛇精を貫き、当たった所から更に全身を凍らせていく。あっという間に蛇を内包した氷の塊が出来てしまった。


 室内が暖かさをとり戻していく。

 俺はハッとしてベッドの上に倒れたままのロイに駆け寄った。


「ロイさん!」

「お兄ぃ下がって! 『ヒール!』」


 癒やしの光がロイを包んでいくと徐々に顔色がよくなって、呼吸も安定していく。規則正しく胸が上下しているのを確認して、俺は星那と顔を見合わせ抱き合って「よかったぁぁ」と半泣きになった。


「ちっとも良くねーぞ、これ。なんて説明すんだよ」


 クナルは氷漬けになった蛇精を見て難しい顔をしながら、それでも一応剣で頭を切り落とした。それでも消えないのを見て、耳と尻尾がへにゃんとした。


「実体のない精霊だぞ? 視認すら当人の意志がないと無理だってのに、無理やり見えるようにさせて、更に実体化だと? 無茶苦茶する」

「あ……はは」

「なんて説明すんだよ、この非常識」


 頭を抱えた人に近付いて、肩をポンポンして。

 でもひとまずは大丈夫だって思えるからほわっと笑ったら、クナルはもう一度溜息をついた後で笑って、俺の頭をクシャクシャッと撫でた。


「頑張ったな、マサ」

「! うん!」


 俺でも、一つできたよ。もう誰かが悲しい声で泣かないように、俺も何かを守れたよ。

 それが凄く、誇らしいんだ。



▼ルートヴィヒ


 術者が潜んでいたのは城から半日ほどのところにある遺跡の中だった。

 古い神殿跡地はまだその原型を留め、室内も安定している。

 その奥へと入り、地下へと降りて行くと幾つか部屋がある。調査した時、ここはただの廃墟だと報告されたが、その後にドブネズミが住み着いたようだ。


 ユリシーズが幻惑の魔法をかけ、音を消す。扉を開けるとそこには黒いローブを着た一人の男がいて、その奥には二つの祭器があった。


「おや、侵入者が来ようとは驚きです。どうしてここが?」

「知る必要はない」


 振り向いてもその素顔は目深に被ったフードで見えない。だが口元がいやらしい形を浮かべた。


「残念ですな、王太子殿下。貴方の側近は今頃苦しみもがいて死んでいるでしょう」

「っ!」

「先程魔力をありったけ注いだところでしてね。此方としてはもう少し楽しみたかったのですが」


 その言葉に、全身から温もりというものが消えて行く感覚だった。

 あの場にはセナとトモマサを置いてきた。聖女と、それをも超える未知の力を持つ彼ならば耐えてくれると信じて。

 だが、絶対ではない。もしかしたら本当に、為す術もなくロイは苦しみ死んでいるかもしれない。もしそうだとしても、二人を責めることはできない。


 殺してやる。


 心の奥底で叫ぶ声が、純然たる憎悪が肥大化していくのを感じる。これをロイに見せるのが嫌で遠ざけることも多いのだが、ここならば知ったことか。

 とにかく今からでも祭器を破壊する。構えた私にユリシーズも魔法の構えを見せた。


 その時だった。


 パキ……パリィィン!


 音と共に魔石が砕け散り、その破片が術者を襲う。だが誰もそれに触れていない。曲がりなりにも呪殺の道具が簡単に破壊されたりはしないはずだ。

 だが、砕けた。その原因を……希望を知っている。


「ユー!」

『ホーリーランス!』


 術者に向けた杖から放たれた光の槍が飛翔し、男を吹き飛ばす。祭壇の祭器は乱雑に床に転がったが壊れたりはしていない。

 男はそのまま瓦礫のある地面に転がった。だが、まだ動ける。僅かに上体を起こそうとするその頭蓋を、怒り任せに掴み地面へと叩きつけて力を込めた。


「がぁ! があぁあぁあ!」


 ギリギリと頭が締まるのだろう。ジタバタと体を暴れさせるが、それがなんだ。恐怖する術者を見下ろし、私は笑った。


「この程度の痛みが、なんだというのだ?」

「っ!」

「ロイは遙かに超える痛みと闘い、それでも負けずに耐えてみせた。それに比べれば優しいだろ?」


 魔物の瘴気に耐え、傷の痛みに耐え、セナのおかげで乗り越えられそうだったのに、次は呪い。どれほどに苦しく辛かったか。並の者ではとっくに死んでいた。


「楽には殺さないが……そうだね、同じ苦しみをあげよう」


 にっこり微笑んで、私は忍ばせておいた蛇精を取りだした。私の支配を受けたこいつは既に敵ではない。スルリと私の手首を降りてきて、男を睨み付けた。


「まっ、待て! 知っている情報を全て言う! だから!」

「お前等から出る言葉は全て嘘だ。本当のことを言えば自壊の呪いで死ぬからね。そうだろ? 邪神崇拝者」

「!」


 深く被ったローブのその先で、男の目が見開かれ次にはギリリと奥歯を噛んだ。


 邪神を崇拝する者達がいる。それは何時の世も一定数いるものだ。女神は偉大な救い主だが、全てを救えるわけではない。憐れにもこぼれ落ちた者の中には絶望し、堕ちる者がいる。

 奴等は邪神による世界の破壊を望んでいる。そして各地で何かしらの異変を起こさせたり、要人の暗殺をしている。

 今回、これほどの呪いを誰がかけたか考えたが、こいつらしか考えられなかった。


「女神の犬が……邪神様こそがこの世の救い主! 地上を支配する者共を駆逐し、浄化の後にこの地にっ!」

「あぁ、そんな妄言はどうでもいいんだ。私はお前等の主張なんてクソも興味がない。言いたいのはね」


 片手で頭を締め付け、片手で男の顎を握る。バキリと音がして顎の骨が砕け、だらりと口が閉じなくなったのを見て、私は蛇精に命じた。

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