49話 黒い陰謀(16)
「よく寝てたな」
「そうみたい。あの、今何時?」
「翌日の午前五時ってところか」
「……へ?」
いや、待って。翌日? 寝かされたのって夕方だったよね? そんなに寝倒したの!
驚きを通り越して既に怖い。俺、こんなに寝られないよ普段。
「疲れてたんだろ」
「いや、でもね」
「それに、体に負担もあったんだろうさ。いくら状態異常を消して回復かけても削られた体力や血液、気力なんてのはそう簡単に回復はしない。慣れないことも多かったんだ、いいんだよ」
「……うん」
そういうものなんだろうか。昨日のあれは体調不良みたいなものでいいのかな?
とはいえ、こんなにしっかり寝たら今は元気。むしろツヤツヤな感じがする。同時にもの凄くお腹が空いた。
か細く鳴いた俺の腹の虫を聞いて、クナルが声を殺しているのに絶対爆笑しているのが分かる。途端に恥ずかしくなった俺は手早く支度をして厨房に向かうことにした。
厨房に行くと料理長のバルが準備をしていて、俺を見て目をまん丸にした。
「マサ、もういいのか」
「はい。すみません、ご迷惑をおかけして」
「何言ってんだ、迷惑なんざかかってない。それよか、自分大事にだぞ」
「はい」
昨日知り合ったばかりなのに、気遣いの声をかけてくれるなんて。この世界で俺が出会う人はこういう優しい人が多いのが嬉しい。
「んで、今日は何作るんだ?」
でも基本料理人って、グエンタイプが多いのも事実だなって、バルのワクワクした顔を見て思った。
気を取り直して朝食だけれど、腹にしっかり溜まりつつ食べやすいものがいい。考えて、昨日使えなかった米を使いたいと考える。
「ねぇクナル、昨日あの後ロイさんはどんな様子だったの?」
「嘘みたいに回復し始めたぜ。意識もあるし体も起こせて手も動く。話せるしな」
「食事はどうかな?」
「重たい肉なんかは避けるよう指示がきたけど、食えてたぜ」
俺に代わって夕飯を作ったバルが教えてくれた。
そうなると、あれならすんなり食べられるかな?
マジックボックスから取りだしたのは米とトマトとニンニク。そして俺のカバンからロック鳥のもも肉とチーズだ。
「何を作るんだ?」
「トマトと鶏肉のスープリゾット。食欲がなくてもこれなら入っていくし、米は腹持ちがいいからね」
「面白そうだ。見学してもいいかい」
「どうぞ」
さて、そうなるとまずは調理だ。
トマトはやっぱり皮が気になるらしいので湯むきして、適当な大きさにカットしていく。少し果肉感も欲しいから小さくしすぎない程度に。
ロック鳥のもも肉は気持ち小さめの一口大。今回は具材としても大事だけれど、旨味を出すのに必要だ。
米は軽くといでおく。現代の精米技術なら寧ろ洗う必要もないんだけれど、玄米だしね。少ししっかりめにといでおいた。
これをザルに上げて少し水を切りつつ、オリーブオイルにスライスしたニンニクを投入して点火。油に香りを移したら取りだす。そのまま具材にしてもいいんだけれど、俺は少し気になるんだよね。
「油とニンニクの匂いは肉が食いたくなるな」
「あぁ、それは同感だ」
バルとクナルが後ろで同意している。それも分かるよ。ステーキソースが焦げた匂いとか、本当に美味しそうだもんね。
油に香りが移れば、そこにロック鳥を投入。軽く表面に焼き色を付けたらトマトも入れてしまう。加熱されて中のゼリー状の部分が溶け出し、果肉部分も柔らかくなってきたらザルに上げておいた米を投入する。
「そのコメってのは炒めるのかい?」
「炒めて使う時もあります。とにかく旨味を水分と一緒に吸うので、リゾットやピラフ、パエリアなどには生米のまま入れて炒めて、スープと一緒に煮込むんです」
日本人としては炊きたい。ザッと見て土鍋が眠っているのも確認した。一緒に伝わったんだろうが、これも使い方がわからなかったと見える。後で洗っておこう。
米が油とトマトから出た水分を纏い僅かに赤っぽくなってきた。
これに水と塩少々投入し、一度煮立たせる。煮立ったところでヘラで底の部分を一度擦るようにしたら火を弱めて、あとは放置だ。
「よし、後は20分くらい放置」
「そんなんで出来るのか? かき混ぜたりは?」
「米は粘りがあるので、かき混ぜすぎると逆にドロドロになるんです。だから今回はあえて放置で」
そういうのが好きな人もいるとは思うけれどね。今回はサラッと食べられるように。
これに果物を添えたサラダを作ると、クナルが「俺はいらない」と辞退した。相変わらず野菜は苦手みたいで、バルが笑うから赤い顔でムッとしてしまった。
その間にもクツクツ煮える鍋の中からいい匂いがする。ニンニクとトマト、そして肉の相性の良さを思わせるものだ。
徐々に米が水分を吸い込んで膨らんできている。
ほんの少し表面をスプーンでかき回してみたら、まだ少し固いみたいだ。
「なぁ、これって昨日の海鮮なんかでも出来るのか?」
「美味しいと思います! 海老とかの殻から出汁を取って、玉ねぎとかと」
「海老の殻? どうやる」
「一度綺麗に身をこそぎ取って洗って、フライパンなんかで焦げないように炒ってください。十分加熱されたものを鍋に移して水を注いで弱火にかければ旨味が出ます」
「なるほどな」
バルが頷いている間に鍋も良い感じだ。再度スプーンで触れた感触も悪くない。少量をすくい、小皿に移して味見をすると食べやすくもっちり炊けた米の弾力と、ほんのりとした甘みを感じた。




