49話 黒い陰謀(16)
割り当てられた部屋に戻って寝かされた俺の側にクナルが付く。椅子に座って、汗ばむ俺の頭を撫でて、苦しそうな顔をした。
「クナル」
「……悪かった」
「え? なんで?」
怒られることをしたのは俺だ。咄嗟とはいえ、危険なことをしたんだから。
でもクナルは苦しい顔をしたまま。手に力も入っているし、歯を食いしばっている。
「お前を守るのが俺なのに、守ってやれなかった」
その言葉に、俺はドキリとした。
実感がなかった。クナルは護衛で、俺はそれを受け入れていたけれど実際はそんな危険ないだろうって思っていたし、親しくなった人がいてくれる安心感を一番に感じていた。でもそうじゃない。クナルは間違いなく俺の護衛で、危険な時には守るのが仕事なんだ。
これはクナル的に、仕事に失敗したのと同じなのかもしれない。俺が悪いのに。
「ごめん、クナル。あの、俺が悪いから」
クナルの落ち度じゃない。そう言いたかった俺を見るクナルの目は、真剣で強くて、悲しげだった。
「どんな状況でも、あんたを守るのが俺なんだよ。あんたが苦しんだり、痛い思いをしないようにしたいと俺が思ってるんだ。それが出来なかったんだ、俺が悪い」
不意に胸が苦しくなる。それはジワッと広がって、ギュッと胸元を握った。
大きな手が頭を撫でる。これにほっとしていると、ゆっくり眠くなってくる。
「側にいるから、寝てくれ。今度こそ守るから」
優しい声がする。ゆるゆる瞼が重くなる俺は頷いて、次には本当に眠ってしまった。
▼ルートヴィヒ
ロイの容態は驚く程に安定した。無事に声も出せるようになり、腕なども動くという。これもトモマサとセナのおかげだ。
だが、問題はまだ解決していない。
捕獲器の中に収まった蛇精は今は落ち着いている。支配の鎖を巻くことが出来れば此方の意のままだ。
「それにしても、本当に呪いかよ」
事態を知らせ、デレク叔父上に来てもらった。現在は瓶の中の蛇精を物珍しそうに見ている。
「術者に依頼した者を捕らえます。叔父上、協力してくださいますか?」
「そりゃ勿論だ。それにしても初日から動いたな」
「トモマサのおかげです」
とはいえ、彼の固有スキルは曖昧すぎることと強力なことで油断できない。私の固有スキル『支配者』よりも強い可能性がある。
目を合わせた者、触れた者が私よりも魔力が低ければ行動、言動を支配することができる。蛇精を現在意のままに出来るのはこれだ。
条件が色々と面倒だし、こんなものを多用しては歪みが生まれる。だからこそ使うことがほぼないが、必要時には出し惜しみもしない。
これですら強すぎて使いどころを考えるというのに、トモマサの固有スキルはもっとでたらめだ。祈ることでその事象を起こすことが出来る。これがどの程度なのか、知る必要があるだろう。
それでも悪いことにはならないと思えるのは、彼の人間性なのだろう。困ってしまうくらいお人好しだ。
もしも女神が人柄を選んでスキルを与えているのなら、女神の信頼を勝ち取った彼はド級の善人だろうな。
今彼は部屋で深く眠っている。側に付いていたクナルの報告では、容態は安定しているそう。熱も引き、腕の腫れも治まったことに此方も安堵だ。
何せこの事態にロイは酷く落ち込み、セナはしばし泣きっぱなしでどうにもならなかった。
「さて、大捕物か。速い方がいいな」
「えぇ、勿論。ロイを呪うよう依頼した者はロイの一部を手に入れることができた者。今回は血液である可能性が高いかな。血の付いた服とか」
彼が負傷した時、周囲への警戒が一時的にザルになった。命を繋ぐために人の出入りも多かったから、その辺りから流出した可能性もある。
もしくはそれとなく紛れて此方の目を盗んで使用済みの包帯などを奪ったか。なんにしてもこの奥院に協力者がいるだろう。探させる。だが……。
「まずは術者を始末するのが先です。祭器を破壊しなければ安心できません」
厳しい様子のユリシーズに私も頷く。それにも理由がある。
現在、脇腹に巣くっていた蛇精は取り除いた。だがまだ胸に埋まっているという蛇精はそのまま。下手に刺激すればロイの命はない。
此方が蛇精を一匹確保したことが術者に知れれば一気に殺しに掛かる可能性もある。その前に確保し、祭器を始末する。
そして術者の隠れ家を漁り依頼主を確定させ、叔父上に取り押さえてもらう。そういう手はずだ。
「明日か?」
「その予定で。術者の方は私とユリシーズに。依頼主の確保は第二騎士団に。セナ、トモマサはロイについてもらい留守番。護衛にクナルを」
「了解だ」
さて、大一番。
必ずこの愚か者共を引きずり出し、命あることに絶望するほどの苦痛を味わわせてくれる。
▼智雅
目が覚めた時、部屋の中は薄らと暗かった。
室内を見回したらソファーでクナルが寝ていて、俺は驚きと同時に申し訳ない気持ちになってしまった。
昨日のことはギリギリ覚えている。だからこそ最初、もの凄く慎重だった。噛まれた手が動くかが一番心配だったけれど、無事だった。手をにぎにぎして、力もちゃんと入るのを確認してゆっくり起き上がるとクナルの白い耳が動く。そして、閉じられていた薄青い目が俺の方を見た。
「起きたのか」
「うん」
「おはよう」
「あっ、おはよう」
大きな手が伸びてきて、俺の頭に触れる。髪を撫でて整えてくれている感じだ。




