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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
1章:おまけのお兄さん?
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45話 黒い陰謀(12)

 それを考慮して自分のバッグから取りだしたのはブルーロブスター三匹。宿舎の方で下茹でだけはしておいた。


 包丁でグッグッと縦半分に割っていくとプリッとした白い身がパンパンに詰まっている。弾力も押し返してくるくらいに強い。


「美味しそう……」


 思わず出てしまった声にクナルが頷いて、途端に空腹を感じて苦笑い。料理人がこれじゃダメだろうが。


 そうなると味付けだ。

 スープをあっさりの塩味にしようと思っているから、此方は味噌がいいだろうか。

 味噌の壺を出して少し味見。鍋に取って少量の酒を加えて弱火にして、丁寧にヘラで伸ばしていく。


「それなんだ?」

「味噌を伸ばしてるんだ。このままだと塩っぱいから酒を足して火にかけて混ぜて馴染ませると同時にアルコール臭さを飛ばしてる。こうすると味噌がまろやかになって、酒のコクも出るから美味しくなるんだ。甘みを足したい時には砂糖を少し入れたりもするかな」


 ただ、今回は素材の旨味を大事にしたい。砂糖で味なんて足さなくてもこれで十分。浜で網焼きするなら寧ろ味噌もいらないんだけどなぁ。


 十分に味噌が馴染んだら火から下ろし、半分に割った海老の断面に塗ってオーブンに。一度下茹でしてあるから味噌が焼けて殻の香ばしさが少し出るくらいでいい。


 こっちを待つ間にスープの仕上げ。味を見てほんの少し醤油を入れる。色が付かないくらい少しでいい。それだって香りが立つ。更に味見をして塩とコショウで調えたら完成だ。

 我ながら、シンプルに美味しく出来た。玉ねぎから甘みが出て、ホタテ、昆布、椎茸からは濃厚な出汁。人参の素朴さもいい。


 その間にオーブンから味噌の焼ける匂いが厨房へと広がっていった。


「おい」

「あぁ、美味そうな匂いが」


 さっきまで見下した感じだった人達からどよめきが起こる。そして一番近くにいるクナルが眉間に皺を寄せて腹をさすった。


「あんたの料理は匂いだけで腹が減る」

「ははっ」


 嬉しいけれどクナルは恨めしい顔。なんか、ごめん。


 出来上がったものを器に入れて、これに昨日焼いたクロワッサンを添えた。

 気持ち的には米かパスタなんだけど、どっちも今すぐに準備はできないんだよな。


「あの、出来上がったんですけれど……」


 ここから先は?


 戸惑う俺の側でクナルが備え付けのベルを鳴らすと、しずしずとした様子で数人のメイドさんと執事のような人が来て、丁寧に礼をしてくれた。


「出来上がったものは我等の方で運ばせていただきます」

「あっ、はい。お願いします」

「その前に私の方で毒味をさせていただきますので」


 執事が丁寧に言った、その言葉を遮るように大きな声がした。


「その毒味、俺にさせてくれ!」


 それはさっきの厳つい人だ。目を大きく開き興奮した様子でドシドシ近付いた人が海老の皿を持ち上げ匂いを嗅ぐ。


「嗅いだことのない匂いだ。だがこう、美味そうだ」


 フォークとナイフを手に取り、器用に殻から身を剥がして豪快に一口。途端に表情が輝くのが分かった。


「美味い! 塩っ辛いのかと思ったらそうでもなくて、身に香ばしさと旨味があって、噛めば甘みが」

「料理長狡い!」

「俺も喰いたい!」


 ブーイングを受ける厳つい人がそれでも皿を死守している。これに執事が驚いて、次には苦笑した。


「確かにこれは、美味しそうですね」

「あはは。あの、スープも」


 と声を掛けた瞬間に器が消えてゴクゴク飲まれていく。


「くあぁ、うめぇ! あの板みたいなのがこんな旨味になんのか!」

「はい」

「なぁ、使い方教えてくれ。これは化けるぞ」

「! はい、是非!」


 その後、クロワッサンも美味しくいただかれて安全は担保された。全てを味わった料理長が晴れやかな顔で俺に手を差し伸べて、俺はそれに応じた。


「料理長のバルだ。さっきは悪かったな」

「マサです」

「昨日いきなり、暫く殿下とロイ殿の食事は不要で、違う料理人に任せたって言われてよ」

「あ……」


 殿下、その言い方はダメだよ。皆プライドあるんだから、事情とか色々話さないと。

 でも、悪い人じゃないみたいでほっとした。


 執事やメイドが丁寧に料理を運んでくれるその隣にクナルと一緒についていく。ノックをするとすぐにユリシーズが中に入れてくれて、食事はロイのいる隣室へ。そこに用意されたテーブルに色々と並んだ。


 クローシュが取られると途端に広がる香り。出てきた料理にも皆が喜んでくれた。


「美味しそう! 久々のお兄ぃのご飯だぁ」

「こら星那! その前にロイさんに」


 ベッドから起き上がれないロイを助けてベッドヘッドに背を預けるように起こしてあげて、殿下がスプーンで少しずつ食べさせていく。意識があるから少しなら具材も食べられる。玉ねぎや細かくしたホタテなら喉に引っかからないだろう。


 一口飲んで、ぱっと表情が明るくなった。それを見た殿下がとても嬉しそうに笑った。


「美味しいかい?」


 それに答えたくても声が出ないんだろう。もどかしそうにしながらも頷いて、少し具も食べて。

 元気になってもらいたい。助かって欲しい。あの蛇が取れたら大丈夫な気がする。そんな思いを込めておいた。

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