44話 黒い陰謀(11)
とはいえ、古いがコンロとオーブンが使える。これは上々だ。後は食材だけれど……。
示された場所にあるのは両手で持ち上げられるくらいの木箱だ。蓋には薄紫の魔石がついている。ってことは、これもマジックバッグみたいな効果があるんだろう。
恐る恐る触れると目の前に食材一覧が小さなアイコン付で表示された。
それによると中には芋や人参、玉ねぎといった基本の野菜は入っている。他にも小麦粉と調味料は一通り。
淡々と確認をしていく俺。だが次のページに表示された物を見て、俺は思わず声を上げた。
「どうした!」
「これ……これ!」
知っている稲のアイコンと、その下にある「米」という文字に俺の目は輝いた。興奮で胸が苦しいくらいだ。
グエンに聞いても分からなかったから、ないかもしれないと思っていた米なんだ。日本人の心なんだ!
興奮気味に箱に手を突っ込んで「米!」と心の中で叫ぶと確かに手の平にサラサラした感触がある。取りだしてみるとふっくらと丸い米が確かにあった。細長いインディカ米ではない、粒の大きい日本米だ。
「米!」
「おい!」
「だって、米だよ! これだよやっぱり!」
香りもいい。粒もしっかりしている。精米は甘いから分類としては玄米だけれどこっちの方が栄養価は高い。
どうしよう、興奮する。
そんな俺を見て、背後にいたこの厨房の人達が笑った。
「あれって、東の国から押しつけられたやつだろ」
「食えない物を見てあの興奮のしようって」
……え? 調理方法が分からない?
俺にとってのカルチャーショック。食べられないってどういうこと!
「クナル! これって獣人の人達は食べられない成分とかなの?」
「あぁ? いや、そもそも見たことないけど……基本、食ってヤバイ物は普通に食えない。毒があるとか」
「うーん」
念のため鑑定眼を使ったけれど「可食」とある。ってことは、食べられる。
そういえば東の国の食べ物って、グエンも調理方法が分からなくてしまい込んでたな。そもそもの調理方法が伝わってないのかも? レシピにお金を払う文化だし、そこまでして食べる必要がなかった?
何にしてもこれを使わない手はない。だが、玄米なら事前に水を吸わせてやらなきゃいけないから直ぐには食べられない。後のお楽しみにしよう。
一旦米をしまった俺は更に中を確かめて、更なるお宝を見つけた。昆布である。これも東国の食べ物らしく沢山余っていた。勿体ない。
取りだしてみても肉厚でしっかりしたものだった。
「それ、なんだ?」
「昆布だよ。知らない?」
「海臭い」
「酷い言いよう」
でも……うん。これは使えると思う。
頷いて立ち上がり、取りだした昆布一枚を適当な大きさにして水を入れた鍋に入れておく。このまま戻るまで放置だ。
「それ、食えるのか?」
「食べもするけれど、旨味が出るんだよ」
「旨味?」
首を傾げるクナルに玉ねぎと人参、椎茸を箱から出してもらいそれらを切っていく。椎茸は軸を外して、玉ねぎは少し食べ応えがあるように厚めに。人参は……せっかくなら飾りがある方が華やかだからお花にしようか。
包丁を振るう俺に視線が集まっている。少し後ろからクナルが覗き込んで、人参を花にする俺を見て面白そうにした。
「器用だな」
「ありがとう。星那がさ、小さい時人参嫌いだったんだ。でもこうして可愛くしたら食べてくれたから」
それが嬉しくて色んな花を作ったな。桜や菊、梅なんかも。
剥いた皮は一応とっておく。これだって立派に出汁が出る。捨てるのは勿体ない。
そうしている間に昆布が戻ったから、弱火にして旨味が出るのを待っている。少しずつ香る昆布の匂いに懐かしさが込み上げてきた。
「なんか……いい匂い?」
「昆布は旨味の塊なんだ。こうして丁寧に水で戻して、弱火で旨味を出していくと深みが出てくる。調味料で付ける味とはまた違ったものがあるんだよ」
徐々に鍋肌から細かい泡が出てくる。それが徐々に水面を騒がしくした所で昆布を引き上げバットへと置いた。
「捨てないのか?」
「勿体ない! 水気を取ってマジックバッグに入れておけば二番だし取れるし、その後は煮物に入れたりして食べられるから」
時間経過がないのは有り難い。菌の繁殖もないってことだから。
鍋に玉ねぎ、椎茸、人参を投入。そこに更に海鮮の旨味を投入するためにホタテの貝柱を手で千切って入れた。全部から旨味が出る事間違いなし!
一度沸騰させて灰汁を取ったら弱火にしてじっくり。
その間にメインになる料理だ。ロイは無理かもしれないけれど、殿下や星那、ユリシーズにクナルに俺はスープだけじゃ足りない。
「あっ、一つ余分に作れよ」
「え?」
「毒味用」
「おぉふ」
そっかー、そういうのあるんだね。知識としてはあるよ。気分的には抜けてたけれど。




