40話 黒い陰謀(7)
馬車が到着したのは大きなお城の後ろにある建物だった。
白壁にエメラルド色の屋根のお屋敷は大きいけれど派手さはなくて、綺麗に刈り込まれた前庭の低木には可愛らしい花が咲いている。
落ち着いた温かい雰囲気のある場所に少しほっとして馬車を出ると、途端に戸口にいた二人の騎士が近付いてきた。
「名を名乗れ」
「え! あっ、相沢智雅です」
高圧的な声音にドキリとして答えると、騎士の一人が頷く。その口元には嫌な笑みがあった。
「ここより先は王族の住まう奥院である。別室にて身体検査を行う」
「あぁ、はい」
「裸になって隅々調べる決まりだ。後はマジックバッグの中身も全て改める」
「え!」
裸って、そんな! 精々服の上から触って確かめるものだとばかり。それに、マジックバッグには食材も色々。
「おい」
オロオロする俺に高圧的な騎士。そんな彼等を威嚇する声がして、グッと肩を抱き込まれて引き寄せられた。
並んだクナルは明らかに不機嫌だった。鋭い薄青い瞳に隠さない気配。ビリビリした感じが肌にまで伝わってくる。
「俺達は王太子殿下の要請でここにきている。話がいっていない訳はないだろ」
「規則だ!」
「いいえ、規則ではありません」
焦った様子で反論した騎士達に冷たい声がかかる。馬車を降りたユリシーズが知らない暗い表情で睨み付けていた。
「ルートヴィヒ様の勅命により、両名の身体検査及び、荷物検査は不要と通達がされている。そうでなくても裸にしてなどと、尊厳を無視した方法は禁じられているはずだ」
「っ!」
「報告をさせてもらう。名を名乗れ」
暗く冷たい声音はただの威嚇よりも怖い。そんな様子で一歩前に出るユリシーズに気圧されて、騎士は後退って逃げるようにその場からいなくなった。
ほっと息をして、背後の二人を見る。クナルはまだ怒っているけれど、ユリシーズは申し訳なく目尻を下げて頭も下げた。
「すみません、着いて早々にこのような不快な思いをさせてしまって」
「あぁ、いいえ」
「後で必ず報告し、しかるべき処罰を与えますので」
「あの、そんなに気にしないでください」
俺、ど庶民だから寧ろ怖いよ。処罰とか余計に恨み買いそうだし。
でもクナルは当然と腕を組んだ。
「あいつら、あんたに恥をかかせるつもりだったんだぞ。それどころかマジックバッグの中身を漁って盗みも考えてたかもしれん」
「貴重品は全部クナルに預けてあるから、俺のには何もないのにね」
実際に食材と着替えくらいしか入っていないのだ。
何にしても無事に扉を潜ることができた俺は感嘆の声を上げてしまう。
入って直ぐに広い、大広間って呼べるスペースがある。シャンデリアや調度品があって、真正面の階段は優雅な曲線を描く二股になっていて上の方で一つになっている。
「まずはお部屋に案内します。どうぞ」
ここに足を踏み入れるのは気後れする。連れられて正面にある階段を登り歩いていく。向かって右側へと進んでいくと個別の部屋が並ぶ廊下になっていた。
案内された部屋は十分すぎる広さで少し気後れしてしまう。
一人で寝るには大きいベッドは見るからにふかふか。ソファーセットに食器棚。その食器棚の中にはティーセット一式。ランプの置かれた机は明るい窓の側にあって、背後には重厚な本棚もある。
「え? ここに俺だけ?」
「クナルの部屋は隣にあります。内扉で繋がっておりますので」
「分かった」
平然としているクナルとは違って俺はこの広さ、落ち着かない。騎士団の部屋の二倍はあるんだ。
「あと、トモマサ殿には鍵を預けますね」
「あぁ、はい」
でも、扉に鍵穴なんてなかったよな?
改めてチラリと見てもドアに鍵らしきものは見当たらない。首を傾げているとユリシーズが俺の左手に両手で触れた。
左手の甲がふわっと温かくなって青白く光る。その光の中に星形の魔法陣が浮かび上がったかと思ったら手の中に吸い込まれていった。
一瞬、左手の甲にその紋章が浮かび上がったけれどすぐに消えてしまう。感じた熱も引けてしまった。
「これで、この部屋はトモマサ殿しか開けることができなくなりました。扉に触れるだけで鍵が開きますのでご安心を。鍵を掛けるときも一定の距離を離れるか、『閉じろ』と命じればいいだけですので」
「わぁ……すごい」
生体ロック、しかもオート機能付きだ。鍵の閉じ込め事故も起こらない。
思わず自分の手をにぎにぎ。魔法、本当に凄いんだな。
「クナルは後で自分でかけろ」
「分かっている」
此方は分かっているのだろう。さっさと自分の部屋に行って、同じようなことをして戻ってきた。
改めて殿下の私室へと案内されている。あてがわれた部屋から更に奥に行くと綺麗なレリーフの施された両開きの扉が現れる。
ユリシーズはノックをして、すぐに部屋から応答があり、そこを押し開けた。
広い私室はすぐに応接用のソファーセットがあって、その奥に仕事用らしい大きな机。背後は沢山の明かりを取り込む大きな窓だ。
その仕事用の机に殿下は座っていたのだが、俺は何故か横合いから飛んできた誰かに突進を食らった。
「お兄ぃ!」
「星那!」
軽く吹っ飛びそうになってクナルに受け止められた俺は、突如飛びついた妹に驚いた。元気そうにしているし、顔色もいい。服装も可愛いドレスだ。




