37話 黒い陰謀(4)
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手元には膨大な支度金と貴重らしいマジックバッグ。それを前に唸る俺の側にはグエンとクナルがいる。
「まずはマジックバッグに持ち主登録をしておこう」
「持ち主登録?」
それはなんだい? もう色々とありすぎて許容量を超えるんだけれど。
泣きそうな俺を気の毒そうに見たクナルが、丁寧に教えてくれた。
「使用者を登録することで、その人しか取り出せないようにするんだ。盗難防止だな」
「上級のバッグじゃないとしないんだぜ。ってか、バッグ自体がかなり高価だ」
「どのくらい?」
「五〇万レギンくらいか? 金貨五〇枚だ」
それが日本円でどのくらいなのか分からないんですが、ただ高価なのは伝わった。
「……もしかして、未だに通貨が分からない?」
「分かりません」
「おいおい」
グエンが困って頭を掻いて、厨房の奥の方から何やら袋を持ってくる。そこから出てきたのは硬貨が三枚。銅貨、銀貨、金貨だ。
「銅貨一枚が一〇〇レギン。一〇枚で銀貨一枚一〇〇〇レギン。銀貨一〇枚で一万レギンだ」
なんか、ちょっとイメージ出来る。銅貨が百円、銀貨が千円、金貨が一万円。ってことはこのカバンは……五〇万円!
「……お返し」
「不可だろうな」
「無理だよ俺! こんな高価なカバン持ったことないよ!」
安物で十分なんですってば!
と言っても今更どうすることもできず、寧ろそんな高価な物を盗まれる方が痛手なので使用者登録をしろと言われて黙る俺だった。
「魔石に手を置いて、『開け』と唱えるだけでいい」
「うん」
フラップと本体の留め金の所には薄紫色の宝石がはまっている。これが魔石だ。それに触れて、言われた通り『開け』と唱えた。
途端、俺の目の前にウインドウが展開した。四角く区切られたそれは空っぽのまま。けれど突然のことに驚いて俺は声を上げてしまった。
「出てきたやつに中身が表示されて、取り出したい物を選べば取り出せる仕組みだ」
「便利……」
「直接手を突っ込んで取り出したい物を念じても出てくるぞ」
「ほぉ」
これが魔法の世界。妙に実感が湧く感じがある。このまま冒険にでも行きそうだけれど、俺は行きませんっと。
「じゃあ、準備だな。明日の昼と夜の分は準備していく方がいいぞ」
「え?」
難しい顔でグエンが腕を組んで助言してくれる。俺は顔を上げて首を傾げるばかりだ。
「あの、あっちで作るんじゃ?」
「そうすんなり行くか分からんから、念のため準備しといた方がいい。基本のスープの素と、パンと」
「え? どうして……」
「城の奴等がそう簡単に余所者を受け入れるとは思えねぇからよ」
これに、俺の胸はズキリと痛んだ。見下され、排除しようとする人達の目を思い出したんだ。
「殿下はあーは言ったがな、目のないところでの嫌がらせはある。城の厨房ともなれば皆それなりにプライドを持ってる奴等ばかりだ。余所からきたお前さんが王太子の飯を作ると聞いたら、面白くはないだろうよ」
「ありうるな。それでなくても城の中は面倒臭い。貴族派と民意派で睨み合ってもいる。マサの存在を疎ましく思う奴もいるだろうな」
「うぅ、もう自信ない……」
第二騎士団では感じていなかった色んなことが急速に迫ってきている。それだけで胃が痛くなりそうだ。
クナルが教えてくれたことによると、貴族を尊ぶ貴族派というのと、国民に寄り添う民意派というのがいるそうだ。
現王、王妃二人、王太子は民意派で広く人々の声を聞きより良い国作りをしていこうとしている。現在は此方に力があるらしい。
その影で古いしきたりや階級制度を重んじる貴族派は力を落としながらも存在していて、民意派の力を落とそうとしている。第二王子のスティーブンは此方の派閥らしかった。
「厨房は派閥争いとは違うとは思うがな」
「どっちにしても準備をしておいた方がいいってことですね」
まだ行ってもいないのに気が重たい。胃がやられそう。俺の精神もつのかな?
負けそうな俺を見たグエンはニッと笑い、ドンと背中を叩く。熊の一撃は軽く俺の内臓を揺さぶって、思わず吐き気がした。
「心配すんな! マサの飯はどこ行っても美味い! それが分からん馬鹿舌はいないだろうから、実力分かれば何も言わないだろうよ」
それだけ俺を信じてる。そういう激励を受けて俺は考え、グッと拳を握った。
何にしても備えるべきだと言われて、クナルと一緒に買い物に出た。
向かうのは国の台所とも言われる食品通り。この国の港から伸びる大きな一本道の両脇には沢山の生鮮食品を扱う店が並んでいるんだという。
「港もあるんだね」
話を聞きながらあちこち見て、俺はそんなふうに言う。隣を歩くクナルは頷いて、ぴったりと付いてくれた。
「この国は恵まれた立地で、領土としても広いんだ。港も何カ所かあるし、気候も落ち着いて平原も多い。農耕に適してる」
「豊かな国なんだね」
街中を見てもそれは感じられる。荒んだ感じはないし、物も多い。
でも、クナルとしては少し思うところがありそうだ。




