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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
1章:おまけのお兄さん?
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23話 魔力測定(6)

 そうして宿舎に戻ってくると、何やら慌ただしい感じになっていた。


「あっ、クナルさん!」

「どうした!」

「コカトリスが出たんです! 五体、町の外です」


 コカトリス。聞いたことはないが、きっと魔物だろう。

 不安になってクナルを見ると、彼は冷静に頷いた。


「今残ってる十人で対処する。状態異常対策しとけ」

「はい!」


 バタバタしながらも全員がクナルの指示に従っている。そして俺を見て、彼はポンと頭を撫でた。


「んな顔すんな。大丈夫だから」

「あの、気をつけて」


 少しだけ、胸の奥がギュッと締め付けられる。同時に俺は何もできないって、それが歯がゆく思えてしまう。分かってる、行っても足手まといだろうって。

 でも、傷ついてほしくないし危険なことは心配になる。たった一日なのに、俺はクナルにそんなことを思うんだ。


「それより、今日は美味い鶏肉が手にはいるぞ」

「え?」

「コカトリスは毒持ちの鶏の魔物なんだ。毒の処理が出来たら美味い鶏肉だ。今日の夕飯、期待するからな」

「毒あるのに食べるの!」


 なんて言うけれど、冷静になれば俺達もフグを食べる。あれも相当な毒持ちだ。


「毒の部分を予め切除しておけば肉は汚染されない。グエンは状態異常解除の魔法も使えるから、安全だって」

「そう、なんだ」


 そうまで言うなら鶏料理を作りましょう! そうなるとやっぱり……アレ、だよな。

 俺の中で真っ先に浮かんだ料理。きっとこの世界の人も気に入ってくれるはず! 腕が鳴るぜ。


「ってなことで、行ってくるな。俺が帰るまで宿舎に居てくれよ」

「勿論」


 バタバタっと忙しく団員達のところへと向かうクナルの背中を見つめ、俺は準備をすべく食堂へと足を向けた。


 食堂は流石にガランとしている。今は昼食時間だったはずなのに、全て綺麗に片付けられていた。その向こうにグエンがいて、少し落ち着かない様子だった。


「グエン」

「おう、マサ。忙しい時に帰ってきたな」

「魔物が出たって」

「あぁ」


 珍しく椅子に座って片足を気にし、時折摩っている。それを見て、俺は首を傾げた。


「どうかしたんですか?」

「いや、古傷がな。しかもコカトリスとなると、ちょっとな」


 痛い……のかな? 古い傷って時々痛むって祖父ちゃんが言っていたけれど。


「あの、痛いならリデル先生に」

「そんな大げさなことじゃないんだ。ただあいつは少しトラウマでな。あいつがいなけりゃ、俺ももう少し騎士やれたんだけどよ」

「え? グエンは騎士だったの!」


 驚きに目を丸くして問うと、グエンは少し恥ずかしそうに笑った。


「俺なんざまったくだけどな。コカトリスに足をやられたのが原因で引退はしたんだが、行くあてもなくて困ってたら厨房に雇われた。デレクもお人好しだから、俺を見捨てらんなかったんだろうよ」


 言いながら足を組み、グッと裾をめくったグエンの脛にははっきりと大きな傷が残っていた。


「日常にゃ問題ないんだけどな。戦うとなると踏み込みがやっぱ甘いんだわ。それに天候とか対峙する種類によっちゃ痛みを感じて力が抜ける。鳥系は相性最悪だ」


 既に古傷と分かる肉の盛り上がった足。色も違うし、傷の形も分かるけれど今更どうすることも出来ないそれを見ると少し怖くなる。

 魔物と戦うってことは、傷ついたり死んでしまうこともあるんだ。


 先ほどのクナルの背を思い出す。強いことも分かるけれど絶対がない以上、突然消えてしまう可能性だってあるんだ。

 また誰かが、死んでしまうことだってあるんだ。


 感じた瞬間、背中が寒くて声が出なかった。ほんの少し息がしづらくなってヒュッという音がした。


「マサ? 大丈夫か? 具合悪いか?」

「あ……」


 きっと、顔色悪かったんだろう。嫌なことを思い出したから。悲しいことを、思い出したから。

 大きなグエンの手が肩に触れる。それだけで俺はこの世界に戻ってこられて、深く息をした。


「大丈夫だよ」

「本当か? 無理すんな。今日は昼の飯もないからな」

「皆お腹空かないんですか?」

「今は平気だろう、狩りの前だしな。ただ、帰ってきて落ち着いたら一気だ。死ぬかと思うぞ。覚悟しろよ」

「あはは、それは凄そう。じゃあ、頑張ってお腹空かせて帰ってくる皆に美味しいもの食べてもらわないと」


 立ち上がった俺は食材庫に。そこにある醤油と酒と生姜とニンニク。


「おっ、今日はどんなソースを作るんだ?」

「ソースじゃないです。下味用の調味液ですよ」


 沢山持ってくるならそれなりの量が必要になる。生姜をすりおろしてニンニクも同じく。醤油、酒を味見しながら入れていって……。


「パンチが足りないかな?」

「パンチ?」


 そう言いながらファイティングポーズはどうかと思う、グエン。

 何かないかと再び食材庫に。そうして隅っこの赤いパウダーを見つけた俺は中を確認して頷いた。


「これ、唐辛子だ」

「げ!」

「?」


 俺が持ってきた物を見てグエンが嫌な顔をする。首を傾げると、彼はちょっと後退った。


「それ、辛いのだろ」

「そうですね?」

「いらん!」

「沢山使いませんよ」


 これはきっと、過去に何かやらかしたんだろうな。


 苦笑する俺にも経験がある。辛い物は嫌いじゃないからと、どこまで耐えられるかやってみたことがある。辛みというのは五味に含まれない、分類的には痛みだ。ただ人間はその痛みを刺激と取って楽しめる。が、刺激は慣れてくるとバカにもなる。結果、辛すぎて味が分からなくなって翌日腹を壊したんだ。


 作っていた調味液に少しだけ唐辛子の粉末を入れた。粉までいかず、細かく刻んだくらいのそれが入るだけで見慣れてくる。


「グエン、今日は沢山油を使いたいんですけれど、大丈夫ですか?」

「油? 好きにしていいが、そんなに使うのか?」

「揚げ物しようと思って」


 グエンが思い切り首を傾げる。もしやこの世界、揚げ物が存在しないと?


「え? 肉とか衣付けて揚げたりしないの?」

「衣? 貴族の家じゃ魚にパン粉付けて焼くらしいが。揚げ物ってのはな」

「マジか……」


 ってことは誰も食べたことがない。魚なら天ぷらも良いがアジフライ。ホタテだってサクサクの衣をつけて揚げれば中はふっくら外はカリカリの素敵なおつまみに。芋や玉ねぎだって。

 まぁ、きっとアレは匂いに逆らえないし。未知の物でも、匂いはね。


「何しようってんだ、マサ?」

「……世界をひっくり返す美味しいご飯?」

「何作るんだマサ!」


 ワーワー言うグエンに俺は笑って、添え物に芋の素揚げも作ることにして。今は夜分のパンを捏ねている。


 早く皆、帰ってこないかな。お腹空いてるだろうから、皆に美味しいご飯を食べてもらいたいな。

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