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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
2章 おまけの兄→女神の使徒
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150話 東国からの要請(14)

 また魔力が抜ける。今日は随分使ってもうそろそろ疲れた。でもおかげで、俺の見ているものを具現化出来たみたいだ。


「よくやった」


 グリッと頭を撫でたシムルドが高速で近付く。そして一撃、八岐大蛇の尾を両断した。


「くっ!」


 辛そうに顔を歪める瑞華。だが俺は見ていた。シムルドの手に何かが握られているのを。


「マサ、受け取れ!」


 ブンと投げられたそれが一直線に飛んでくるけれど、そんなのどう受けとめろって言うんだよ!

 アワアワする俺。その前に立ったクナルは飛んでくるものを余裕の表情で受けとめた。


「おい! マサに当たったらどうするんだ!」

「お前がいるから大丈夫だろうよ」

「そういう事を言っているんじゃない!」


 この二人、やっぱりちょっと似てるよな。なんて思って、俺は苦笑した。


「マサ」


 クナルから受け取ったのは古い剣だった。神話の通りならこれは草薙剣。そして、この結界の楔を破壊できる可能性があるアイテムだ!

 この剣は結界と繋がっている。浄化もダメ、物理もダメ。そして結界の楔は何をしても手応えがない。そしてこの剣は全てに繋がっていて、ちゃんとここにあると分かる存在感だ。


 受け取った剣で、俺は結界の楔を深く貫いた。一番中心になっていそうな一点。そこを刺し貫いた瞬間、黒い力が上へと急上昇して霧散する。

 瑞華を縛っていた釣り糸も消えて、彼女が前に倒れてくるのをクナルが受けとめてくれる。そこへと駆け寄り、俺は喉元に刺さっている呪いの楔を掴み浄化しながら引き抜いた。


 刺さっているものを抜くのに、そこにそれらしい感覚は伝わってこない。スルリと抜けた物が砕けて消えた。


「もう大丈夫です!」

「うっし!」


 パン! と拳を打ち鳴らしたシムルドが目の前の大蛇をあっという間に切り刻み始める。厄災級の魔物ではあるはずなのに随分呆気ないものだ。


「ん……んぅ」

「瑞華さん、大丈夫ですか?」

「……其方かえ。あぁ、平気ぞ。腕やら足やらが怠くて敵わぬが、気分は良いな」

「よかった」


 その時、ズゥゥゥゥン! という重苦しい振動が伝わった。見ると八岐大蛇はその大半の首を切り取られてしまっていた。


「ふぅ、すっきりした」

「派手だな、あのおっさん」

「シムルド兄は自分を温厚などと言うが、まったく温厚ではないのだえ」

「うん」


 やるなら徹底的にブチ殺す。そういう精神の持ち主のような気がする。


 片付いた。そう思えた俺達はほっと胸を撫で下ろす。

 だが不意に、一本残った首が持ち上がり、大きく口を開けて何かを吐き出した。


「シムルド!」


 それは胴が短く平べったい蛇だ。そしてそれが何かを俺は聞いている。犬伏を噛んだツチノコだ。

 警戒の声を発した俺に、シムルドはニヤリと笑う。分かっていると言わんばかりだ。だが瑞華がハッとして、ツチノコを殺そうとするシムルドを止めた。


「ダメじゃ兄! 其奴を殺せば解毒ができぬ!」

「なに!」


 既に殺すつもりでいたシムルドが目をまん丸にして叫ぶ。その間にもツチノコが飛びかかっていく。このままではシムルドが噛まれかねない!

 でも違う所から声がかかった。


『アイシクル!』


 俺の隣から鋭い声が飛び、氷の刃がツチノコに当たる。そこから氷漬けになったツチノコがカキーンと音をさせて地面に転がったのを見て、俺と瑞華はほっと息をついた。


「クナル、ありがとう」

「ほんに、目端の利く坊やで助かったなえ」


 活躍できないとしょげていたクナルはこれでようやく、満足げに笑うのだった。


◇◆◇


 その後、少し休んで俺達は洞窟を出る事が出来た。勿論瑞華も連れてだ。

 そうして国主の屋敷に戻ってみると、国主は前よりも状態が良くなったみたいで体を起こすことが出来るようになり、桃君は完全に毒状態を脱していた。

 洞窟の中に居て分からなかったけれど、どうやら俺達があそこに入ってから一日くらい経過していたようなのだ。


 皆瑞華が来た事に驚き、千姫は膝をついて頭を下げてなかなか上げられなかったが、瑞華の方はそれを気にもせずに笑って肩を叩いていた。

 この二人、系統が違うのに何処か似ているように思えた。


 瑞華はその後、汚染された水の浄化を行った。

 クナルが氷漬けにしたツチノコは、八岐大蛇の幼体なのだという。この幼体は成体ほど強い毒性はないが、確かに同種の毒を持っている。これから血清を作る事で現在苦しんでいる人も無事回復できるだろうとのことだ。

 同時に汚染された水源にこれを一滴垂らすと不思議と水が澄んでいく。

 試しに鑑定をしてみても、もうそこに毒性はみられなかった。


 国主の屋敷はそれは盛大なお祭り騒ぎとなり、色んな和食が振る舞われた。中でも俺が目を輝かせたのは刺身だ。


「刺身!」

「やはりお好きでしたか?」


 俺は素直に頷くが、クナルは拒否感のある目で見ている。それもそのはずで、ベセクレイドには生の魚を食べる文化がない。刺身も寿司も存在しないのだ。


「大丈夫なのか、生で」

「大丈夫だと思うよ。匂いもしないし、身も弾力があって新鮮だし」

「気になるようでしたら、こちらわさびです」

「わさび!」


 出されたのは確かにわさびだ。しかも新鮮な生わさびをついさっきおろした感じだ。


「贅沢~」


 喜んで箸でひょいっと白身の魚を掴み、刺身に少量のわさびを溶いて付けて口の中に。淡泊な白身魚は噛めば甘みがほんのりとあり、弾力があって美味しい。わさびの風味も鼻から抜けていって、本当に現代を思い出させるものだ。


「美味しい」

「良かった」


 刺身を頂いては白飯を食べる俺を見て、クナルもそろっと手を伸ばす。白身を一つ口に放り込んだ彼はしばらく咀嚼して、案外簡単に飲み込んだ。


「食べられるな」

「でしょ?」

「でも俺はこっちがいい」


 そう言って選ぶのは金目の煮付けだ。甘塩っぱい煮汁でじっくりと煮込み、身にもしっかり味の入ったそれは確かに美味しいだろうな。


「こっちで色々買って帰って、あっちでも作ろうかな」


帰りを待ってくれているだろう宿舎の皆の顔がちらついて、明日は買い物だな! なんて思う俺だった。


 その夜、俺達の部屋に瑞華が来て酒を交わしながら話をする事になった。離れの縁側は綺麗な庭に面していて、開け放てば青白い綺麗な月が見える。


「手間をかけたなえ、智雅」

「無事で良かったよ」


 お猪口に酒を入れてチビチビと飲む俺と瑞華の側で、クナルはちょっと無理をして日本酒を飲んでいる。飲み慣れないなら無理をする事はないのに、同じ物が飲みたいと言って付き合ってくれている。


「ねぇ、瑞華。間違ってたら悪いんだけど」

「ん?」

「千姫の先祖って、瑞華じゃない?」


 ずっと気になっていたから尋ねてしまった。それくらい、二人の雰囲気は似ていたのだ。お淑やかで物静かな千姫と、明るく活発な様子の瑞華では受ける印象こそ違え、パーツで見ると良く似ている気がしたんだ。

 俺の指摘に瑞華は少し驚き、次には嬉しそうに頷いた。


「妾と弥彦の子の末裔だろうの」

「そうなんだ」


 聖人と神獣の恋か。ロマンチックだな。


「まぁ、妾の寿命は長すぎて、人の寿命は短すぎた。年老いた弥彦とずっと居たくて、子を人に託してあそこに籠もってしまったのだがな」

「やっぱり、あの仕掛けを考えたのは弥彦さんだったんだ」

「左様じゃ。同郷の者ならば解けるがこの世界の者ではまず難しかろうとな。だが、少々籠もりすぎたのじゃろう。このような事態になってしまった」


 少し寂しそうにしながらチビリと飲み込む瑞華は、ぼーっと月を見ている。その横顔は見た目の幼さとは違って、大人の顔をしている気がする。


「瑞華殿、お聞きしたい。貴方にあのような術を掛けたのは何処の誰か」


 クナルの硬い声に瑞華は紫色の瞳を向け、ゆっくりと頷いた。


「黒い外套を纏う者が、社で眠る私を押さえつけて術をかけたのじゃ」

「黒い外套……ローブの事だったか。ではやはり、邪神崇拝者が」

「そうさな。だが妾の力を押さえて八岐大蛇を覚醒させたのは違う者じゃぞ」

「え?」


 虚を突かれた様子のクナルを見る瑞華は、暗く不穏な目をする。残っていた酒を一気に飲み干した彼女は空の器を見つめ、口を開いた。


「妾を封じ、八岐大蛇を覚醒させたのは天人族じゃ」

「!」


 確信のある言葉に、俺の心臓はギュッと絞られたように痛んだ。

 女神を祭る女神神殿の総本山、天空都市。そこに住むのが天人で、神殿の大神官などは皆天人だと聞いている。

 そんな者が、神獣を封じて魔物を蘇らせた。


「女神神殿と邪神崇拝者が組んでいると?」

「そうさな」

「あり得ないだろう」


 クナルもこれはきっぱりと言う。だが瑞華は小さな笑みを浮かべた。


「そも、女神神殿と冠しておるがな。あの者等が本当に女神を崇拝しているかなど分からぬぞえ」

「……どういう意味だ」

「……妾が見たのは大きな白の羽を付けた、金髪金眼の天人。だがその顔に……その目に妾は見覚えがあったのよ。よもやの者の面影が」

「それって……」


 だがそこで、瑞華は口を閉ざした。確証のない事を言うつもりはない。そんな様子で。


「何にしても、神獣を利用しこの地に害を出したとなれば女神神殿への追求も可能になる。これは一度殿下に相談すべきだな」

「止めておけ。多くの犠牲を払っても得られるものなどないぞ」

「だが!」

「それに……そうさな。そのうち接触もあろうよ」


 そう言った瑞華が俺の顔をジッと見る。何か、確信めいた様子で。


「智雅の中に姉様の魂がある限り、奴は欲しいだろうのぉ。であれば、強引にでも手に入れようとする。クナルや、しかと守れ。相性が悪く、妾から其方に何も贈り物が出来ぬのは心苦しいが、智雅にはしっかりと守りを授けた。愛しい者であれば、守ってやれ」


 既に俺の手首にあるブレスレットには真っ赤な宝石が嵌まっている。蒼旬やシムルドと同じく、何かあれば瑞華も駆けつけてくれるという。


 不意に強い視線を感じた。それはクナルで、俺の事をジッと見つめている。その様子をニヤニヤと眺めた瑞華は立ち上がり、うんと伸びをした。


「さて、行くかのぅ。世話をかけたなえ」

「千姫に挨拶しないの?」

「なに、同じ土地におるでな。これからは近く見守ってゆくよ。忌々しい楔も無くなったことだしな」


 首元をクリクリと手で撫でた瑞華がポンと庭に踊り出る。そして次にはとても美しい狐の姿に変わった。

 真っ白い肢体に九つの尾。耳と尾の先が朱色で、目尻も朱色が入ったその神獣はぱっと月を仰ぎ見てそこに向かい走っていく。天を翔る姿はやがて山向こうに消えてしまった。


「行っちゃったね」


 少し寂しくも思えて口にした。その俺の体を横合いから、クナルがグッと抱き寄せてくる。少し冷たくなっていた体が、急に温かくなった。


「俺が守る。絶対に」

「! うん」


 嬉しい。素直にそう思える。

 実際は凄く難しいと思う。殿下ですら慎重になる相手に敵対する可能性もあるのに。

 でも、信じている。実際は分からなくても俺は、クナルの側にいたいから。


「俺も、クナルの側にいたいよ」


 回された腕に手を添えて、逞しい胸に身を預けて。俺はそっと目を閉じた。

本日で東国編終了です!

読んでいただき、ありがとうございます。

注目度ランキングにも入れて、沢山の方に読んでもらえている実感がわき、とても嬉しく思います。

明日からは新しい所になります!

終盤、近付いてきましたね。

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