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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
2章 おまけの兄→女神の使徒
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146話 東国からの要請(10)

 ガコン


 何かが動く音がする。そうして次には目の前で、観音開きの扉が開いた。


 奥に続いていたのは洞窟だった。人が二人並べるくらいの広さ。岩肌がゴツゴツしていて、足元も一応平らにはしてあるが岩も小石も出っ張っている。

 明かりはない。そこへと入る前にクナルが明かりを出してくれて、それが先導してくれる。


「行こう」


 少し震えそうになる足を前へ。三人が扉を潜るとそれを察知したのか背後で独りでに扉は閉じてしまう。

 暗い洞窟はクナルの出してくれた明かりだけでは足元も心許ない。怖々と歩いていると不意に、幾つもの小さな青い炎が現れて揺らめき出して俺は心臓がすくみ上がるような気分で叫んでしまった。


「人魂!」

「あぁ、違います。俺の狐火ですので、人魂じゃありませんよ」


 見れば猿之介の周囲に本当に小さな炎が沢山ある。それは暗い洞窟内を薄青く照らしてゆらゆらっと奥へと進んでいく。


「人魂?」

「幽霊の事」

「マサの世界の幽霊はこんな形をしているのか?」


 物珍しそうにクナルが言うのに、俺は頷いた。


「弥彦様も戦場跡でこういうの見たって記録がありましたな」

「お化けは苦手だよ」


 夏の心霊番組がとにかく怖かった俺を、よく星那は笑っていたな。

 そんな風に思っていたら、俺の手をクナルがギュッと握った。


「少しは怖くなくなったか?」


 問われて、触れている手から熱が伝わって……俺は安心している事に気づいた。


「うん、大丈夫」

「そうか」


 フッと小さく笑う顔を見て、俺はそこから勇気を貰える。臆病な気持ちも、弱虫も、クナルがいると頑張ろうって思えてくる。


「クナルは凄いね」

「ん?」

「俺、クナルといると怖くないんだ」


 この手が俺を離さないって信じていられる。俺もこの手を離さないって言える。一人では進めない道も二人でなら行けるんだって、思えるんだ。


 洞窟は真っ直ぐ進んでいる。空気は熱いけれど不思議と息苦しさはない。


「俺、何もしてなくても大丈夫だ」

「女神の加護だろうな。俺は膜を解いたらヤバい」

「俺は天狐族なんで、炎耐性が高いから平気ですけれど」


 それぞれこのまま進めるらしい。そうしている間に、俺達は少し開けた場所に出た。


 少し広くなったそこには二つの扉があるが、今は両方が閉じている。そしてその扉の中央前辺りに何か台が設置されていた。

 近付いてみるとそこにはちょんまげをした男の顔があり、目の部分が漢字の「水」になっていた。


「なんだこれ?」


 クナルが思い切り変な顔をする。猿之介も覚えがないようで首を傾げる。

 でも俺はこれを多分知っている。昔のとんち遊びというか、そんな感じだ。この絵は何かの言葉を表している。


「目が……この文字なんだ」

「漢字ですな。弥彦様がこの地に伝えたもので、元はあっちの世界の文字らしいです」

「そうなのか」


 クナルは興味深げに絵を見ているが、これが解ける気配はない。

 なるほど、だから同郷の者には解けるんだ。これはきっと日本出身の者じゃないと意味が分からない。漢字が読めた所でだ。


 そうなると俺が解かないと。水……目。目水……水が……!


「水瓶!」


 大きな声で叫ぶと、左の扉がズズズ……という重い音を立てて開いて行く。その先はやはり先程と同じ真っ直ぐな洞窟の通路だ。


「正解なのか?」

「分からん」

「とにかく行こう!」


 開いたのならばそこを進む。大丈夫、多分あっている。


 扉を行くと先は真っ直ぐ一本道。迷路と言っていたから警戒したけれど、どうやら迷路というよりはさっきのなぞなぞで行く先が変わるんだ。


「マサ、さっきのはなんで水瓶になったんだ?」

「え? あぁ。目の所が「水」って文字になってただろ? 水が目になっているから」

「水瓶か。言葉遊びみたいなものか」

「俺の世界のなぞなぞみたいなものなんだよ」


 そしてきっとこの仕掛けを作ったのは弥彦さんだろう。天狐族の猿之介が分からないなら、弥彦さんはあのなぞなぞの解き方を教えていない。それをここに散りばめた。

 もしかしたらこの先に、行かせたくないのかもしれない。そんな気がした。


「マサ」


 不意にクナルが何かを考えている顔で名前を呼ぶ。そちらを見ると、彼は真剣な様子で俺に聞いてきた。


「あんたの名前も、さっきのカンジっていう文字なのか?」

「え? うん、そうだよ?」


 突然で驚いた。獣人国では漢字は使われていないから気にしていなかったし、俺も何かを書く時に漢字で名前を書いていない。何故か日本語で書いているつもりでも、こっちの世界の文字に置き換わるんだよね。

 でも名前は違って、最初の頃に漢字で書いたらそのままで、誰も読めなかった。


「今度、教えてほしい」

「え?」

「ここにきて、俺はあんたの事を何も知らないんだって分かった。家に上がる作法や、箸という道具の使い方。あんたの名前の、本当の形。好きだって言って、受け入れてもらって浮かれて、情けないだろ。そんな大事な奴の事を知らないままなんて」


 情けないって、クナルは言ってばつの悪い顔をする。

 でも俺は、その気持ちだけで胸が一杯になってくる。知りたいって思って貰えただけで、胸の奥はジンと痺れたみたいになる。

 嬉しいも度が過ぎると、きっとこんな風に感じるんだろう。


「うん、教えるよ。俺も知ってもらいたい」


 そして俺も知りたい。クナルの事、色々と。


 その後も扉の前には台があって、なぞなぞを答えるとどちらかの扉が開くを繰り返した。普段こういう所で役に立たないから今回は役立とうと張り切る俺に、クナルや猿之介は素直に拍手をくれた。


 そんななぞかけを十くらい通過した頃、一本道の先が急に大きく開けて見えた。そしてそこから一気に熱気が押し寄せてくる。

 肌を焼くような熱さは俺でも少ししんどい。喉まで焼けてしまいそう。


「っ!」

「クナル!」


 水の膜を張っていたクナルがグッと苦しそうな顔をする。それに俺は慌てて近付き、通路の端へと座らせた。


「こりゃ、なかなか厳しい」


 猿之介も目を細めて奥を見る。

 開けた先は赤く光っている。平らな地面が中央に広くあり、そこに小さな社がある。だがこの陸地をぐるっと囲うのは真っ赤に溶けたマグマだ。


「クナル殿じゃ環境と属性の相性が最悪だ。ここは俺が」


 そう言うと、猿之介は一人で開けた先へと向かってしまう。慌てて止めたけれど遅かった。

 陸地とマグマの間は、多分獣人にはそれ程苦にならない幅なんだろう。猿之介も易々と跳び越えて、謎の社へと駆け寄っていく。だがその途中で何かが見えたのだろう。驚いたように足を止めた。

 その時、周囲のマグマが突如不自然に盛り上がり始めたのだ。


「猿之介!」


 叫んだ俺に驚き、次に猿之介は更に驚いて動けなくなった。

 マグマの中から現れたのは巨大な蛇だった。八つの頭と赤い瞳、胴は太く長いそれは昔おとぎ話に出てきた化け物そのものだ。


「八岐大蛇」


 余りの迫力と圧迫感、そして恐怖に猿之介はまったく動けない様子でいる。その間にも目覚めた八岐大蛇は彼の顔を見ようとしたのか、食べようとしたのかズッと顔を寄せている。


「猿之介!」

「!」


 苦しそうなクナルの叫びにハッとした彼が身を翻す。こちらへと逃げるそれを、巨大な蛇が地響きを起こしながら追ってくる。そして、口から何やら紫色の塊を吐き出した。


「いっ! がぁ!」


 直撃などしていなかった。よく見えなかったけれど、多分地面へと当たった飛沫が僅かに触れただけだ。それでも悲鳴のような声を上げた猿之介は右足を庇い転がる。

 そこへ、絶望と共に八岐大蛇は迫った。


「クソ!」

「クナル!」


 苦しそうにしながらもクナルは歯を食いしばり一気に駆けていく。グングンと遠ざかる背。それを追いかける力は俺にはない。追いつけないし、行っても足手まといでしかない。分かっている。分かっているけれど!


 気づけば俺も走っていた。足元のゴツゴツした場所で滑りそうになりながら、ちょっと走っただけで息を切らしてそれでも! 俺は、ただ見ている事しか出来ないかもしれないけれど。


 開けた先は思ったよりも高い位置で、クナルはマグマを跳び越えて下の陸地へと無事に降り、迫る巨大蛇の横っ面を思い切り蹴り飛ばしていた。

 何かのアニメや映画みたいに鋭い蹴りが蛇の形を一瞬歪め、ドサリと首の一本が地面に転がる。その隙にクナルは猿之介を抱えてこちらを目指して走り出した。

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