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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
2章 おまけの兄→女神の使徒
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143話 東国からの要請(7)

「年のいった者は特に信仰心が厚く、数日に一度は参っております。それら老人に連れられて子もまた。ですが、妙なのです」

「妙?」

「私もその湧き水を口にします。ほぼ毎日。私はこの国の姫であると同時に、天狐様を奉る神子。いずれ神社へと住まいを移し、そこで過ごす身です。お勤めの度にその水を頂いておりますが」

「症状がない?」


 これに、彼女はコクンと頷く。

 彼女だけではなく、雉丸や猿之介、他にも複数名が同じように水を飲んだが平気だったらしい。


 そうなると平気なんだろうか……。

 でも、それしか共通点がないとなれば。


 ふと見ると、姫は顔色を悪くしている。それにもっとちゃんと見れば目の下に薄らと隈も出来ている。表情は暗くなってしまった。


「父様は現在、危篤状態です」

「え!」

「弟と、もう一人の側近も。高熱がもう二日引かず、食べる事も飲むこともままならなくなってきているのです。このままでは皆が……」


 今にも泣き出してしまいそうな千姫を見て、俺はそっと側に行く。そして、硬く握られている手にそっと触れた。


「頑張ります」

「っ! ありがとう、ございます」


 気丈に笑った彼女の目から、ほんの少し涙が散った。


 そうなると真っ先に向かうのは彼女の父と弟、そしてもう一人の側近のところだろう。

 千姫にお願いして連れて行ってもらったのはまた別の棟。王族やそれに近しい者が療養する場所だという。


 雲龍の襖を開けた先に寝ていたのは、がっちりとした体つきの男性だった。

 年齢は五十代だろうか。黒く短い髪に黒い狐の耳。顔立ちは精悍という感じで、威厳のある男性だった。

 けれどとても苦しそうだ。肌は発熱からか上気していて、息は浅い。肩幅とかはしっかりしているのに、病気で痩せてしまったせいか筋肉などが落ちてしまっている。


「父上」


 そっと手を握る千姫の不安げな顔。それを見て、俺は横に腰を落ち着けた。


 まずは原因が分からないと駄目だ。目に集中して鑑定眼で男性を見る。すると途端に黄色いアラートがついた。


「わわ!」

「どうされました!」

「あの、いえ。えっと……え?」


 黄色いアラートの下には『毒』とある。種類には『八岐大蛇』


「八岐大蛇の毒?」

「っ!」


 これに、千姫の顔は見る間に真っ青になって倒れてしまった。それをクナルが支えたが、次にはさめざめと彼女は泣いた。


「そんな……それではもう、助からない」


 打つ手はないのだと泣く彼女を見て、俺はどうにか出来ないか考える。

 解毒の魔法……って言っても、俺は魔法らしい魔法は使えない。毒って、どうやって排除するんだ? 出せばいいんだろうけれど……。

 水から摂取した毒なら、飲ませるのがいいのか?


 辺りを見て、不意に吸い口が見えた。俺はそれを手にして念じた。とにかく出す事を考えるなら水分として出ないか? 例えば尿とか汗とか。この水で毒を吸着したまま体の外に無理なく出せるように……。


「よし!」


 とにかくやってみるしかない。完全じゃなくてもいいんだ。せめて意識が戻って食事が出来るくらいまでやれれば。


 クナルに男性を起き上がらせてもらい、吸い口を当てる。少しずつ飲ませていくとちゃんと喉が上下するのが分かる。


「これで上手くいってくれれば」


 思ったのは油の吸着シートみたいな感じだ。今飲ませた水に毒を吸着してもらう。

 けれど結果が出るのは少し時間がかかるかもしれない。

 ひとまずはそのままにして、次に千姫の弟と側近がいるという部屋に向かった。


 雲龍の間から少し離れた場所に、白い牡丹の襖がある。そこを開けた千姫は、中にいた雉丸へと視線を向けて頷いた。


 眠っていたのはまだ八歳くらいの少年と、二十歳過ぎと思われる男性だった。

 少年の方は黒いサラサラの髪に黒い耳の子で、苦しそうに息をしながらも僅かに瞼を持ち上げてこちらを見て、薄く笑みを浮かべた。


「姉様」

「桃」


 呼ばれて側へと急ぎ向かった千姫がギュッと手を握る。それに少年はとても嬉しそうな顔をした。


「大丈夫です、姉様」


 苦しいのだろうし、顔は真っ赤だ。それでも健気に姉を心配する様子に、俺は知らず泣いてしまっていた。


「マサ」


 クナルがハンカチを出してくれて、それでグッと涙を拭く。こんな事をしている場合じゃない。やれるだけ、やらないと!


 もう一人の男性は完全に意識がない。それに加えて黒い靄が体を覆ってしまっている。鑑定眼のアラートは黄色よりも赤に近い。状態は『危篤。毒(八岐大蛇)+瘴気』とある。まずは瘴気だけでも。


 雉丸に水を貰って、さっきと同じイメージで魔力を込めていく。もうこれ以上魔力が入らないくらいまで注いで、それを桃君に飲んで貰った。

 俺は男性の側に腰を下ろして、傷がありそうな袖をめくった。


「うっ」


 左の腕は袖をめくる前から変色した部分が見えていた。けれどめくるとより深刻だった。


「酷いな。腐ってやがる」

「直ぐに治療しないと!」


 傷があったのだろう部分は肌が黒く変色して沈み込み、触れれば蜜柑が腐った時のようにグジュグジュになっている。


「もう、腕を落とすしかないのです」


 そう、雉丸は苦しそうに言って男性の頭を撫でた。


「この者は侍なのです。左腕を落としても命が助かるかは分からない。助かっても、もう侍としては死んでしまう。己の使命に誇りを持っている、そんな男なのです」


 俺は、躊躇っていた。多分女神の力を使えばこの部分を再生させる事はできる。シムルドを蘇生させた時の感覚は覚えている。

 でもそれは、もはや人の力の範疇を超える。聖人だって度が過ぎれば化け物だ。俺自身、この力は怖い。

 でも……救えるものがあるんだ。


「クナル、悪い部分を綺麗に取り除く事って出来る?」

「……わかった。姫、何か目隠し出来る物はありませんか? ここからは幼い子に見せるにはあまりに酷だ」

「衝立を置けばいい。私がやろう」


 雉丸が動いてくれて、部屋の端にあった衝立を間に置いてくれた。


 腕の部分の下に耐水性の布を敷いて、俺はグエンの時に使った麻酔を部分的に魔力として流して、クナルは小刀を持って壊死した部分を取り除いていく。


「うっ」


 やっぱり怖い。肉が見えて、骨まで達していた。手首の近くまで広がってしまっていた。

 でも、目を背けるのはダメだ。俺がクナルにお願いしたんだから、逃げたらダメなんだ。


「あらかた取った。酷いな」


 肘から手首にかけての部分が大きく抉られた状態で、血も何処か黒く感じる。瘴気は薄くなったけれど完全に取れていない。

 深呼吸して、気持ちを整える。ダメになった部分を綺麗に、元通りに。足りない部分に魔力を注いで周囲の組織に働きかける。悪い物を消して、本来そこにあったはずの状態に戻すんだ。


「再生されていく……」


 信じられないものを見る目で雉丸は男性の腕を見ている。

 それにしても魔力が入っていかない。体の瘴気がまだ強いんだ。一緒にそれも浄化して……。


「っ」


 少し苦しい。それに、毒も血を綺麗にする時に濾過しているけれど、俺がそれを受けとめきれていない。

 もう少し。もう少しで。ゆっくりと魔力を込めて……。


 その時、ポンと肩に触れる手があった。


「大丈夫だ、俺もいる。魔力足りてるか?」


 触れられた所から、ジワリと体が温かくなる。頼もしくて、嬉しくて、勇気が貰える。だから、笑う事が出来る。

 深呼吸をして、更に魔力を込めていった。瘴気も毒も自分の体をフィルターにして。怖くないと落ち着かせたらこれ以上入らないと思っていた悪い物を受け入れる事ができた。息が上がっても、苦しくても、助けると決めたなら最後までやりたいんだ。


 金色の魔力が光っている。俺を支えてくれるクナルから力を貰えている。綺麗な肉が盛り上がって、黒かった血が徐々に赤くなって、瘴気が消えていく。


「ふぅ……」


 全身汗だくになりながら、俺はどうにかこの人の治療を終えられた。でも、完璧とはいかなかった。

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